「ヒー、、、Yさん、まだのぼるンかい ? 」・・・ なにしろ潅木やらクマザサやらの道無きを、しゃにむにかき分け上り続けています。昨夜のアルコールの残りも手伝って心臓はバクバク破裂しそうだ。
Yさんが涼しげに言います、「Nさん、あそこに見える高圧線が走っているところが尾根だから、あそこを越えないかんのだわ、」「まだ相当あるナー、フェー」。
こんなところで子供時代を過ごしたYさんに、釣技で勝とうと思うほうが間違っていました。今ごろ反省しても心臓は楽になってくれません。
やっとこさ谷筋に降り立ちました。暫時休憩、谷の冷気がひんやりと汗を鎮めます。ただの食パンにハムがあんなに旨かったのは初めてでした。
イワナを釣るのにミミズとか生きエサは使いません。毛鉤を一つ付けただけのテンカラ釣りでどんどん谷を上流に詰めていきます。かなり段々の落差のきつい谷で、竿を振るのが半分、よっとこしょ、よっとこしょと岩を越えるのが半分の釣りです。
ポイントに、25センチはあるイワナが着いているとYさんが言います。「何処におるの?」「あの沈み石の陰ンとこ、」「何処におるー?・・・
あ、あそこかー」 Kaと私はやっとのことでイワナを確認しました。
Yさんは体にしみこんだ経験から、こう言う流れのポイントには、このあたりの石のこんなところにイワナがいる筈だ、が先にきてすぐイワナの姿を見つけるのでしょう。私たち二人の場合は、イワナさんイワナさん何処にいるのですか?ばかりで、水の中のイワナをなかなか見つける事が出来ないようであることを理解しました。
さっそくKaと私の二人が交互に竿を振りますが、飛びついてきません。 「あのイワナはもうダメだなー、」・・・ 「よし、代わるワ、」・・・いくらYさんでも、散々俺らが水面掻き回してしまったのでダメでしょう。見ているとラインが水面をパシャパシャ叩いています。そんなんはイカンと思うけどなー、テンカラ釣りの教科書には毛鉤がフワット静かに水面に落ちること、と書いてあるでしょ
5回、6回、結構Yさんもしつこい性格しとるなー、 ジャバッ! 瞬間、バシッと合せてイワナが飛んできました。
「エー、そんなんありかー!」「案外、ラインで水面叩いて気を引いたりすると、飛び出ることもあるんだワ。」・・・なるほど、そういうものですか。ショボン。
行く手に大堰堤がそびえています。高巻きのルートはついていますが、ちょっとでもバランスを崩したら一巻の終わりです。「コワイナー、こんなへずり。」体が硬直していました。かなりきつい場所と思われても、しっかりした雑木などの掴むものがあれば安心できるのですが、岩場だけとかガラ場なんかは本当に怖いです。
しばらく行って中段の所にロープが垂れていましたが、誰かが下る時に使ったものでしょうか。
予定のコースを釣り終え、帰りは谷を下らず、尾根に上った所で電力会社の高圧線保守ルートに沿って山を下ります。既に膝は笑っており、ちょっと歩いてはズルズルどっ転コロリの連続でした。この日は減水していて数は出ませんでしたが、「これがイワナ釣りだ!」を堪能しました。
夕方、近所のおやじさん宅から誘いがあり、クマ肉をご馳走になることになりました。こちらの話は次回に.