4月26日の日記「眠るまでダラダラと」

相変わらず帰りが遅い毎日が続いています。ですから、まれに仕事が早く終わって帰宅できる夜は(と言っても9時ごろですが)、ひなさんにとっては一大イベントです。興奮状態を一気にMAXまで上昇させて、今日あった出来事をハイテンションでまくし立てつつ、その一方でおもちゃや絵本を取り出してきて、一緒に遊ぶ準備をいそいそと始めます。

「ちょっとまって、まずはご飯を食べさせてよ」
「それに、もうひなくん寝る時間だから遊んでられないよ」
横から妊婦みきさんが冷たく宣告します。

◆      ◆      ◆

とりあえずご飯を食べてる間はひなさんの話を聞くことにします。ところが早い帰宅が珍しいというのはみきさんにとっても同じこと。ひなさんを押しのける勢いで、やはり今日の出来事を大声でしゃべり始めます。こうゆう場合僕はどちらの話を聞くべきでしょうか。

答え:情報処理能力の限界でどちらの話も聞けない

スマンね。男性脳は二つの話が同時に耳に入ってきたら、とたんにどちらの言葉も理解できなくなっちゃうんだよ。仕方なく急いでご飯をかきこんで(最も健康に悪く、しかも太る食べ方)、ひなさんがせっせと準備しておいたおもちゃでちょっとだけ遊びます。すると再びみきさんが、

「明日 起きられないよ! いい加減に寝なさい!」

「じゃあ おとうさんとねる!」

寝室に入ってしまえば、ママに邪魔されることなく父親を独占できるというひなさんの意外にしたたかな作戦です。そんな訳で早く帰ることができた日には、ひなさんを寝かしつけるのが習慣になろうとしています。

布団に入るとひなさんは「子守歌」ならぬ「子守話」をせがんできます。それはウルトラマンのマニアックな話だったり、でたらめな昔話だったり、今度の休みに遊ぶ計画だったり。ひなさんが眠るまで子守話は続きます。そして、ときどき寝室の様子を覗きに来る妊婦みきさんに、

「いつまでお話してるの! そんなんじゃ眠れないよ!」

と、巡回の先生に叱られる修学旅行の子どもたちのように二人して注意されるのです。

◆      ◆      ◆

ある夜のこと。いつものようにいっしょに寝室に向かう途中、ひなさんが自分なりに旬の話題を提供してくれました。

「みちこせんせい、ようちえんやめちゃったんだよ」

みちこ先生というのは年中さんの時のひなさんの担任の先生です。

「どうしてやめちゃったの?」
「あのねえ、ケッコンするんだって」

実はその話はみきさんから聞いて知ってたんですけどね。なんでも4月になってから会いに来てくれた先生をとり囲んだひなさんたちは「ケッコン! ケッコン! ケッコン!」と囃し立てて大騒ぎしたそうな。いやなガキどもだな。

「ひなくんはケッコンしないの?」戯れに聞いてみると
「こどもがケッコンできるわけないでしょ!」とまともな答え。
「じゃあ何歳になったらケッコンできると思う?」
「う〜ん」としばらく考えた後、突然パッと顔をあげて

「じゃあ、きょうは ケッコンのはなしをしてよ!」


おおよそ日本の幼稚園児の発想とは思えないリクエストに思わず、今流行語にもなっている漫才のツッコミを入れそうになりながらも、布団の中で僕たちはケッコンの話をすることになりました。

「まず、男の子と女の子はケッコンできる年が違うんだよ」
「えー!?」ひなさんはいつもいいリアクションです。

「女の子は16歳。じゃあ男の子は何歳でしょう?」
「・・・17さい?」
「惜しい! 18さい」
「おとうさんも18さいでケッコンしたの?」
「いや、そんなに早くない。それに20歳になるまでは、
 お父さんお母さんが『いいよ』って言わないとケッコンできないんだよ」

「…ふーん」
と、よくわからない様子のひなさんに追い討ちをかけます。
「20歳をすぎても、相手のお父さんお母さんにはちゃんと
 ケッコンさせてくださいってお願いにいかなきゃいけないんだよ」

難しいケッコンの制度の話題から日本の結婚習慣の話に展開しかけて、いよいよ理解不能となったらしいひなさん、さらりと話題を変えます。なかなかやるな。 

「そういえば、ママたち、ワケがわからないんだよ」

「なにが?」
「みちこせんせいのおはなしなのに、『ハワイ』、『ハワイ』って」
「ああ、ケッコンするときはみんな旅行にいくものなんだよ」
「ええーっ!」 
うんうん、ひなさんは聞き上手だなあ。

「おとさんたちはドコに行ったの? ちゅうごく?

何を根拠にいきなりチャイナですの。
「オーストラリアだよ」

「じゃあ、カモノハシみた?」

マニアックな動物をセレクトした理由は2年前の愛知万博でオーストラリア館のマスコットキャラクターがカモノハシだったのをまだ覚えていたからだそうです。
「カモノハシみたよ。コアラも抱っこしたし。カンガルーも」

「ひげおじさんたちも りょこうにいった?」
「イタリアに行ったね」

「イタリア料理?」
イタリアにまつわる言葉で聞いたことあるのがそれしかないんだね。
「イタリア料理にはどんなのがあるの?」
「スパゲティとかピザとか。サイゼリアで出てくるような料理だよ」
ウチの貧しい食生活を象徴するような大雑把な回答。

「ママのお腹の赤ちゃんが女の子だったらケッコンする!

たぶんこのケッコン願望は旅行が目的だな。
「でもね、兄妹(きょうだい)はケッコンできないんだよ」
「えええーっ!!」ひなさん、今度はちょっと大げさ。
「じゃあ、はーちゃん(*)とケッコンするよ」
(*)ひげおじさんちの長女。航ちゃんの妹。美形。
「いとこ同士ならケッコンできるかな。はーちゃんカワイイもんねえ」
・・・・・・
このあと、2、3会話を交わしたような気がするのですが、このあたりでようやく会話に疲れて眠くなり、どちらからともなく二人で眠りに落ちていったのです。

ああ、大人なのに夜の9時半に寝てしまいました。
そしてそのまま翌朝の7時半まで眠ってしまいました。あぁ…。

◆      ◆      ◆

こんな風に、ひなさんを寝かしつけるのは非常に労力がかかる上に、帰宅後の自分のプライベートの時間も無くなるし、お風呂に入ることもできないし…と、なかなかに大変なものがあります。その点みきさんは、寝室にひなさんを連れて行くなり、自ら率先して眠ってしまうというワザでひなさんをサッサと寝かしつけてしまいます。

どちらにしても、誰か一緒に眠らないとひなさんも寝ないって事だな。

間もなくみきさんは新生児にかかりきりにの生活になるし、夏休みには幼稚園で年長クラスのお泊り保育もあるし。一刻も早くひなさんの就寝を自立させなければ。

僕たちにはもうほとんど時間が残されていないのです。