平成9年ネ第154号(控訴人 準備書面一)


準 備 書 面(一)

平成九年(ネ)第一五四号

          準  備   書   面(一)

控訴人有限会社◯ ◯ ◯ ◯
被控訴人翠松園道路対策組合

 一九九七年六月二五日

右控訴人代理人 伊   神   喜   弘

名古屋高等裁判所民事第二部   御 中


                記

一 原判決が本件土地を承役地、宅地部分を要役地とする地役権が黙示的に行われたとの認定の不当性
1 原判決は「朝倉ら本件旧土地の分譲者は、その分譲事業の実施にあたり、分譲宅地部分と私道部分を外形上も明確に区分して造成を行っており、右私道部分を分譲宅地部分のための道路として確保するため、その所有権を分譲者に留保していたものであって、その趣旨目的とするところは、各分譲宅地を道路に通じさせて袋地としないことにあることはもちろんのこと、翠松園という一団の分譲地についての公共的生活施設を確保して、その分譲宅地としての適性や価値を確保し、各分譲宅地の生活上の利便に供することを目的とするものであったことが容易に推認できるというべきである。」とし、これを根拠に本件土地についてもそれを承役地、宅地部分を要役地とする無償、無制限の地役権の認定が黙示的に行われたものと解している(原判決三七、三八頁)。
2 しかしながら、上水道の配管については予定していなかったことは、「翠松園土地分譲御案内」に「飲料水は翠松園に清き井水の湧き出て居るからは郊外住宅として、衛生上にも経済的にも、一点の不足なしと思ひます」との記述のあることから明らかである(甲四五号証添付書面6)。
 又下水道についても、雨水については本件土地を含む付近全体の自然流下に委されていたはずであり、下水道については当然予定されていない。
 都市ガスは大都会において一部普及していただけと思われるから、都市ガス管の敷設も予定していなかったと考えるのが正解である。
 したがって、原判決が私道部分として区分されていたと判示する土地は、仮に道路として予定されていたとしても、人及び車等の通行を予定していたものであって、上下水道管及び都市ガスの敷設は予定していなかったと考えるのが正解である。
 したがって、上下水道及び都市ガス管の敷設ができる内容の地役権が成立しているはずがない。
3 特に本件土地について考えると次の事情があって、通行地役権も成立したと認められない。確かに他の私道と思われる土地と比較すると、本件土地ももともとはその一部をなしていたと考えられるかもしれない。しかし、本件土地に限っていえば、分譲開始以後道路として開設され、住民の交通の用に供されたことは遂に一度もなかったものである。
 地役権には継続地役権と不継続地役権の区分がされるといわれている。そして継続地役権は間断なく継続するもので、通行でいうと道路として相応の設備がされ、物理的にも目に見える形で開設される必要がある。確かに本件土地の地形自体は他の私道と思われる地形部分と対比すると道路様の形状をなしている。しかし、道路として開設したというには、単に公図上分筆されるだけでは足りず、現地において道路としての設備を設けられ物理的にも道路として開設されなければならない。しかし、このような道路としての設備が設けられた証拠は一つもない(原判決も道路予定地としている)。
 したがって、本件土地には通行地役権を認めることもできない。
二 原判決中「翠松園という一団の分譲地についての公共的生活施設を確保して、その分譲宅地としての適性や価値を確保し、各分譲宅地の生活上の利便に供する目的」は、地役権の目的となりえない。
 地役権の目的として、通行地役権、用水地役権、電線路敷設のための地役権、眺望・日照地役権等あげられているが、原判決のいうが如き一般的且つ抽象的な地役権は認められる余地はない。
「地役権の内容は、地役権の目的を達するのに必要であって、かつ承役利用者の最も害の少ない範囲に限るべきであることが、すべての地役権に通ずる原則として認められている」(我妻栄著 物権法 四二二頁)。この原則からも、本件ケースについて通行地役権と別個独立した原判決認定の如き一般的、抽象的な地役権が成立する余地はない。
三 仮に原判決のいうが如き地役権が設定されたと認められるとしても、消滅時効によって消滅しているので、時効を援用する。
1 民法二九三条は「地役権者カ其権利ノ一部ヲ行使セサルトキハ其部分ノミ時効ニヨリ消滅ス」と定める。本件の場合、本件土地が道路として開設された証拠はないので、仮に地役権が認められるとしても、不継続地役権である(即ち道路を開設しない通行地役権)。
 しかして、少なくとも本件土地については宅地譲受人が通行の用に供した事実は本件翠松園の分譲当初からありえないことであるから[現況調査報告書(乙ハ第三号証)二七枚目2項に「一、また以前にも通路の用に供していた土地とも認められなかった」とある]、遅くとも昭和五年一月一日より二〇年経過した時点で通行地役権は時効で消滅しているので、ここに時効を援用する[起算点として昭和五年一月一日をとったのは、原判決の認定によると「昭和初め頃から」分譲が開始されたとあるからである]。
2 本件の如き下水道の配管及びガス管の敷設は本件土地が道路としての通行地役権が存在することを前提として初めて認められるものである。
 したがって、通行地役権が時効により消滅している以上、上下水道管及びガス管の敷設が認められる余地はない[原判決も本件土地が道路としての必要性が存続していることは否定している。そうであるのに下水道管とガス管の敷設を認めたのは自己撞着している]。
四 原判決は控訴人の対抗要件の主張に対し、被控訴人らの権利濫用の再抗弁を認めている。しかし、この判示は誤りである。
1 本件土地に公共下水道管や雨水等の排水管、都市ガス管等を埋設し、側溝、雨水桝の設置することは重大で代替手段がないという。
 しかし、少なくとも都市ガス管については本件土地に埋設する必要は全くない。直接道路より引管すればよい。現に上水管が敷設されていないことは既に指摘した。
 公共下水道管や雨水等の排水管について早川正俊若しくは坂井正三の地下を利用するか、三八八番、一七〇番の土地(これは既に道路として名古屋市に寄付されている)に敷設すれば足りる。本件土地が道路との前提より容易に計画を立てたのが原因であり、代替手段がないということはない。
2 原判決はイ事件( 3上水道工事同意請求事件)について、本件土地に名古屋市が上水道の敷設工事及び給水設備工事をする判決が確定しているという。しかし、右判決により上水道敷設工事はされていない(乙ハ第三号証 二〇枚目の陳述人冨永義彦の陳述 6項参照)。同判決は昭和五三年一二月一九日言渡されて、そのころ確定しているので、同確定より一〇年の経過で、同判決主文により被告がなすべき債務は時効で消滅している。本書面で消滅時効を援用する。したがって同判決の効力が控訴人に及ぶとの判示は誤りである。
3 横切って設置されたU字溝や排水桝は権原なく設置されたもので[評価書(乙ハ第五号証)の四枚目裏「評価額の決定理由」の項参照]、控訴人に不利益に解されるべき要素ではない。
4 有限会社◯◯◯◯の前被承継会社有限会社◯◯◯◯は本件土地を裁判所の競売で六、二八〇、〇〇〇円で競落したものである。
 控訴人としては、原審にて裁判所の和解勧告で和解に誠意を以て対応しており、和解の経過から八〇〇万円前後で被控訴人らに売却するつもりでいた。しかし裁判長の交代にともない、従前の和解の経過を無視し、無償で下水道管及びガス管を敷設することを求められ不本意ながら和解は成立せず、判決となったものである。
 一方、被控訴人は道路の負担金として一億五〇〇〇万円程集めており、支払能力は十分である。証人横田は他の和解との比較で「飽くまで原告としては道路敷の所有者に対する和解金としてはその金額でお願いしたわけで、それと大幅に違った金額で和解するということは、逆に原告のほうが損害賠償請求を起こされる危険もございます」と和解に応じない理由を説明しているが(証人横田九回二七頁)、他の係争地は通行権が認定される土地であり、これが否定される本件と事案が異なり、同証人の説明は合理性がない。
原判決は、本件土地が投機の対象となっていたかの如き口吻であるが、控訴人が裁判所で競落した六、二八〇、〇〇〇円に若干の金利を加算した額で手放すことを決断していたのは、住民の便宜を考え、基本的に資金回収の限度でよしとしてのことであった。少なくとも控訴人においては本件土地を投機として利用しようとする意図はなかった。
5 以上の事実によれば、再抗弁の権利濫用の主張が認められる余地はない。

註:当事者からの申し入れにより、当事者名の一部については匿名としました。


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