昭和36年(ワ)第535号所有権確認等請求事件   
昭和39年(ワ)第2391号通行権確認等反訴請求事件


昭和三六年(ワ)第五三五号所有権確認等請求事件
昭和三九(ワ)第二三九一号通行権確認等反訴請求事件
昭和四〇年一〇月一六日判決言渡同日原本交付

判     決

名古屋市北区黒川本通一丁目七八番地
  原 告(反訴被告)      朝  倉  丞  作
  右訴訟代理人弁護士      伊  藤  静  男
  同              平  田  省  三
  右訴訟復代理人弁護士     郷     成  文
名古屋市守山区大字小幡字北山二七七三番地の◯
  被 告(反訴原告)      石  黒  た  ま
同所同番地の◯◯
  同              加  藤  竹次郎
同所同番地の◯◯
  同              中  川  祐  輔
同所同番地の◯◯
  同              石  川  泰  平
同所同番地の◯◯
  同              佐  伯  力次郎
同所同番地の◯◯
  同              佐  伯  将  雄
同所同番地の◯◯
  同              佐  伯  あ  や
同所同番地の◯◯
  同              仙  田  益  時
同所同番地の◯◯
  同              布  谷  孝  一
同所同番地の◯◯
  同              佐  藤  与  市
同所同番地の◯◯
  同              林     晃  道
同所同番地の◯◯
  同              林     実  和
同所同番地の◯◯
  同              熊  谷  愛  造
同所同番地の◯◯
  同              横  山  勝  彦
同所同番地の◯◯
  同              林        孟
同所同番地の◯◯
  同              鳥  居     敏
同所同番地の◯◯
  同              松  原  典  夫
同所同番地の◯◯
  同              余  語  義  勝
同所同番地の◯◯
  同              永  井  辰  治
同所同番地の◯◯
  同              西  垣     勇
同所同番地の◯◯
  同              布  谷  正  治
同所同番地の◯◯
  同              鎌  田  芳  雄
同所同番地の◯◯
  同              小  林  憲太郎
同所同番地の◯◯
  同              矢  野  尚  勝
同所同番地の◯◯
  同              木  村     昭
  右二五名訴訟代理人弁護士   野  村  均  一
  同              大和田   安  春
  同              近  藤  昭  二
名古屋市東区東新町一〇番地の一
  被  告           中部電力株式会社
  右代表者代表取締役      横  山  通  夫
  右訴訟代理人弁護士      入  谷  規  一
  右訴訟復代理人弁護士     高  橋  正  蔵
東京都千代田区内幸町一丁目一番地の二五の五
  被  告           日本電信電話公社
  右代表者総裁         米  沢     滋
  右指定代理人         林     倫  正
  同              福  田  隆  映
  同              新  保  喜  久
  同              松  本  弘  忠
  同              名  和  稔  雄
  同              今  野  吉  純
  同              奥  平  清  武
  同              田舎館   俶  哉
  同              織  田  慎  平
 右当事者間の昭和三六年(ワ)第五三五号所有権確認等請求事件及び昭和三九年(ワ)第二三九一号通行権確認等反訴請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主     文

一 原告の土地所有権確認の訴を却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 別紙第二目録記載の土地につき反訴原告等が無償通行権を有することを確認する。
四 原告(反訴被告)は右土地上に建築物を築造し、てはならない。
五 訴訟費用は本訴反訴を通じ原告(反訴被告)の負担とする。

事     実

第一 本 訴
  原告訴訟代理人は「別紙第一目録記載の土地につき原告が所有権を有することを確認する。被告等(但し被告中部電力株式会社及び被告日本電信電話公社を除く)は原告の右土地の使用を妨害してはならない。仮りに被告等(但し被告中部電力株式会社及び被告日本電信電話公社を除く)において右土地の通行を許されるならば、同被告等は原告に対し各自昭和三六年以降一ケ年につき金一万八千円の割合による金員を支払え。被告中部電力株式会社は原告に対し右土地上の電柱その他の送電施設を撤去せよ。被告日本電信電話公社は原告に対し右土地上の電話施設を撤去せよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに第一ないし第三項を除く部分につき仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
一 別紙第一目録記載の土地は原告が昭和三五年八月二三日頃買受け現在原告の所有である。
二 しかるに被告中部電力株式会社及び被告日本電信電話公社以外の被告等(以下これを被告居住者等と略称する)は何等権原がないのに右土地を通路として使用し、原告の右土地の使用を妨げている。
三 被告中部電力株式会社(以下被告中部電力と略称する)は右土地上に無断で電柱その他の送電施設を所有して、その敷地を占有している。
四 被告日本電信電話公社(以下被告電電公社と略称する)は右土地上に無断で電話施設を所有して、その敷地を占有している。
五 よつて、原告は右土地につき所有権を有することの確認を求めるとともに、被告居住者等に対し原告の右土地に対する使用妨害禁止を求め、仮りに右被告居住者等において右土地を通行することが許されるなら同人等に対し各自昭和三六年以降一ケ年金一万八千円の割合による使用損害金の支払を求め、また被告中部電力及同電電公社に対しては右土地上に存する右各被告等所有の送電施設及び電話施設をそれぞれ撤去することを求める。
 と述べ、被告居住者等の抗弁に対し、
一 被告居住者等が本件土地につき通行地役権若しくは囲繞地通行権を有することは否認する。仮りに同被告等が右権利を有するとしても、同被告等は右権利につき登記を経由していないから、第三者である原告に対抗することを得ない。
二 被告居住者等の権利濫用の抗弁は失当である。原告は本件土地が現況道路であることを知らずして買受けたものであるが、原告は固定資産税を支払いながら、現在これを使用し得ない状態にある。原告が所有権に基づきその使用収益の妨害排除を求め、或は被告居住者等に対し適正な使用料相当の損害金の支払を請求することは、当然な権利の行使である。
 と述べた。
  被告居住者等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実をすべて認める。と述べ、抗弁として、
一 訴外朝倉千代吉、同谷口藤次郎は旧守山町大字小幡字北山二七七三番の土地を共有していたが、同訴外人等は大正の末頃郊外住宅地として右土地を分譲する計画を樹て、昭和元年一二月三〇日右土地をいずれの土地も巾員四米ないし六・五米の道路に接するようにして百余筆に分割した。そしてその際に道路敷地として分割されて生じた土地が本件土地である。したがつて分譲予定地として分割された土地は昭和二年始め頃から順次譲渡されたにもかかわらず本件土地は他人に譲渡されることなく、右訴外人等の共有に残されていた。そして右訴外人等は右土地分譲に際し、パンフレットに本件土地を道路として明示し、土地購入者が本件土地を随意に通行し得る旨を明らかにしていた。
 右事実に徴すれば右訴外人等は前記分譲地を売渡すにあたり、その購入者のために本件土地(道路)に永久存続の通行地役権を明示又は黙示的に設定したことが明らかである。そして被告居住者等は右訴外人等から分譲された別表記載の土地を承継取得したものであるから、いずれも本件土地につき通行地役権を有している。
 仮りに右地役権の設定が認められないとしても、本件土地は前記訴外人等によつて道路とされて以来三〇有余年の間、善意、無過失、平穏、公然に、継続して各分譲地所有者等の通行の用に供されて来たのであるから、被告居住者等は時効により本件土地についての通行地役権を取得した。
二 仮りに通行地役権が認められないとしても、前記朝倉、谷口両名が一筆の土地を分割して、本件土地を道路として残置したほかは、その余の土地をそれぞれ譲渡した結果、分譲地はすべて公路に通ぜざる袋地となつた。そこで分譲地取得者は囲繞地通行権として本件土地を通行する権利を取得するに至つた。したがつて被告居住者等は分譲地の承継取得人として当然本件土地につき囲繞地通行権を有するのである。
三 原告は被告居住者等の右地役権及び通行権につき登記の欠缺を主張するが、原告は本件土地の現状を知悉しながら、不当な利益追求の意図を以つて本件土地を買受けたものであるから、被告居住者等の通行地役権に登記の欠缺を主張することは信義則に反し許されない。また囲繞地通行権は袋地所有権と一体をなす権利であるから、これを第三者に対抗するために登記を必要としない。
四 仮りに本件土地につき通行権が認められないとしても、原告の本訴請求は権利濫用として許されない。即ち、原告は本件土地が既述の如き事情で専ら道路として分譲地所有者等の通行の用に供されている現状を充分知りながら、最近の著しい地価の暴騰に着目して、分譲地所有者等の困惑に乗じ不正不当な利益を得んとして本件土地を買受けたのである。そうして、右買受後早速原告は右土地を通路として使用している分譲地所有者等に対し高価に売りつけんとしたが、その要求が容れられないと見るや通行妨害の挙に出て、本訴を提起するに至つたのである。
 と述べた。
  被告中部電力訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、
 原告が本件土地を所有していることは認めるが、被告中部電力所有の送電施設が右土地上に存することは知らない。
 と述べ、抗弁として、
仮りに被告中部電力所有の送電施設が本件土地上に存するとしても、原告の請求は権利濫用として許されない。即ち、原告は本件土地が長年道路として使用されるに至つた事情及びその現状を知りながら暴利を図る目的で敢えてその所有権を取得したものであるから、本件土地につきにわかにその用法を変え、道路としての機能を害するが如き権利の行使は許されないばかりか、被告中部電力の送電施設は当時の本件土地所有者の懇願により設置されたものであること、右施設は道路敷地の側端から僅か〇・四米内側に設置されているのであつて、このために土地使用に重大な支障を与えるものではないこと、及び右施設は本件土地附近の住民に対する電力供給上必要なものであり、これを撤去するときは重大な社会問題を生ずることからも、原告の本訴請求は権利の濫用として許されないものである。
 と述べた。
  被告電電公社指定代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、
 原告が本件土地を所有していることは認めるが、被告電電公社所有の電話施設が右土地上に存することは知らない。
 と述べ、抗弁として、
 仮りに被告電電公社所有の電話施設が本件土地上に存するとしても、原告の請求は権利濫用として許されない。即ち、原告は本件土地が長年道路として使用されてきたことを熟知のうえこれを買受けたものであること、被告電電公社は昭和八年以来順次本件土地上に電話施設を設置し、分譲地居住の電話加入者に対し公衆電気通信役務の提供をなしてきたが、これに対し本件土地の所有者は何ら異議及び金銭補償の申出をせず土地使用を承認してきたこと、右電話施設を直接利用する電話加入者数は約四六世帯であり、本件現場の特殊な地形上、右施設を撤去し、新しく電話線路を設置することは極めて困難であり、電話加入者初め一般公衆に対し著しい損害を与える結果となること、これに反し右施設を存続せしめても僅かに道路側端の一部を占有するに過ぎないのであるから、それによる原告の損害は殆んど生じないこと、以上一切の事情を考慮するならば、原告の請求は権利濫用として到底認容さるべきものではない。
 と述べた。

第二 反 訴
  反訴原告等訴訟代理人は反訴請求として、主文第三、四項同旨並びに反訴費用は原告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として、
一 別表記載の各土地及び別紙第二目録記載の土地はいずれも訴外朝倉千代吉、同谷口藤次郎の郊外住宅地分譲計画により、一筆の旧守山町大字小幡字北山二七七三番の土地が分割せられて生じた土地であり、反訴原告等は右訴外人等から分譲された別表記載の各土地をそれぞれ承継取得して、現にこれを所有しているものである。
二 しかして、反訴原告等所有の各土地は前記訴外人等の土地分割によりすべて公路に通ぜざる袋地となつた結果、右各土地の取得者たる反訴原告等は譲渡人である右訴外人等共有の別紙第二目録記載の土地について囲繞地通行権を有していたものである。よつて右訴外人等から本件土地を譲受けた原告に対しても、右囲繞地通行権を対抗し得る。
三 原告は昭和三五年一二月二五日売買により別紙第二目録記載の土地の所有権を取得するや、直ちに反訴原告等に対して右土地の買取方を要求し、反訴原告等の通行を妨害する意図のもとに、右土地上に家屋を建築しようとしたり、通行禁止の掲門を構築したり、或は通行料徴収のための公示板を設置したりして反訴原告等の本件土地の通行を妨害する行為に出ている。
四 よつて、反訴原告等は別紙第二目録記載の土地につき民法第二一三条による無償通行権を有することの確認を求めるとともに、原告に対し、右妨害行為の禁止を求める。
 と述べた。
(証拠関係)
 原告(反訴被告)訴訟代理人は甲第一号証の一ないし四、同第二号証を提出し、証人小栗太郎兵、同三浦健、同早川良一の各尋問を申出で、乙第六、七号証、同第九号証、同第一六号証、同第一七号証の一ないし二五、同第一八号証の一ないし六、同第一九号証の一ないし五、丙第一号証、同第三号証の成立は認める、その余の乙各号証、丙各号証の成立は不知、と述べた。
 被告居住者等(反訴原告等)訴訟代理人は乙第一ないし第一六号証、同第一七号証の一ないし二五、同第一八号証の一ないし六、同第一九号証の一ないし五を提出し、証人冨永義彦、同香川広一、同川口銀久、同田原要、同加藤千一、同関口要蔵、同加藤重三、反訴原告佐伯力次郎本人の各尋問を申出で、第一、二回検証の結果を援用し、甲各号証の成立は認める、と述べた。
 被告中部電力訴訟代理人は前記乙各号証を提出し、第一回検証の結果を援用し、甲各号証の成立は認める、と述べた。
 被告電電公社指定代理人は前記乙各号証及び丙第一ないし第六号証を提出し、証人大内麻呂、反訴原告西垣勇本人の各尋問を申出で、第一回検証の結果を援用し、甲各号証の成立は認める、と述べた。

理     由

   原告主張の別紙第一目録記載の土地と反訴原告等(本訴被告居住者等、以下必要に応じ単に反訴原告等と略称する)主張の別紙第二目録記載の土地とは坪数において一畝二〇歩の相違があり、又場所の点においても多少の相違があるが、大部分において一致するから、以下両者を本件土地と略称する。
第一 原告の被告居住者等に対する本訴請求及び反訴原告等の反訴請求について、
一 原告が別紙第一目録記載の土地を所有することは被告居住者等において争わないところであり、また過去においてこれを争つた形跡もない。そうすれば当事者間に何等争いのない右土地所有権につき、原告が確認の訴を提起することは不必要なことであり、右訴は訴の利益を欠くものとして却下を免れない。
二 反訴原告等が原告所有の本件土地を通行していることは当事者間に争いがない。よつて反訴原告等が本件土地について通行権を有するや否やについて判断する。
 証人冨永義彦、同加藤重三の各証言とこれらによつて真正に成立したものと認められる乙第一号証、成立に争いのない乙第一六号証、同第一七号証の一ないし二五並びに反訴原告佐伯力次郎、同西垣勇本人尋問の結果を総合すれば、訴外朝倉千代吉、同谷口藤次郎の両名は、大正の末期、その共有していた旧守山町大字小幡字北山二七七三番の土地を郊外住宅地として分譲する計画を樹て、昭和元年一二月三〇日右土地をいずれの土地も巾員四米ないし六米の私道に接するようにして百余筆に分割した結果本件土地及び別表記載の各土地が生じたこと、本件土地は当初より分譲地の道路敷地に予定されていたので、その当時からすでに完全な道路の形態に整備されていたこと、したがつて本件土地以外の土地が昭和二年初め頃から分譲地購入希望者に対しつぎつぎに売渡されたにもかかわらず本件土地は将来公道化する予定のもとに譲渡されることなく右朝倉、谷口両名の共有のまま残置されたこと、反訴原告等は右訴外人等から分譲された別表記載の各土地をそれぞれ現在所有していることが認められる。
 そうして、前掲証人冨永義彦、同加藤重三の各証言、反訴原告西垣勇本人尋問の結果に第一、二回検証の結果を総合すれば、別表記載の各土地はすべて前記分譲によつて公路に通ぜざる袋地となり、現在もその状態が変つておらないことが認められる。
 してみれば別表記載の土地が分譲されたとき右土地の譲受人は民法第二一三条第二項により、右訴外人等の共有する本件土地につき囲繞地通行権を取得したものというべく、よつてその譲受人又はその譲受人から更に右土地を譲受けた者である反訴原告等は、本件土地につき囲繞地通行権を有するものというべきである。そして右通行権は袋地について法律上当然生ずる所有権の一作用であり、且つ不動産登記法はこれについて登記を認めていないから、右囲繞地通行権は登記なくしてこれを第三者に対抗し得るものというべきである。尤も民法第二一三条の無償通行権は被通行地の特定承継人には対抗することを得ない旨の見解(朝鮮高等法院昭和一二年一一月一二日判決)があるが、かかる見解は被通行地所有者の恣意により袋地所有者の既得権を不当に剥奪する結果になるから到底賛同し難い。よつて反訴原告等は本件土地の新所有者である原告に対し、右囲繞地通行権を以つて対抗し得るものというべきである。
 なお民法第二一三条第二項は、袋地所有者が公路に至るため譲渡人の所有地を通行する権利があることを認めておるから、これを文字どおり解釈するならば、反訴原告等はその所有地から公路に達する間のみを通行し得べく、その他の道路を通行し得ないかの如き観を呈するが、本件土地は初めから分譲地所有者をして随意分譲地内を通行せしめるために開設せられた道路であるから、本件の如き場合には右囲繞地通行権は拡張せられ、敢えて公路に至るためのみならず、分譲地内の他の土地に至るためにも本件土地を通行することができるものと解するを相当とする。そして右通行権が無償であることは民法第二一三条によつて明らかである。
以上の理由により、
(1) 反訴原告等が別紙第二目録記載の土地につき無償の通行権を有することの確認を求める反訴請求は理由がある。
(2) 反訴原告等が通行以外の方法によつて本件土地に対する原告の所有権を妨害している事実はこれを認めるに足る証拠がなく、そして反訴原告等が右土地について通行権を有することは前記認定のとおりであるから、反訴原告等のその余の抗弁事実を案ずるまでもなく、原告の反訴原告等に対する妨害排除の請求は失当として棄却を免れない。
(3) 反訴原告等の有する囲繞地通行権が無償であることは前記認定のとおりであるから、原告の反訴原告等に対する使用損害金の請求は理由がない。
三 次に反訴原告等の通行妨害禁止の請求について案ずる。
 成立に争いのない乙第一八号証の一ないし六、証人小栗太郎兵、同冨永義彦、同川口銀久、同加藤重三の各証言及び第一、二回検証の結果を総合すれば原告は本件土地の所有権を取得するや、反訴原告等が右土地を通行することを禁止するため本件土地上の南側公道に接する個所(二七七三番の三五と同番の三六の中間附近)に通行禁止の立札を立てたり、右土地上の二個所に通行料徴収の公示板を設置したり、若しくは右土地上に家屋を建設しようとして建築許可を申請したり、更には本件土地の所々に杭を打つたりして反訴原告等の通行を妨害したことが認められる。
 そうして、右事実からすれば、将来も原告が反訴原告等の本件土地の通行を妨害する挙に出るおそれが十分あるものと推認される。
 よつて、反訴原告等は原告に対し、前記囲繞地通行権に基づき原告に対し通行妨害行為の禁止を求めることができるものというべきである。
第二 原告の被告中部電力、同電電公社に対する請求について、
一 原告が別紙第一目録記載の土地を所有することは右被告等において争わないところである。被告等が原告の右土地所有権を何等争わないのに、その確認の訴を提起することは、訴の利益を欠くこと前記第一の一において説明したとおりである。よつて原告の右土地所有権確認の訴は不適法として却下を免れない。
二 第一回検証の結果によれば、本件土地上に被告等が原告主張のような電柱をそれぞれ設置していることが認められる。
そこで、原告の右電柱の撤去請求が権利濫用にあたるかの点について判断する。
 成立に争いのない丙第三号証、証人大内麻呂の証言とそれによつて真正に成立したものと認められる丙第六号証、証人冨永義彦、同加藤重三の各証言、反訴原告佐伯力次郎本人尋問の結果及び第一回検証の結果を総合すれば、昭和二年頃すでに、完全な道路の形態に整備されていた本件土地上に被告ら所有の電柱が設置されていたこと、右設置は当時の本件土地の所有者であつた前記朝倉、谷口両名の希望によつてなされたものであつて、爾来三〇有余年本件土地上にずつと被告等所有の電柱が設置されてきたこと、右電柱はいずれも道路敷地の側端に設置されているものであつて、これを存続させても本件土地の使用に支障を与えることが殆んどないこと、これらの電柱を撤去して他に移転することは本件土地附近の地形上極めて困難であることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。
 そしてまた、右のような送電施設及び電話施設を撤去することが本件土地附近の住民に対し生活上重大な影響を及ぼすことは多言を要しないであろう。
 したがつて右のような諸事情を考慮すれば、原告が本件土地を所有しているからといつて、直ちに被告等所有の電柱の撤去を求めることは正に権利の濫用にあたり、到底認容されるべきものではない。
第三 結語
  以上の理由によつて、原告の所有権確認を求める本訴請求は不適法としてこれを却下し、原告のその余の請求はいずれも失当として棄却し、反訴原告等の反訴請求はいずれも正当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

名 古 屋 地 方 裁 判 所 民 事 第 五 部
裁判長裁判官    杉  本  重  義
   裁判官    井  野  三  郎
   裁判官    上  田  誠  治

第  一  目  録

名古屋市守山区大字小幡字北山二七七三番の四二
一 山 林  一町五反一畝二〇歩
   別紙図面赤線を以つて囲んだ部分


第  二  目  録

名古屋市守山区大字小幡字北山二七七三番の四二
一 山 林  一町五反
   別紙図面赤斜線の部分


別  表(略)



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