動き出したとき

(守山さん語る) 7月竜

自分は特別である
チカラがあって、星の歴史も受け継ぎ、まわりも自分もそう思った。

小さい頃から鍛錬だとか修行だとか流行らない訓練を真守家の方々から無理やり…もとい、ありがたい手解きを受け、シングウを操れるようになったのだけど……だけどだけどっ、聞いてないわよ、何よアイツはっ!
チカラの使い方が悪いですってぇ!?
大きなお世話よっ。
突然ひょっこり現れて。おばあちゃんの信頼ちゃっかり持ってて。
冷静沈着っていうより、飛箱8段上から人を見下しているような、あの態度。
で、言ってる事が正論だからむかつくのよ。
えぇ〜いっ、飛箱の上から降りて来い!

「なに百面相してるの?」
何時から居たのか瞬に覗き込まれていた。
「百面相なんてしていない」
「んじゃ恋する乙女の憂いとでも申しましょうか」
ムカッ
「誰が何時どこで誰に恋してるって!?」
「那由多が今学校で統原君に恋してるって」
「〜〜〜っ」
やめた、馬鹿らしい。瞬と言い張っても時間の無駄。歩く国語辞典みたいに言葉巧みなんだから。「あれ?帰っちゃうの?」
「お先ね。また明日」

そうよ、こんな事してる場合じゃない。昼間の様子だと、なんて言うか…。
うぅん。気になるんじゃないわ。確かめたいだけよ。
村田始の態度が、本当か虚勢か。
「ある意味コイツも腹が立つ」
統原無量が転校して来るまでは、普通に一般生徒だったのに。なに?あの余裕。
「チカラなんて知りもしなかったくせに」
統原無量のように高みに居るわけでもない。すぐ隣で、危なっかしい事に首突っ込んでるだけなのに。話していると何時の間にかシングウと関係ない中学生の日常に連れ戻されてる。馬鹿なのか、正直なのか、狡賢いのか…。
「あ、そうか。星の歴史がわからなかったのかも」
それとも、自我の確立していないお子様だったとか。
ポンと手と打っても白々しい。自分で自分を誤魔化してどうする。しっかりしろ、私!
何の為の訓練?何の為のチカラ!?今までの時間を無駄にするな。私は!私は……
統原無量はムカつくけど、解る。私と同じ側の人間。村田始は一般の、護る側にあるのに気付けばちゃっかり近くに居て…、そうよ、それが問題なのよ、おかしいじゃない!?村田始は私と違わなければいけないのよ。

『押してばかりじゃ旨く行かないよ』

あんたは黙ってなさいよ、統原無量!のほほんとした声を頭をふって追い払う。

私は特別だった。でも、違う。特別であろうとした、本当は。今更普通って、どうすれば良いんだろう。

ここへ来るのは2回目。2階の窓は明かりが見えない。部屋には居ないようだけど。
後遺症は…ないんだよね。眠そうだったけど、受け答えはおかしくなかった。うん、それはたぶん大丈夫。

「どうして、来ちゃったのかなぁ」
気に触るのは星の歴史に触れた後も全然変わらないから。ただ、それだけ。

「いらっしゃい」
ドアの向こう、驚き半分笑顔で迎えられて、ちょっと悔しい、ただ、それだけなんだから…