春よ恋

7月竜

「大佐、お年玉くれ」
「鋼の…どうしてここに?誰が勤務日を?いや、それより何故私が鋼にお年玉をやらねばならんのだ?第一今職務中だ!」
混乱がありありと伺える呟きを吐きながら、ロイ・マスタングは頭を掻いた。どうやら仕事は捗っていないらしい。
「新年のご挨拶に。出勤されている事は大総統から年賀状で連絡があって…。お忙しいところを済みませんでした」
エドワードの後ろから聞こえた申し訳なさそうな声に、ロイは条件反射で笑顔を向ける。
割り込むようにエドはずずぃとロイの机に身を乗り出した。
「お年玉」
つきつけられたのはエドの右手で、ロイは叩くのを思い留まった。
「だから何故私が。君は軍に属し研究費も支給されているだろう。給料貰ってる輩にお年玉や御小遣いは全く不用!それ以前に税金を払え。アルフォンス君、君は子供だからお年玉をあげよう。あとで私の部屋に」
「っざけんなッ。」
ドンとテーブルが揺らいで机の上にあったコーヒーカップから中身が零れる。
「兄さん」
大きな鎧がそっとエドの肩を抱き、自分横まで下がらせるのを、ロイは目を細めて見守った。不承不承エドが大人しくなると、アルはロイに向き直り丁寧にお辞儀をする。
「大佐、新年明けましておめでとうございます」
「おめでとう、アルフォンス君。今年は戻れると良いね。」
「ありがとうございます。大佐も中央勤務、頑張って下さい」
「ホントにそう思うんなら協力しろッてんだ」
頭上で交される挨拶にエドがブツクサのたまう。
何時もなら聞き流すようなセリフに、珍しくロイは反応した。
「勿論協力だって惜しまないさ。アルフォンス君を戻す為ならv」
ブチッ
「てめぇこの野郎、表へ出ろッ」
「に・兄さん?どうしたの!?」
語尾のハートマークにアルフォンスは気付かない。突然机に飛び乗りロイの胸倉を引っ張り上げているエドに、アルも今度は力を入れて腕を回した。
「兄さん、大佐は勿論兄さんが元に戻る事を大前提に言ってるだけだよ。僕が戻れば兄さんだって」
エドの腰に手を回し引っ張っていたアルは、急にエドが手を離した為、抱え込んだまま後に倒れた。
「兄さん、急に手を離すなんてひど…」
「お前が元に戻ると、俺がなんだって!?」
滅多に聞かない兄の不機嫌な声に、アルは口篭もる。
「もっと…自由に
好きな事とか…」


ゴンっと空虚な音が響くのに眉を顰めながら、ロイはアルからエドを引き剥がした。
「あれだけ大事に思われてるのに未だ何が不満なんだね!?」
業とらしくアルの冑が凹んでないか確かめるロイの手を、エドの左手が弾いた。
「やれやれ、お子様だな」
「…だから御年玉くれ」
「そこに行きつくかい。ま、お年玉はやらんが、協力はするぞ。早く戻って軍の仕事にも協力して貰わなければならんからな。そのナリではなにかと不自由だしな」
「本音は?」
「理由がなくなればアルフォンス君を縛っておくわけにもいくまい?」
小声で耳元に囁いて素早く避ける。その残像をエドも今度は遠慮なく右手で切り裂いていた。
そこへ
「やぁ諸君、ウォームアップはできとるようだね」
「大総統〜!?」
「うむ、あけましておめでとう。早速新春隠し芸大会をやってもらおうか」
「は?」
奇妙な沈黙が執務室を包む。
『年賀状に集合日時が書いてあったのは…』
『ちっ、お年玉はエサかよ』
『何故残業整理が今日になったのかわかったぞ』
あらぬ方向を向く国家錬金術師をおいて、鈴を転がすような声が鎧から流れる。
「あの」
「なんだね?アルフォンス君だったか!?」
「はい。僕、軍の人間じゃないんですけど、参加するんですか?」
『汚ねぇぞ、アル。自分だけ逃げる気…いや待てよ、こんなくそくだらなくて、狼のいる大会にアルを出すのは不味いかも』
思わずアルの発言を制止しかけたエドは、上げた手を顎に持っていき、独り悩み始める。一方、
「私は残務処理が残ってますので、残念ながら参加する事は…」
ロイの辞退は大総統の続く言葉に遮られた。
「アルフォンス君は軍属では無いから実践参加ではなく、勝者への労いに参加してくれんかね!?」
『勝者への労い!?つまりは勝った者は彼をどうしても良いというわけか』
例えば1日アルフォンスを傍におく。彼は良く気が付くなおかつ控えめな子だから、朝、起こしてくれるのから、夜のベッドメイキングまで、自分の好みを忠実に再現してくれるに違いない。それは先ほどの兄の止め方でも解る。相手を傷付けないように、限りなく優しく触れる仕草の一つで。
『なにより仕事中のストレスを、あの可愛らしい声は癒してくれる。』
本当は優しいホークアイ中尉でも職務中にはできない相談だ。だがアルフォンスなら声でそれができる。少年期特有の透明な声。
鋼と焔がそれぞれの曲論を展開しているのも知らず、アルはブラッドレイに聞き返した。
「どういった事でしょうか?」
その時、大総統の後ろに控えていたアームストロング少佐がのっそり入ってきた。
「なに、たいした事ではない。我輩の妹と一緒に観戦しておればよいだろう」
アームストロングが大総統を見やれば彼は抑揚に頷いた。
「で、種目だが…そこの行っちゃってる2人、戻ってきたまえ」
大総統の言葉と同時に、二人の頭に少佐の拳が落ちる。
「ってぇなぁ〜、隠し芸だろ?俺の想いのありったけを込めた唄を」
いきなりマイクを錬成する兄を他所に、休み返上で呼びつけられたフュリーによって作られた本格的観客席にアルとアームストロングとは似ていない可憐な妹が並んで着席した。
「お兄さん、詩を作られてるんですか?」
「さぁ…僕も初めて知りました」
言いながらアルはこっそり手近にあったカバンをエドにぶつける。
「新春と言えばカルタ大会だろう。そうだな、まずは詠まれたカルタを取ってそこに書かれている最初の一文字から更に自分の歌を詠むというのが良いだろう」
気付けば中庭一面にカルタが敷かれている。
「マジ〜ぃ!?そんな事できる訳無いだろう」
「今日中に終わりませんよ、大総統」
「敵前逃亡かね?ふたりとも」
気付けば非番の男どもがわらわらと召集されている。その中にハボックを見つけロイは手招きした。
「ご苦労だな」
「大佐も、あぁ鋼もね」
「軍部って暇なわけ?」
「上層部の一部のみがな」
「とにかく早く終わらせましょうや」
「同感だ」
「だが決着はきっちり着けるぜ。アルの為にもな」
火花を散らす錬金術師を眺めハボックは両手を頭の後ろで組んだ。
「御二人の為には早く終わらせた方が良いと思いますが、アル…フォンス君の為なら」
アルと愛称で呼ぼうとして、今回は二人に睨まれ、ハボックは溜息混じりに言い直す。
「ゆっくり楽しみましょうや。彼にも春が来るかもしれない」
言葉をいったん切るとハボックは観客席を見た。つられてふたりも視線を移す。
「なにせ、アームストロング少佐の妹君は、顔に似合わず少佐のような男がタイプらしいんで」
視線の先にはアルの腕に白い手を絡ませる清楚な美少女。
ガガ〜ン

「あれ?どうしたんだろう。急に慌しくなっちゃった」
中庭を見つめ不思議そうに首を傾げるアルフォンスに、少女は頬を染めて頷き返した。

自分のサイトみてあまりの不毛さにらぶらぶした物を書きたくなったんですが、其々が御互いを構っていてまとまりの無いものに…何故(汗)。カップリングがあるんだか無いんだか…。偽者過ぎるぞ、自分!反省します(涙)。あ、大佐からコメントが1つ、がアルを戻したいのは、鎧の為に身に付いた立ち振る舞いが子供らしくなくて見ていられないからだそうで、職務上ではエドに弱みがある方が有利なので、頻繁には口外して無いらしいです。
構ってる、と言う事とラブラブは違うと思い知りました(玉砕) 2004/01/03