黄河の皮筏


 黄河の上流で羊の皮袋で浮かぶ筏に乗る。沈まないとわかると、気を強くする。船頭さんの巧みな操作で流れに逆らうことを楽しむ。客を乗せる営業用の筏操縦は免許が必要という。プロの腕前が要求されるわけだ。道理でこちらが恐がっても船頭さんは平気平気と何事もないかのように言う。


 筏を浮かばせる術を覚えることはあきらめたが、筏について少々学習できたことに満足する。最初、筏を浮かばせている皮袋はブタの形によく似ていることで、てっきりブタの皮が使われていると思い込んだが、これは地方のことに疎い思い込みであるとまもなく気づいた。農村地方では確かに羊よりもブタが多数飼育されているが、草原や砂漠ではブタよりも羊が主な家畜として飼育されている。羊肉は常食の食材を提供している。


 周りに羊が多いことですぐ合点したが、これは生半可な知識であることに気づく。羊の皮には間違いないが、綿羊の皮は筏作りにむかないという。皮筏を作るのに山羊の皮が必要であるのだ。パンパンに膨らませてある山羊の皮は弾力性や強靭性が備わっている。岩や流木に接触しても破れることがないという。試しに手で皮袋を強く押してみたが、風船のような皮袋は柔軟性を備え、簡単に破裂しそうもないことが分かった。

林善義、8 January 1998


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