昭和四四年(ワ)第六八五号上水道工事同意請求事件


昭和四八年一二月二〇日判決言渡同日原本交付 裁判所書記官 伊藤順造
昭和四四年(ワ)第六八五号上水道工事同意請求事件

判     決

   当 事 者
     別紙当事者目録記載のとおり。

 右当事者間の頭書事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主     文

被告らは、原告らが各自各被告らに別紙償金額表記載の金員を支払うのと引換に、原告らに対し、別紙物件目録(一)記載の各土地につき名古屋市が敷設する上水道配水装置および右配水装置から原告らの各戸への上水道給水管工事をなすことを同意する。
原告のその他の請求は、これを棄却する。
訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告らの、その他を被告らの各負担とする。

事     実

第一 当事者の求める裁判
 (原告らの請求の趣旨)
  被告らは別紙物件目録(一)記載の各所有土地につき、原告らに対し、名古屋市が敷設する上水道配水装置および右配水装置から原告らの各戸への上水道給水管工事をなすにつき同意せよ。
  訴訟費用は被告らの負担とする。
 (請求の趣旨に対する被告らの答弁)
  原告らの請求を棄却する。
  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二 当事者双方の主張
 (原告らの請求原因ならびに主張)
一 別紙物件目録(一)、(二)記載の各土地(以下本件土地という)および別紙所有者土地明細表記載の各土地(以下原告ら所有地という)一帯は元訴外朝倉千代吉および同谷口藤次郎の共有する旧守山町大字小幡字北山二七七三番地であつたが、右両名は大正末頃高級住宅地の分譲計画をたて、右土地を約一〇〇坪ないし五〇〇坪の土地に分割して、いずれも巾員四ないし六・五メートルの通路に接するようにし、昭和元年頃より四回にわたり「小幡翠松園」と名付けて分譲売却した。
二 右分譲の際、右通路用地として北山二七七三番の四二の土地が前記両名の所有名義のまま残置され、道路の形態に整備され、将来は公道にする予定であつた。
三 その後北山二七七三番の四二(地目山林)の土地は転々とした後、現在では分筆されて被告らおよび第三者所有の本件土地となつている。
四 原告らは前記分譲の際又は分譲買受人等から原告ら所有地を取得し、居住している。
五 本件土地は現在原告ら所有地を完全に囲繞している道路で、その状況は別紙図面のとおりである。
六 原告らは右道路につき無償通行権を有する(名古屋地方裁判所昭和三六年(ワ)第五三五号所有権確認等請求事件および昭和三九年(ワ)第二三九一号通行権確認等反訴請求事件において、原告らの一部と本件土地の前所有者朝倉丞作との間で、原告らの一部の本件土地における無償通行権が確認されている)。
七 被告らは本件土地が通路用地として残されたものであることおよび原告らが無償通行権を有することを知りながら右土地を取得したものである。
八 原告らは名古屋市の上水道敷設工事につき被告らの同意を得られないので、各自井戸を掘つて種々の支障を克服してきたが、最近では水位の低下や水質の悪化等でそれもままならず、名古屋市民として近接場所に上水道設備を見ながらその利用を妨げられている。
九 原告らが本件土地につき無償通行権を有する以上、被告らは右土地を通路以外に用いることができないものであり、被告らはそれを知りながら又は知ることができる状態で右土地を取得したものであつて、地下に上水道設備を設置しても被告らの損失は何もない一方、原告らは健康で文化的な最低限度の生活を営むために、あるいは火災等の防災対策に迫られているため名古屋市の上水道を敷設する必要性は甚大である。
一〇 従つて原告らは憲法第二五条により被告らに対し名古屋市が敷設する上水道配水装置および右配水装置から原告らの各戸への上水道給水管工事をなすにつき同意を求める権利があり、又は被告らがそれを同意しないのは権利の濫用であるから、被告らは原告らに対しそれを同意する義務がある。
 (請求原因に対する被告らの認否ならびに主張)
 一 請求原因第一、二項の事実は知らない。
 二 同第三項の事実は認める。
 三 同第四項の事実は知らない。
 四 同第五項の事実は認める。
 五 同第六項の事実は否認する。
  仮に原告らが本件土地につき無償通行権を有するとしても、被告らが上水道工事を受忍すべき義務は生じない。このことは上水道供給事業が私営であつた場合を想定すれば明白である。
 六 同第七項の事実は否認する。
 七 同第八項の事実中、被告らが同意しないことは認めるが、その余の事実は知らない。
 八 同第九項の事実は否認する。
  被告らが本件土地につき所有権者として主張できるのは、わずかに上水道工事に関する同意権位のものであり、被告らがそのわずかな権利を行使したからといつて権利濫用にはならない。
 また、原告らは井戸水の利用が高度に可能である。
九 仮に被告らに名古屋市の上水道工事につき原告らに対して同意する義務があるとしても、原告らはその償金として被告らに三・三平方メートル当り金一〇〇〇円を支払うべきである。

第三 証拠関係
 (原告ら)
一 甲第一号証、甲第二号証の一ないし五、甲第三、第四号証の各一、二、甲第五ないし第二四号証、甲第二五号証の一ないし八、甲第二六、第二七号証の各一ないし三、甲第二八、第二九号証、甲第三〇号証の一ないし四、甲第三一号証の一ないし八、甲第三二号証、甲第三三号証の一、二、甲第三四ないし第三六号証、甲第三七号証の一、二、甲第三八号証、甲第三九号証の一ないし五、甲第四〇ないし第四二号証を提出する。
二 証人篠田利弘、同牧鍵、同国分良治、同加藤金五郎、同原田繁雄の各証言、原告冨永義彦の本人尋問の結果を各援用する。
 三 検証の結果を援用する。
 (被告ら)
一 甲第七号証、甲第二六号証の二、三、甲第二七号証の一ないし三、甲第二八、第二九号証を被告らの利益に援用する。
二 証人原田繁雄の証言、被告小川孫次郎、同浅井時敏、同丹羽誠の各本人尋問の結果を援用する。
三 甲第一、甲第七ないし第二四号証、甲第二五号証の一ないし八、甲第二六、第二七号証の各一ないし三、甲第二八、第二九号証、甲第三〇号証の一ないし四、甲第三一号証の一ないし八、甲第三七号証の一、二、甲第四〇ないし第四二号証の各成立は認めるが、その他の甲各号証の成立は知らない。

理     由

一 本件土地は元守山町大字小幡字北山二七七三番の四二(地目山林)であつて、その後分筆されて別紙物件目録(一)記載のとおり被告らが所有していること、および現在本件土地が原告らの所有地を完全に囲繞している道路でその現況が別紙図面のとおりとなつていることは、原告らと被告らとの間においては争がない。
二 いずれも原告らと被告らとの間において真正に成立したことにつき争のない甲第一号証、甲第一六ないし第二四号証、甲第二五号証の一ないし八、甲第三〇号証の一ないし四、甲第三一号証の一ないし八、甲第四一、第四二号証、原告冨永義彦の本人尋問の結果によりいずれも真正に成立したことを認める甲第二号証の一ないし五、甲第三二号証、甲第三九号証の一ないし六、証人篠田利弘、同牧鍵、同国分良治、同加藤金五郎、同原田繁雄の各証言、原告冨永義彦、被告浅井時敏、同丹羽誠の各本人尋問の結果、検証の結果によれば、本件土地および原告ら所有地を含む一帯は元訴外朝倉千代吉および同谷口藤次郎共有の北山二七七三番の山林であつたが、右両名は大正の末頃右土地を住宅地として分譲する計画をたて、全体を約一〇〇坪ないし五〇〇坪の土地一〇〇筆余に分割していずれも巾員四ないし六・五メートルの通路に接し、分割に因り公路に通じない土地を生じないようにし、昭和元年頃から四回にわたり売出し、現在その一部を別紙所有者土地明細表記載のとおり原告らが宅地として所有していること、右分譲の際北山二七七三番の四二の土地が前記私道用地として将来公道化する予定で前記両名の名義に残され、分譲地との境界に杭を打つて道路の形に整備してあつたが、その後公道化されないまま分筆して第三者に売却され、転々とした後現在その一部が本件土地として前記の如く被告らの所有に帰したこと、本件訴提起当時である昭和四四年三月八日現在、本件土地付近一帯の分譲地にはほとんど住宅が建築され、本件土地に電柱、下水道が設置され、又日常人や自動車の一般の通行に用いられていること、原告ら所有地附近には名古屋市の上水道設備が敷設されていること、がそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。
三 右によれば、本件訴提起時である昭和四四年三月八日現在、本件土地は分譲計画当初から道路として利用されてきたものが完全に道路化し、将来においても道路としてのみ用いうるに過ぎないこと(なお原告らの一部と本件土地の旧所有者との間における名古屋地方裁判所昭和三六年(ワ)第五三五号所有権確認等請求事件および昭和三九年(ワ)第二三九一号通行権確認等反訴請求事件において原告らの一部が本件土地につき通行権を認められ、右判決は確定している)、今日電気、ガス、上水道、電話、下水道等は多くの場合道路を用いて敷設され(下水道法においては公共下水道への排水設備設置等につき土地所有者に受忍義務がある)、また道路を利用することが敷設費用や保守等の点で有利であり、それを敷設しても道路としての使用に支障をきたさないことならびに原告らの所有地に上水道を供給しようとする場合は同所有地が本件土地に沿つていることにより本件土地を利用せざるをえないこと、防疫防災上原告ら所有地に上水道を供給する必要性があることが認められるから、原告らは上水道設備を敷設するために本件土地を利用する必要は甚大であるといわなければならない。
四 一方、前記のような本件土地の現状からは、本件土地に上水道配水装置および右配水装置から原告らの各戸への上水道給水管工事を施しても、本件土地につき被告らの被る損害はその程度自体および前記原告らの利益に比べ僅少であるものと認められる。
五 しかし、被告らの被る損害は僅少とはいえ、単に何らの設備なしに通行を受忍する場合と異なり、本件土地に配・給水管、水道空気弁、消火栓等の恒久的設備が敷設され、かつ将来にわたりその保守等のために本件土地の所有権が制限されることになる以上、民法第二一二条の「通行権を有する者は通行地の損害に対して償金を払うことを要す」と規定する条項、(本件は公路に通じている為民法第二一三条の場合に該当しないことは前記認定のとおりである)宅地建物取引業法第三五条第一項の私道の負担の条項等の趣旨を類推し、その償金を払うことを要するものというべきである。
六 されば、右工事により不可分の利益を受ける原告らが被告らに対し不可分的に相当の償金を払う場合には、右被告らにおいて原告らに対し名古屋市が別紙物件目録(一)記載の土地につき前記上水道工事を為すことにつき同意をしないことは、右被告らにおいてその所有権を濫用することになるから、その限度で右所有権は制限されるべきものといわなければならない。
七 ところで、証人原田繁雄の証言、原告冨永義彦、被告小川孫次郎、同丹羽誠、同浅井時敏の各本人尋問の結果、原告らと被告らとの間においてはその成立に争がない甲第一六、第二〇、第二一、第二四号証によれば、昭和四一年ないし昭和四四年までの間に右被告らはいずれも本件土地のうち右被告ら所有部分を三・三平方メートル当り一万円弱で買つたり、三三〇〇円ないし一万円で担保として受取つたり、不動産業者との競り合いにより一万円で競落したり(最低競売価格二〇〇坪三万円)、あるいは五〇〇〇円ないし二万円で売買を申入れたり等している事実、その際被告らの一部は守山市役所の評価証明書を調べたことが認められ右認定に反する証拠はない。
 右によれば、昭和四四年三月八日当時の原告ら所有地および本件土地一帯の土地の価格は少くとも三・三平方メートル当り平均五〇〇〇円を下らないものであつたことが認められる。
 右価格に土地収容法第八〇条の二、公共用地の取得に伴う損失基準要綱(昭和三七年六月二九日閣議決定)、地代家賃統制令による地代並びに家賃の停止統制額又は認可統制額に代るべき額等を定める告示を勘案すると、前記、償金額は一平方メートル当り一五円と認めるのが相当であるから、原告らは各被告らに別紙償金額表記載の金員を支払う必要があることになる(なお本件土地はいずれも巾四メートルないし六・五メートルの細長い道路であることは前述のとおりであるから、本件土地の長さと面積とはほぼ比例する)。
八 よつて、被告らは原告らが不可分的に被告らに対し別紙償金額表記載の金員を支払う場合には、原告らに対し、別紙物件目録(一)記載の土地につき名古屋市が敷設する上水道配水装置および右配水装置から原告らの各戸への上水道給水工事を為すことを同意すべき義務があることとなり、その限度において原告らの請求は正当であるからこれを認容することとし、右被告らに対するその他の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

名 古 屋 地 方 裁 判 所 民 事 第 八 部
裁判長裁判官    越  川  純  吉
   裁判官    丸  尾  武  良
   裁判官    草  深  重  明

当  事  者  目  録
(略)


償  金  額  表
(略)


物 件 目 録 (一)(二)
(略)


所 有 者 土 地 明 細 表
(略)



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