恋人を失い、甦らせようとしたロゼ。
「あなた達もお母さんを生き返らせたかったんでしょ!?今だって、体を取り戻したいんでしょ!?錬金術でできるんなら、それに縋ったっていいじゃない!それとも時間を戻せる?錬金術で‥」
「それは魔法だよ‥錬金術は理解分解再構築に象徴されているような科学なんだ」
「魔法だっていいわ。魔法を使ってよ!国家錬金術師は、国から一般の国民じゃ手の届かないような支給金を貰ってるじゃない。それはあたしたちの税金から成り立ってるんじゃないの!?」
錬金術師よ大衆の為にあれ
錬金術のあり方はその通りだと思うけど‥錬金術を習得するには膨大な努力が必要だ。妥協を許さず生活の時間すら費やし繰り返される挫折にも諦めない強大な意志。国が支給してくれるお金は、それまでに費やした、そしてこれからも費やすそんな努力に対して支給されるお金でもある。
そう思うのは過大評価なんだろうか‥?

アルフォンスは目を伏せた。冑からはその表情は伝わらないけれども。

帰りたい返りたい還りたい
何でもできる希望に満ちていた頃。恐いもの知らずの青い頃。二の足を踏まない行動が支配できた頃。

「あの人と寄り添えたあの時間に。」
そう思わない?
やり直したいって思わない?
ね、時間を戻せるなら何時がいい?

「鎧になる前 母さんを錬成する前 母さんが死ぬ前?
僕は、禁忌の錬成に失敗して、兄さんが機械鎧の手術を受け生死を彷徨うその夜に戻りたい‥かな?」
どうして?
「絶望に打ちひしがれる僕に伝えたい、兄さんが、いかに僕を大切に思ってくれているか。あの頃は知らなかったそして、今なら少しだけ答えられる父さんの事、僕らを支えてくれたウィンリィの事、僕らを導いてくれた師匠の事、僕らを守ってくれてる大人の人達の事‥あぁ、でもそれは‥‥戻りたいんじゃなくて、、、会いに行きたいって事かな‥?」
懐かしくないの?取り戻したくないの?
「懐かしいよ。取り戻せるものなら‥いつだって望んでる、でもそれは。振り返って切ない気持ちは戻りたいって事じゃない。立ち止まって、振り返って。悲しくて寂しくて懐かしいけど‥でも、大切な思い出だ。戻った僕には過去がなくなる。そして向かう先も‥。僕らはゲームじゃない。生き方をリセットしてしまったら、僕は母さんが産んでくれた、兄さんが愛してくれてるアルフォンスじゃなくて、ただ僕が作り出したアルフォンスなだけ‥そんなの、寂しいよ?」
経験を持ったまま過去に戻ったあたしは、あの人の愛してくれたロゼじゃないって事?だったら、経験を持たず、あの時のままの自分に戻れば‥
「きっとまた、同じ過ちをするよ。」
そんなのっ分らないんじゃ‥
アルフォンスはゆっくり首を振った。
「だって、あの時も僕らは真剣だったもの。」

リゼンブールの大聖堂の前、朝の清々しい風がロゼの髪を巻き上げた。

この先どうするつもりなの?
「土に還るよ。人と同じ。鎧はいつか錆びて、風化して‥‥。土に還るんだ。」
笑った空気が、そこ込めた想いが。伝わったかな?そうなら嬉しいけど
ロゼは眉を寄せ首を振ると、背を向けた。

正午の日差しは、エドの髪を眩しく照らし出していた。
「は?昔があるから今の俺があるんだぜ?」
ロゼの質問を一笑したエドは、アルどこか知らねぇか?と、キョロキョロしながら歩い行く。
「じゃ、、もし!もしアルがしんだらどうなの?生きてる時間に戻りたいって思わないの?」
叫んだロゼに振り向きもせず、エドは足だけを止めた。
「アルを失くしたら俺は俺じゃないから‥何するかなんて分らんねぇよ。」
軽く言われた言葉はぞっとするほど味気なくて、ロゼはそのままエドの後姿を見送った。


「昔に返るならぁ?‥‥、あ〜、そういや前にリゼンブールで同じような事聞かれたなぁ‥」
鼻をぼりぼりかきながら、エドはイスに足を上げた。
「兄さん、行儀悪いよ‥」
同じように、いやそれ以上に行儀悪く机に足を上げていたハボックが咳払いをして足を下ろした。
「どっから仕入れてきたんだよ、そんなナゾナゾ。」
「ナゾナゾじゃないですよ。今週の週刊誌に載ってて‥ほら、若い子に流行の」
若い娘の、に反応してハボックはフュリーから雑誌を引っ手繰った。
「やり直すならいつの頃がいいですかぁ?そんなの死ぬ時に考えりゃいいだろ〜が。今やる事で手一杯だぜ。」
「フラれるスケジュールがそんなに詰ってるのか?」
チェックメイトと駒を進めて、ブレダは冷やかした。ハボックはブレダを見、チェス盤を見て、徐にひっくり返した。
「大佐ならどう言うでしょうね、、、」
一触即発になった休憩室の雰囲気を換えようとファルマンは言ってみた。

「無いな。私は未練を残すような生き方はしていないからな。」
ロイは踏ん反り返って答えた。
「後悔はお持ちのようですね。」
ホークアイは、反り返ったロイの背にぶら下がっている思い出のダーク袋を繁々と見た。
「なんだ。ハボック少尉と同じかよ。」
「何を言う、鋼の!私は‥」
「やっぱ、の子に聞かなくちゃ、早速街に出かけるぞ。」
ロイの言葉をハボックが遮る。
「しかし、仕事中ですよ!?」
「何を言っているんだ、フュリー。これもこの国の情報を把握する為の大切な仕事なんだぞ。」
「そういう言い方も出来ますね。」
「‥‥‥お前ら‥」
誰もロイの言葉なんぞ聞いちゃいない。
「そりゃ、若い子に流行の雑誌なんだから。」
グサッ
減俸と言う前に言葉の矢がロイを貫いた。

「で、若くて可愛い女の子って事でわたしに聞きに来たのね
頬に手を当て、ぶりっこなウィンリィ。
「お前じゃ意味ねぇって止めたんだけどよ。」
今回はスパナ攻撃じゃなく、持っていたタオルでエドの首を絞めながら、ウィンリィはハボック、フュリー、アルと視線を流し、最後にエドを正面から見据えた。
「何言ってるの。戻る必要なんて無いわ。勝負はまだまだ。これからよ!」
「ウィンリィ、、、兄さん、聞こえてないかも‥」
片眉を上げて繁々エドを見た後、ウィンリィはタオルを緩めた。と同時に地面へと吸い寄せられるエド。
「兄さん!」
エドに寄ったアルの背に体重をかけながら、ウィンリィは鼻歌交じりで愛しいアルの鎧をタオルで磨いた。

回帰点

なんか2日も続けて懐かしい友達の夢を見て、そんでもってかつて読んだ小説に一度だけやり直せるなら‥ていう話を思い出して、こいつ等ならどうするだろうって思いました。
結局どいつもやり直すより突き進みそうだ、、という八方ふさがりな結末に(笑)。2006/01/20