第11話

19919 新潟県「大場」集落のクマ肉とテンカラ竿

                              (平成19年10月13日 ・ 記)

  先回に続いて釣友Yさんの郷里、新潟県の大場を訪ねた時のお話。

  渓流釣りの本(高木  国保著・我が山釣りと山菜への誘い)で言うところの“秘境・釜川”のイワナ釣りを堪能して帰り着いた夕方、Yさんの生家から2軒ほど離れた近所のおやじさん宅から、「クマ肉が手に入ったので、食べにこいや!」と、ありがたいお誘いがありました。

  小さな村の中、誰れそれンとこの息子が町から友人を連れて家に帰っとるらしいぞ、・・・なんてのが直ぐに伝わっているようだ。
 いいですよねー、まさしく生活共同体ですね。今どき町の生活では、隣のご子息がどこに勤めているのかも知りませんから。

  お呼ばれとあっては手ぶらでいけませんので、3人がビールを1本ずつぶら提げて伺いました。「お邪魔しまーす、名古屋から遊びにきました。」・・・

 「おー、待っとったぞ、まあ上がれや。」即刻、酒盛りが始まったことは言うまでもありません。

  当主の親父さんは60半ばでしょうか、今はご夫婦二人の生活だそうです。息子さんだったか娘さんだったか話は聞いたのですが、その時既に酩酊しており記憶にありません。要は子供さん方は町に出て生活していると言うことです。過疎の村そのものです。

  ビールを2、3本飲んだところで奥様が煮立った鍋を運んできました。ヨッ、熊さん鍋が出てきましたね!  囲炉裏に吊るしてさあ頂きましょう。味噌仕立ての鍋で、クマ肉と野菜やらキノコやらがごった煮してあります。クマ肉を食べるのは初めてでしたが、思ったより柔らかく濃厚な脂が味噌味に馴染んでなんとも旨かったです。

  「今はまだ禁猟期だが、農作物を荒らしに出たやつで、害獣駆除の許可をとって仕留めたクマだ。肉は20人くらいで分けて、2sばかり手に入ったところだ。」

  「若い頃は鉄砲担いで、村の衆とクマ撃ちによー出たもんだが・・・」「仕留めたクマの毛皮は、“一番鉄砲”撃ったもんが最初に買う権利があって・・・」「そうそう、ちょっと奥から出してくるデ待っとれよ、・・・」「ここんところの穴が、鉄砲の弾が当った所でな、この時はヨー、・・・」

  私が10年も20年も昔の話をホームページに書き出すのと一緒のことでしょうか、アルコールが回るにつれ、おじさんの昔話も絶好調になります。

  都会から若い衆がやってきて、久しぶりに奥方以外に日本語を話す人間と会話するのでしょうか。

  ふと天井の方に目を移したら、何と冒頭の本、「我が山釣りと山菜への誘い」で紹介されていた、あの“テンカラ竿”が2本、鴨居の所に掛けてあります。切出した竹を一本そのままで、桐の材で握りを付けた簡素な釣り竿です。何か宝物を見たような気分です。これ一本持って、あとはいくつかの毛鉤さえあればイワナはいくらでも釣れたんだと。渓流本など昔話で職漁師がイワナ釣りの話をする時、1貫目(3.75kg)とか2貫目釣るとか言いますが、この竿もそう言った世界の頃のものなのでしょう。

  「今日は板沢で僕らもテンカラやってきたんですけど、藪やら、あのきつい高巻きやら、延べ竿持っての遡行は大変じゃないですか?」・・「そんなもん、竿は口に咥えといて、こう両の手が空くんでヒョイヒョイと訳無いわ、」「浮石かー、そんなもんグラッと来る前に次の石に足を出すんだな。」なる程、そんなもんでしたか。納得出来たような出来ないような、モヤーとした中にも心地よい余韻が残りました。

  「ご馳走になりました。」と、ちゃんと挨拶して帰ったのかどうか定かではありません。十二分にアルコールが入ったであろうことは、容易に推察されます。


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