昭和51年(ワ)第563号上水道工事同意請求事件


昭和五四年七月一七日判決言渡同日原本交付 裁判所書記官  稲垣 守
昭和五一年(ワ)第五六三号上水道工事同意請求事件

判     決

  当事者   別紙当事者目録記載のとおり

主     文

一 被告小林有喜、同新井正広、同株式会社中井製材所、同八雲化成株式会社、同中山光明、同井口みちほ、同高村広、同永井友紫は原告らに対し、原告らから別紙償金額表記載の金員の支払を受けるのと引換に、別紙物件目録(二)記載の各自の所有土地につき名古屋市が水道の布設工事及び給水装置工事をすることに同意せよ。
二 被告岡田博、同藤田芳之、同木下福重、同安達勇は原告らに対し別紙物件目録(二)記載の各自の所有土地につき名古屋市が水道の布設工事及び給水装置工事をすることに同意せよ。
三 原告らの被告小林有喜、同新井正広、同株式会社中井製材所、同八雲化成株式会社、同中山光明、同井口みちほ、同高村広、同永井友紫に対するその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用中、原告らと主文一項の被告らとの間に生じたものはこれを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を右被告らの負担とする。原告らと主文二項の被告らとの間に生じたものは右被告らの負担とする。

事     実

第一 申立
 一 原告ら
  被告らは原告らに対し別紙物件目録(二)記載の各自の所有土地につき名古屋市が水道の布設工事及び給水装置工事をすることに同意せよ、訴訟費用は被告らの負担とするとの判決を求めた。
 二 被告岡田、同木下、同安達を除く被告ら
  原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とするとの判決を求めた。
 三 被告安達
  被告安達は本件口頭弁論期日に出頭しないがその陳述したものとみなされた答弁書によれば、同被告の所有地内において上水道工事を行うことに同意する、訴訟費用は原告らの負担とするとの判決を求める旨の記載がある(同被告はその後転居先不明となり、公示送達による呼出を受けた。)。

第二 主張
一 原告らの請求原因
1 別紙物件目録(二)の土地(以下本件土地という。)及び同目録(一)の土地(以下原告ら所有地という。)一帯は元朝倉千代吉及び谷口藤次郎の共有する旧守山町大字小幡字北山二七七三番、二七五八番であつたが、右両名は大正末頃高級住宅地の分譲計画をたて、右土地を約一〇〇坪(三三〇・五七平方メートル)ないし五〇〇坪(一六五二・八九平方メートル)の土地に分割し、いずれも巾員四メートルないし六・五メートルの通路に接するようにし、昭和元年頃から数回に亘り、小幡翠松園と名付けて分譲した。
2 右分譲の際、一部の土地は通路用地として前記両名の共有のまま残され、通路として整備され、将来は公道にする予定であり、分譲を受けた者らの通行の用に供されてきた。
3 原告らは右分譲の際またはその後それぞれ別紙物件目録(一)の土地を買受け、居住している。
4 右通路用地は、その後転々と所有者が変り、かつ別紙物件目録(二)外一九筆に分筆された。被告らは、本件土地が通路用地として残されたものであり、原告らが通行権を有することを知りながら、それぞれその所有権を取得したものである。
5 原告らは各自多大の費用を支出して井戸を掘り井戸水を使用してきたが、次第に水位が低下しかつ水質が悪化してきたため、名古屋市の水道を利用する必要に迫られている。一方被告らは本件土地に給水工事がされたとしても実害を受けることはない。
6 以上の事実関係からすれば、原告らは被告らに対し本件土地のうち各自の所有土地に名古屋市が水道の布設工事及び給水装置工事をするにつき同意を求めうるというべきである。
7 よつて原告らは被告らに対し、本件土地のうち各自の所有土地に名古屋市が水道の布設工事及び給水装置工事をするにつき同意を求める。
二 被告小林、同新井、同中井製材所、同八雲化成、同中山、同井口の答弁及び抗弁
1 請求原因1の事実中、原告ら主張の各土地を約約一〇〇坪(三三〇・五七平方メートル)ないし五〇〇坪 (一六五二・八九平方メートル) の土地に分割し、いずれも巾員四メートルないし六・五メートルの通路に接するようにしたことは否認する、その余の事実は不知。
2 同2の事実中、原告ら主張の土地が通路として整備されたことは否認する、その余は不知。
3 同3の事実は不知。
4 同4の事実中、右被告らが別紙目録(二)のそれぞれの土地を取得したことは認める、転々と所有者が変り、かつ別紙目録(二)外一九筆に分筆されたことは不知、その余の事実は否認する。
5 同5の事実中、被告らが実害を受けることがないとの主張は争い、その余は不知。
6 同6は争う。
7 抗弁
 仮に右被告らに受任義務があるとすれば相当な償金の支払が条件とされるべきである。
三 被告高村の答弁及び抗弁
1 請求原因1ないし3の各事実は不知。
2 同4の事実中、原告ら主張の土地が通路用地であることは不知、その後転々とその所有者が変りかつ分筆されたこと、被告高村が別紙目録(二)の15の土地を取得したことは認める、その余の事実は否認する。
3 同5の事実中、被告高村が右土地に給水工事がされたとしても実害を受けることがないことは否認し、その余は不知。
4 同6は争う。
5 抗弁
 仮に同意義務があるとしても、原告らは右土地を使用することにつき十分な償金を支払うべきである。右土地内に水道設備が半永久的に設置され、しかも将来にわたり保守管理されることになれば、被告高村の右土地の使用は殆ど不可能となるのであり、同被告がその所有権取得時において、右土地が原告らの通行の用に供されていることを全く知らなかつたことを勘案し、民法二一二条、下水道法一一条の趣旨からすれば、被告高村に対し十分な補償をすべきである。本件翠松園分譲の当初右土地について通行権は予想されていたが、水道については全く予想されておらず、各戸井戸水によるものとされていたのである。この点からしても補償の必要なことは明らかである。補償額は、通路の占用料等に関する条例(名古屋市条例)に基づく占用料を参考にすれば、同条例の別表、その他の地下埋設管、外径が〇・四メートル未満のものに準じて長さ一メートルにつき一か年二二〇円となる。但し右使用料は道路法上の道路の使用に関するものであり、被告高村所有の土地は通行権が付着しているとはいえ私有地であるので、右使用料の額は最低補償というべきである。甲第一号証のうち、補償金の算定に関する部分は被告高村の利益に援用する。これによれば、償金額は一平方メートル当り一五円とされているが、その後の物価の上昇を勘案すれば、一平方メートル当り二六円とするのが相当である。
四 被告永井の答弁及び抗弁
 原告らの主張は、これを要約すれば、原告らの一方的都合、利便のために被告永井の所有権を制限、侵害すべく企図されたことは極めて明白である。原告らは同被告の所有権を制限、侵害しうる法的根拠もしくは正当な理由を明示しなければならない。殊に原告らの主張は独断的で、同被告との利益較量、受忍者側に対する適切な補償等の配慮が全く無視されている。
五 被告藤田は昭和五二年一月一八日午前一〇時の第六回準備手続に一度出頭し、第一、二の申立をしたのみで、請求原因事実に対する答弁をしない。
六 被告岡田は本件口頭弁論期日に出頭せず、かつ第一回口頭弁論期日までに答弁書その他の準備書面を提出しない。
七 被告安達の答弁は第一、三のとおりである。
八 被告木下は公示送達による呼出を受けた。

第三 証拠
一 原告ら(被告岡田、同安達を除く被告らとの関係)
 甲第一ないし第四三号証(第三三、第四一号証には各一、二がある。)を提出し、証人冨永義彦の証言を援用し、乙イ第一、第三、第四、第六、第七号証の各一、二、第二、第五号証、第八ないし第一四号証の成立は認める、乙ロ第一号証の成立は不知、第二号証の成立は認めると述べた。
二 被告小林、同新井、同中井製材所、同八雲化成、同中山、同井口
 乙イ第一ないし第一五号証(第一、第三、第四、第六、第七号証には各一、二がある。)を提出し、被告八雲化成代表者兼被告中山光明の尋問の結果を援用し、甲第一号証、第四一号証の一の成立は認める、第三二号証、第三三号証の一、二、第三四ないし第三六号証、第三八ないし第四〇号証、第四一号証の二、第四二、第四三号証の成立は不知、その余の甲号各証は原本の存在及び成立を認めると述べた。
三 被告高村
 乙ロ第一、第二号証を提出し、被告高村の尋問の結果を援用し、甲号証につき右二と同一の認否をした。
四 被告永井
 甲号証につき右二と同一の認否をした。

理     由

第一 原告らと被告小林、同新井、同中井製材所、同八雲化成、同中山、同井口、同高村、同永井との間での判断
 原本の存在及び成立に争いのない甲第一一、第一二、第一五、第二四、第二五、第二七号証、第二九ないし第三一号証、証人冨永義彦の証言及びこれによつて成立の認められる甲第三二号証、第三三号証の一、二、第三四ないし第三六号証、第三八、第三九号証に弁論の全趣旨を総合すれば、原告らと被告小林、同新井、同中井製材所、同井口、同永井との間で原告らの請求原因事実が、原告らと被告八雲化成、同中山、同高村との間で、原告らの請求原因事実中4の「右各被告は本件土地が道路用地として残されたものであり、原告らが通行権を有することを知りながら」との点を除くその余の事実が認められ、他に右認定に反する証拠は存しない。
 以上の事実関係からすれば、民法二〇九条、二一〇条、二二〇条、下水道法一一条の規定の趣旨を類推し、原告らは右被告らに対し、本件土地のうち各自の所有土地に名古屋市が水道の布設工事及び給水装置工事をするにつき同意を求めうるというべきである。
 右被告らは原告らに対し償金の支払を求め、これと右工事をするについての同意との同時履行の抗弁を主張しているものと解されるので検討するに、弁論の全趣旨によれば、翠松園分譲の当初生活用水は各自が掘さくした井戸によるものとされ、水道によることは予想されていなかつたこと、本件土地に水道設備が恒久的に布設されかつ将来にわたり保守管理されることになれば本件土地の所有権が制限されることが認められるので、右被告らは原告らに対し民法第二一二条の規定を類推し償金の支払を求めうべく、その額は、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証及び証人冨永義彦の証言によれば、当裁判所昭和四四年(ワ)第六八五号上水道工事同意請求事件において昭和四八年一二月二〇日本件と同様の償金として一平方メートル当り一五円が相当であるとする判決の言渡があり、右判決はその頃確定したことが認められるところ、右昭和四八年当時と本件口頭弁論終結時である昭和五四年の消費者物価指数を比較すると、昭和五〇年を一〇〇とした場合の昭和四八年は七一・九、昭和五三年は一二二・六であるので(総理府統計局・消費者物価指数年報・昭和五三年)、償金額は一平方メートル当り二五円と認めるのが相当である。
 よつて、右被告らは別紙償金額表の各金員の支払を原告らに求めうべく、かつ、工事をするについての同意と右償金の支払とは同時履行の関係にあると解される。
 そうだとすれば、原告らの右被告らに対する請求は、右被告らに対し別紙償金額表の金員を支払うのと引換に右被告ら各自の所有土地につき名古屋市が水道の布設工事及び給水装置工事をすることの同意を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九二条を適用して主文のとおり判決する。
 
第二 原告らと被告藤田、同木下、同岡田、同安達との間での判断
 その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定される甲第一一、第一二、第一五、第二四、第二五、第二七号証、第二九ないし第三一号証、証人冨永義彦の証言及びこれによつて成立の認められる甲第三二号証、第三三号証の一、二、第三四ないし第三六号証、第三八、第三九号証に弁論の全趣旨を総合すれば、原告らと被告藤田、同木下との間で、原告らの請求原因事実が認められ、他に右認定に反する証拠は存しない。
 被告岡田は民訴法一四〇条三項、被告安達は同条一項の各規定により、原告らの請求原因事実を自白したものとみなされる。
 以上によれば原告らの右各被告に対する請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法九三条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

名 古 屋 地 方 裁 判 所
    裁 判 官   松  原  直  幹

当  事  者  目  録
(略)


物 件 目 録 (一)(二)
(略)


償   金   額  表
(略)

註:当事者からの申し入れにより、主文中当事者名の一部については仮名を使用しています。


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