資  料 No.5


守山区小幡翠松園地区上水道敷設に関する陳情書

  昭和三十九年九月八日

守山区小幡翠松園地区上水道敷設に関する陳情書

陳 情 代 表 者
名古屋市守山区大字小幡字北山二七七三ノ一五九
翠松会会長 小幡連区翠松園
町総代小  島  義  隆
名古屋市守山区大字小幡字北山二七五八ノ三〇
翠松園道路対策組合
理事長渡  邊  忠  勝
                





  名古屋市長 杉 戸   清殿




名古屋市守山区小幡翠松園地区左記道路並に住宅に上水道を敷設していたゞくようお願いします。

      記

一 守山区大字小幡二七七三及二七五八両番地総面積約四二九、七五二平方米
二 右道路総延長      約八、三〇七米
三 右道路面積     四一、〇九七平方米
四 右地区居住者     別紙名簿のとおり

    理    由

(一) 園 史
 当翠松園は大正末期朝倉千代吉及谷口藤次郎の両名が共同で当該所有地に巾員四米乃至六米の道路(側溝付)を設定区画し翠松園と名打つて過去四回に分け売出された分譲住宅地域であります。その後今日に至るまで実に百数十戸の住宅が建設され年々増加の一途をたどつている現状であります。また園内には既に都市計画事業として都市公園地区に指定された個所もあり、名古屋周辺のベツトタウンとしてますます発展の途上にあり稀に見る好環境の住宅地域であることは周知の事実であります。
(二) 渇水状況
 しかしながら昨今の様に住宅の急増に加え、
水の大口需要を必要とする高層アパートの新築により園内の水位は増々低下し渇水期には軒並に相次いで一滴の水も出なくなり、馬穴をさげて遠距離を家族総出で貰い水をする悲惨な日夜を過したこともあります。住民はその都度多額の経費を費し井戸を掘り下げつゝ急場を凌いできましたが、中には掘下げ不能のため新規に井戸を掘らなければならない家庭も出る現状で、年々の水位低下には一層住民を水飢饉に追込む結果となり、日常生活は極度に脅かされ最大の死活問題となつてまいりました。私達住民は今や憲法で保障された健康で文化的最低限度の生活保持さえも困難になつてまいりました。公衆衛生の向上、生活環境の維持等住民の基本的生活権を守るためにも、今こそ園内一体の水飢饉を早急に解決すべく、上水道の敷設は緊急中の緊急課題であり熱望してやまない次第であります。
(三) 災害状況
 また、一方不慮の災害に思いを馳せる時、全住民は、その都度恐怖に怯えなければなりません。天災(落雷、地震、台風等)による自然発火、或は失火または放火等により火災が発生したとき、殊に強風下においては一大山火事となり全域ことごとく炎につゝまれ一瞬にして灰燼にきすることは必至であります。地元が取敢ず初期消火をするにも消防車の出動を得たとしても消火する「水」がなくてはどうすることもできず、いたずらに炎のなすがままに委せるより仕方がありません。昭和四十年一月二十七日午前十時五十分頃園内の新築家屋より出火がありました。この際消防車の出動もありましたが、幸にして発見が早く風もなかつたため大事に至らず鎮火しましたが、若し発見が遅れたり、当日強風下であつたならば如何なる事態に発展していたか今更ながら戦慄を禁じ得ません。
大都市名古屋の一画として、まともな消火設備一つない住宅地域が他にあるでしようか。まさに陸の孤島といわざるを得ません。これら災害に対処し、市民の生命、財産を守るため、消火設備の完備こそ地方公共団体に課せられた当然の義務であり、徒らに放置することは許されない問題であると思考致します。
以上防災上からも上水道の敷設と共に消火栓の緊急設置を重ねて懇願する次第であります。
(四) 上水道敷設工事の実績及び撤去並に陳情請願
 私達住民は市民生活の安全保持のため先に上水道の敷設を守山市へ要望し、昭和三十五年六月漸く愛知用水の通水を期に家庭需給の目途で市は都市計画事業として待望久しき上水道の敷設工事に着手され住民一同歓喜と安堵にしたつていた処、突然当該道路敷所有者である名古屋市北区黒川本通一ノ七八不動産業朝倉丞作の工事中止要求により折角敷設した水道管及消火栓を地元の強い存置要望にもかゝわらず一方的に撤去されてしまいました。
当該道路敷を商取引の対象として取得した悪徳業者一個人の要求により公共の福祉を無視した守山市の行為に対して住民は唖然とすると共に限りない憤りを感じた次第であります。名守合併後は名古屋市当局へ陳情を繰返し、近くは昭和三十九年九月八日杉戸名古屋市長殿に陳情書を、田中名古屋市会議長殿に請願書を夫々提出いたしましたが、朝倉丞作所有の園内二七七三ノ四二番一五、〇八七平方米が目下係争中であるため住民の切なる要望もむなしく未だ上水道敷設の気配もありません。
(五) 裁 判
 昭和三十六年四月十日朝倉丞作は園内二七七三ノ二石黒たま氏始め四十七名及中部電力株式会社並に日本電信電話公社を被告として相手取り所有権確認等請求の訴訟を名古屋地方裁判所へ提起し以来既に六年を経過しました。その間昭和四十年十月十六日名古屋地方裁判所は原告朝倉の請求は権利の濫用であるとの理由により、その訴状を全面的に退け、私共住民の主張である無償通行権はついに認められ、完全なる勝訴の判決言渡があり同時に、送電柱、電話柱等施設の撤去の請求をも却下された次第であります。
しかし、その後朝倉は名古屋高等裁判所に控訴し、あくまでも自己の利益のために無謀に近いまでの悪徳ぶりを主張しようとしていましたが、裁判は昨年末昭和四十二年十二月二十七日にいたり第一審判決そのままの確定証明が下り、当住民側主張を全面的支持となり、勝訴に終わりました。ここに朝倉控訴の裁判は終結をみたわけであります。
なお控訴人朝倉は公判中において、当地域内の所有地を他に転売し、現在では自己所有の土地も皆無であり、名義も変更されている次第であります。
(六) 結 語
 果しない一悪徳業者の権利濫用を主張する裁判の終結をみ、住民側の正しい行為が法のもとに明るみに出るの時期が到来しました。私共日常生活を維持し、又災害から身を護るためにはどうしても水資源を確保することこそ切実であり緊急に解決されなければならない重要問題であることを訴えてまいりました。今こそ上水道の敷設のための諸問題を一気に解決していただきたい念願切なるものがあります。
市当局におかれては園内の現状を直視され、前述の諸点を充分御賢察願うと共に一個人(悪徳業者)の権利濫用を許すことにより憲法並に民法等で保障された公共の福祉が、かりそめにも軽視或は忘却されることのない様、市民生活の保持と公衆衛生の向上並に防災対策等の見地から早急に上水道を敷設していたゞく様ここに全住民署名捺印し重ねてお願い致します。




翠 松 会 名 簿 (昭 和 四 十 二 年 四 月 現 在)

一  組   十一名( 氏名 略 )
二  組    七名( 氏名 略 )
三  組   十八名( 氏名 略 )
四  組   十五名( 氏名 略 )
五  組   十二名( 氏名 略 )
六  組   十七名( 氏名 略 )
七  組   十三名( 氏名 略 )
八  組    九名( 氏名 略 )
九  組    九名( 氏名 略 )
十  組    九名( 氏名 略 )
十一 組   十二名( 氏名 略 )
十二 組    八名( 氏名 略 )



註:名守合併とは、愛知県守山市が名古屋市に合併され名古屋市守山区になることを指す


Back to :

経緯概要 判決一覧 資 料 集 公判記録
Home Page