糊付けがしっかりされていても、白いシーツは薄く覆う形を写し出す。

  ホテルのような電球色の下は、どこまでも暖かく。抱き締めたくなる。なのに
  死体置き場、昼光色の下は薄いシーツが痛いほど眩しくて、影すら青く奪われ、白々しい。だけど
  ときに、朝のベッドとか、病院や検査機関の昼白色の照明は、見慣れた影がその形を生々しく曝け出す。
  触れて、その形を掌で、目で、確かめたくなる。ような

  大学構内の使われていない部屋には、いくつもシーツのかけられた模型が置いてある。
  ロケットの。飛行機の。人型の。
  カーテンを開いて浮き上がる姿は、冷たく恐い。

「どうかしたの?エドワードさん‥ちょっと、ヘンだよ!?今日‥」
昼中も夢をみてるような、心ここにあらずの、たいていは<ヘン>の部類に入るエドワードだが、たまに夜に見たレム睡眠中の夢のせいで、本当にヘンな日もある。
アルフォンス・ハイデリヒは、遅い昼食をとる為エドワードを連れて学校を出ると、困った顔でエドを伺った。
『断ればよかったかな‥』
戦争のあと、反分子と警官の小競り合いは至るところで起き、巻き添えを食らう人も少なくなく。今日は朝から下宿近所のお婆さんに頼まれ、死体安置所に付き添っていった。
「エドワードさん‥?」
リ〜ンゴ〜ン
響く音にビクッと見上げたアルフォンスは、教会の前だった事を知る。見ればエドも同じように鐘を見上げていた。
「入ろうぜ。アル、、、フォンス‥」
先にたって教会の重厚な扉を開く。
「珍しいね、エドワードさんが教会なんて。」
それに答えずエドは辺りをゆっくりと見回した。
ステンドグラス。差し込む光。ロウソクの炎。木の机。軋む床。そして
「エドワードさん?」
ゆっくりと自分を見上げたエドに、アルフォンスは小首を傾げた。
エドの視線が下がり、アルフォンスのポケットに詰め込まれた薄いベールを取り出した。
安置所にベールを持って入っていった老婦人は、疲れたようにベールをアルフォンスに渡したのだ。今日は違ったけれど、縁起が悪いから作り直すと。
薄いベールは、彼女が預かっている自分の孫娘に将来被せてやるつもりだったもの。
それをエドはアルフォンスにかけた。
「‥‥‥ 」
「‥‥‥」
アルフォンスは顔にかかるベールをも仕上げると、エドに向かって苦笑した。
「‥‥、縁起、悪い?」
「‥‥‥どうかな‥心がこもってるから、そんな事無いだろ」
「そうだね。でも、被るのが僕じゃしょうがないでしょ。」
冗談に笑い飛ばそうとしたアルフォンスに、エドも、そうだな と、苦笑した。
苦しげに、寂しげに、だけど笑った。
「エドワードさん?」
「あ‥あ、うん。昼メシだったよな。わリィ、遅くしちまって‥」
アルフォンスは取ったベールを折りたたむと、教会の神父さんに事情を話して預け、エドに付いて教会を出た。
「何食べます?」
「そうだな‥‥」
「‥さっきのベール、祈ってくれるって」
「ああ‥」
「エドワードさん?」
「‥‥‥、アルフォンスじゃないな」
「なにが?」
「ベール‥」
「‥‥、ま、僕としても被せたいですからね、可愛い子に。」
「そうだな‥」

エドは入ったカフェテリアの窓から、他人行儀な町を眺めた。
        白いシーツを剥がした下
運ばれてきたコーヒーを意味無くスプーンで混ぜる。
        白いベールの下
アルフォンスに頷きながら、エドはこの町の外を夢見る。
  そこにエドが望むのは
「‥ルじゃなきゃ、死体も模型も同じ‥」
「え?」
  電球色の下に誰を抱き締めたくなっても、暴きたくなるのは一人だけ
  温かい光じゃなくても、痛いほどの白さの中でも。捉えたいのは一人だけ
『元に戻すっていう意気込みの裏で、俺は‥』
旅の間は、暖かいホテルの光に、焚火の灯りに、穏やかな気持ちで弟を愛していたつもりだった。
『ずっと夢見ていた、笑うアルを‥』
        取り戻したかったんだっ!それだけの‥つも‥り‥‥

  離れた今も夢見る、弟の笑顔
  今は夢に見る、アルの‥

エドは苦く、わずかに甘く。コーヒーを飲み干した。

蛍光灯色の下って黄色かがって暖かい印象。下にものがあろうが無かろうがシーツを抱き締めたくなる感じ。白光灯の下は、冴えたに曲線で、シーツが隠しているものを本物以上にキレイに写すなぁと‥そんな事考えてたらエドに‥、あれ?(笑)。新年早々変態ちっくで済みません(爆)。かろうじて表(苦笑)。2006/01/09

シーツとベールと
シーツとベールと
シーツとベールと
シーツとベールと

*劇場版ベース