12月3日の日記「おちごさん」

「ひなくんにお稚児さんやらせてみない?」
最近、みきさんが時折口にするようになりました。

みきさんの言うお稚児さんとは、お寺や神社の祝賀行事として行われる「お稚児行列」のことで、主に小学生以下の子どもを神仏の御使いとして行列させ、そのご加護により寺社の発展とともに、子どもたちの健やかな成長を願うという風習のようです。新興住宅地育ちの現代っ子にはピンとこないしきたりですが、山育ちのみきさんは子どもの頃に経験したことがあるそうです。

「お稚児さんを3回やると幸せになれるって言うじゃん」

「じゃん」とか言われても知らないものは知らないのですが、やはり山育ちのみきさんのお友だちのところのお子さんは3歳にしてすでに3回クリアしているのだとか。

そもそも花祭りなどにあわせて毎年の恒例行事にしているお寺もありますが、主には本殿の落成記念とか、特別な出来事があった場合に行われることが多いお稚児行列。このあたりでは聞いたことないなあと思っておりましたら、ウチから一番近いお寺に新しい御住職様がご就任されるとかで、いきなり募集をしてるではないですか、お稚児さん。

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それならばということで、従兄弟の航ちゃんも誘って参加することになったお稚児行列。みきさんがお寺に申し込みの電話を入れると、受付番号400番代って、どんな大行列になるのでしょうか。子ども一人にそれぞれ両親と祖父母がつくとして、

1人(子ども)4人
(両親と祖父母)×4002000人! 

この小さな町内には稀な一大イベントになりそうです。恐るべし稚児行列。

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「早くから並ばないと駐車場がなくなるよ」との地元の知り合いのアドバイスに従い、秋晴れ無風で絶好の行列日和となった当日は、行列開始の1時間半も前に現地に到着したのに、想像以上に大変な数の家族が集合しています。おかげでパーキングも寺から遠く離れた山の上。

やっとのことで山から下り、受付で参加料を納めて、コス・・・じゃない稚児さんの装束を貸していただきます。少なくとも500人近くの子どもが参加している訳ですから、着付けの方法の説明などあるはずもなく、周りを見ながら不安な気持ちのまま、見よう見真似で衣装を着せていきます。

こうして、正しいかどうかはともかく形にはなったので次はメイクです。

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お寺の離れにある小さな小屋にお化粧係の女性が4人ほど。時折、嫌がり泣き叫ぶ子どももいる中でも、手際よく化粧された子どもを大量生産していく様子は、テレビで見た事があるニュージーランド牧場の羊の毛刈りか、あるいはアメリカ西部の牧場の牛の焼印押しを彷彿とさせます。いずれにしても牧場です。ああ、あと昔見た犬の集団予防接種もこんな感じだったな。いずれにしても動物です。

そして僕らにお化粧の順番が巡ってきたとき、「ひなさんが先の方がいいよ」という忠告も聞かずにみきさん、航ちゃんから先にメイクをしてもらいます。ファンデーションで顔を白くして(1〜2)、額に黒い点を二つ(3)、両目の横に赤い点を(4)、最後におちょぼ口の紅を入れて(5)、ハイできあがり(6)。







このメイクの完成形がひなさんの感性には合わなかったようで、たちまち「いやだいやだ」と泣き叫ぶ子どもの仲間入り。だから言ったじゃないの。背後にはまだ大量の羊・・・じゃなくて子どもたちが控えており、仕方なく僕がひなさんの両手、みきさんが両足を固め、「色白だからファンデーションはいりません!」と、目の横と額の点、さらに強引に口を閉じさせて紅を入れて、ハイできあがりってことで。

メイクが終わるや否や、すぐに元気になって航ちゃんと暴れ始める姿もやっぱり牧場の動物っぽいなあ。

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準備が整った頃にはすでに行列の開始時間です。お寺から数百メートル離れた出発地点に移動し、先頭を歩くいかにも徳の高そうなお坊様たちのお経の大合唱を聞きながら、だらだらと後ろについてお寺に戻っていきます。それにしても写真に撮ると大人しか写らないから、何の集団だかさっぱりわからんな。

 

お寺につくと、近くで見てもやはり徳の高そうなお坊様から、何やらよい子になるおまじないをかけていただいて、あとはお土産のお菓子袋を受け取って行列終了です。


いい子になるようにおなじない

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さて、これであと2回稚児行列やれば幸福になれる権利獲得となるですが、「正直、大変だったから今回だけでいいや」って思いながらこの日記を書くために稚児行列についてネットで調べてたら、どうも「稚児三回で幸福説」は、愛知県のみに根強く流布している都市伝説という記事を見つけてしまいました。

つまり「一日にワーゲン・ビートル3台見るといい事がある」とか「黄色いワーゲンなら3台分の効力がある」とかいう類の話だったのか、これは。何てこったい。

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ともあれこうして、仏様の御使いとしての役を(一応)果たさせていただいたひなさんと航ちゃん。御仏様には、これをご縁として今後ともわが子たちの健やかな成長をお見守りいただけたらと願わずにはいられません。

ただし、ウチは宗教的には本当に無頓着なので今月の末あたりはクリスマスで大騒ぎをすることになると思いますが、そこは目をつぶっていただきたいものです。