平成4年ワ第2936号(原告 第五準備書面)


第 五 準 備 書 面

平成四年(ワ)第二九三六号

          第 五 準 備 書 面

原  告翠松園道路対策組合
被  告株式会社さ い と う
 外七名

 右当事者間の道路整備工事同意請求事件につき、原告は左記のとおり弁論を準備する。

    平成五年一〇月一五日
右原告訴訟代理人
弁護士    大 和 田 安 春
同      高   津   建   蔵


名 古 屋 地 方 裁 判 所
    民 事 第 六 部 御 中 


   (通行地役権の対抗力について)

 本訴において、原告の主張する地役権は、左記の理由により、登記なくして被告らに対抗することができるものである。
(一)  被告らは、本件(一)土地及び本件(三)土地 ないし(七)土地(以下「本件土地」という)を取得した当時、その現状が、いずれも「道路」であることを知りながら、これを取得したものである。
すなわち、翠松園地域内の土地分譲は、大正末頃から昭和の初期にかけて実施されたものであり、右分譲当時の情況に照らし、原告主張の通行地役権は、右分譲と同時に分譲土地売買の当事者間において、明示、または黙示的に設定されたものであるところ、被告らが本件土地につき、売買、贈与、あるいは競落等を原因として、その所有権を取得したのは、昭和四一年以降のこと(甲第六号証の一ないし六参照)であるから、被告ら自身が本件土地の分譲を受けたものではないけれども、その間相当の長期間を経過しており、被告らが各自本件土地の所有権を取得した当時においては、本件土地の形状は、既に翠松園内の道路の一部として、完全な道路の形態に整備され、かつ一般公衆用道路としての機能を充分に果たしており、自動車を含む不特定多数人の通行の用に供されていたものであって、被告らは、これらの事実を自ら目撃し得て、これを充分に知覚していた筈である。したがって被告らが、本件土地の所有権を取得した原因の如何に拘らず、また、その登記簿上の地目が「山林」であったとしても、被告らは本件土地の現状が、前記の如き「道路」であること、及び仮に右道路には「通行地役権」という明確な権原の存在することを知らなかったとしても、何らかの通行の権利があって、所有権を取得した被告ら自身といえども、これを侵害してはならない義務を負担するものであること等を、充分に認識しながら、本件土地を取得したものと推認するに難くない。
(二)  しかのみならず、被告らのうち、株式会社一商については、先に原告の提出した『第二準備書面』第一項に記載のとおり、本件(三)土地内の道路部分に柵を設置して花木を植栽し、同地を自己の庭園同様に使用するなど原告組合員の通行地役権の行使を実力で阻止しており、いわゆる背信的恣意者と称することができるほか、その余の被告らも前記の如き本件土地の現況が「道路」であって、一般公衆の通行の用に供せられていることを目撃して、これを充分に知悉して本件土地を取得しながら、かつその後において原告より同被告らに対し屡々懇請された通行地役権に当然包含される導管工事の施工についての承諾要請を拒否しているものであり、例えば、転売、入担保などのほかには何等の使用方法も考えられない本件土地の導管工事施工を承諾しても道路としての価値の減少は、極めて些細なものであるのに対し、該工事施工を拒否された付近住民の蒙る損害、迷惑、不便は極めて大であって、環境衛生上の不都合も亦甚大というべく、それにも拘らず被告らが右導管工事を拒否することは、まさに信義則違反、権利の濫用として許されないものである。
かかる場合に、被告らは、地役権に登記のないことを主張しうる正当な利益を有する第三者には該当しないものというべく、原告は登記なくしても、右地役権をもって被告らに対抗できるのである。
(三)  特に被告らの所有する本件土地は、民法第二一三条第二項のいわゆる無償囲繞地通行権の通路にも該当するものであって、被告らはこの囲繞地通行権をいずれ、認めなければならない立場にあるから、この点からも被告らは通行地役権の登記がないことを理由として、これを拒否することはできないものである。なお、付言するに、右の囲繞地通行権については袋地の所有権と一体をなす権利として、法律上肯認されているものであるから、これをもって、第三者に対抗するためには、当事者の交替の有無に拘らず、その登記は必要でない(承継説)ものである。



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