a happy princess mermaid
                           
幸 せ な 人 魚 姫

















「ねぇ、パパ。この絵本のお話、とってもカワイソウな話だよ。」

瞳に、うっすらと涙を浮かべながら、庭の木の下で絵本を見る類の息子、亮輝(りょーき)がいた。


「・・・ん〜?」

その隣には昼寝をしていた類がいた。





「どれどれ?『人魚姫は、海の泡となって消えてしまいました』・・・人魚姫か。」

「うん。」


潤んだ瞳を軽くこすりながら、亮輝は頷いた。




「亮輝、昔ママも人魚姫みたいにカワイソウだったことがあったんだよ。」

「えっ!そうなの??」

「あぁ、そうさ。」


類は苦笑いしながら言った。


「亮輝、司おじさんを知ってるだろう??」

「うん。」



亮輝は司の姿を思い浮かべる。

あの背の高くて、髪の毛がくりくりしたおじちゃんの事だよね・・・・??





「なんで、司おじさんは結婚していないか知ってる?」

「ううん。なんで??パパは知ってるの??」


亮輝は、なぜ司の話がでてくるのか分からなかった。


「・・・昔、司おじさんとママは愛し合っていたんだよ。」

「えぇーー!!??」


亮輝は飛び起きた。


「じゃぁ、なんでパパとママが結婚したの??」

「それはね、何年か前の話になるけど・・・」











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「道明寺っ!?私のことを本当に忘れたの??」

大粒の涙を流しながらつくしは叫んだ。




「お前なんて知らねぇよ!」

みんながいる目の前で司は言い放った。


「司っ!駄目だよ、そんなこと言ったら!」

司の彼女の海が言う。





「顔も見たくねぇ!!二度と俺の前に現れんな!!」

「・・・分かった。私がいなくても、司には海ちゃんがいるもんね・・・。」







     バタンッ!!!







つくしは黙って部屋を出ていった。


「牧野!!」

類は急いでつくしを追いかける。





「おいっ!!!牧野、待てよ!!」


つくしは病院の屋上へと走っていった。

類も、つくしの後を追って、屋上へと急いだ。



「牧野!!待て!!」



類がいくら叫んでも、つくしは止まろうとしない。


「・・・・・・・・・・。」



つくしは、無言で屋上の手すりに手を掛けた。

そして、身を乗り出そうとした。




この病院の屋上から落ちたら、まず、助からない。





「おい!!」




類は力ずくで、つくしを自分の方に引き寄せた。


「やめてっ!!もう、司を失った私には、なんにも残らないの・・・!!」


つくしは、涙で顔をグシャグシャにしながら叫んだ。


「もう、花沢類はなして!!花沢類!!る・・・」


類の強引なキス。


「んん・・・!!!」


でも、そのキスには、類の優しく、そして悲しい気持ちが入り交じっていた。


「花沢類っ!!やめてっ!!!」


つくしは類を突き放そうと、もがく。

・・・が、そんな抵抗は意味もなく、類はつくしを強く抱きしめた。

類はつくしの耳元で言った。


「俺だって、牧野を失ったら、もう何も残らない・・・!!」


類の声はかすかに震えていた。


「俺は、牧野がすべてなんだ・・・。」

「・・・・・。」

「牧野がいなくなったら、悲しむのは俺だけじゃない。」



花沢類は私が居なくなったら、悲しんでくれるの・・・・??



「牧野の家族や、友達のみんなだって、悲しむ。」

「・・・・・。」

「牧野は、誰にとっても大切な存在なんだ!!」




その言葉を聞いて、つくしはまた涙が溢れてきた。





        『大切な存在』








私は、その言葉を求めていたのかも知れない・・・・。



道明寺に、『お前なんか、いらない。』って言われたらどうしよう。っていつも恐れてた・・・。

いつも、恐れてて、周りのことは何にも見えなかった。自分の事しか考えてなかった。



それに今、道明寺が必要としているのは、私じゃない。

でも、ここには私を必要としてくれる人がいる・・。彼がいる・・。



「俺が、牧野を支えてやる・・・・・。一生、ずっと。」








この優しさに少しだけ、甘えてもいいですか・・・・??


















それから、私の考えていること、思っていることを、全て花沢類に打ち明けた。


彼は何も言わずに『うん。』とだけ、頷いて、いつも傍にいてくれた。


なにげない彼の優しさが、ただただ、嬉しかった。





もう大丈夫だよ

僕がここにいるから




これからは

僕が君を守っていくから




我慢しなくていいんだ 



どんなときも

なにがあっても  




もう君の目から涙が落ちないように

君が哀しみを知らなくなるように


僕が君を守っていくから




もし 雨のように悲しみが降ってきても




僕が君を少しもぬれないように

やさしく包み込んであげるから




そして 雨がやんだら

僕が愛をいっぱいあげるよ




君が笑顔を忘れないように・・・ 









類は、いつも私に、そう囁いてくれた。


時が経つにつれ、花沢類と私の関係は深まっていった。



私はだんだん、類に惹かれていき、類のことを好きになった。


そして、司が記憶喪失になってから2年・・。


ついにその事を類に打ち明けた。




「あなたが好き。なによりも、どんなものよりも。」


類は、優しく微笑んでこう言った。


「俺も、つくしが好きだよ。誰よりも愛してる。」


類はつくしを抱きしめながら囁いた。



「Don't feel alone.」


「え?今なんて言ったの?」


「『ひとりじゃないよ』」


その言葉を聞いて、つくしも微笑んで言った。


「うんっ。もう、ひとりじゃない。類には、私がいるよ。ずっと。」


類は、つくしの可愛らしさに、優しくキスをした。

つくしも、類のキスを優しく受けいれた。


「つくし、結婚しよう。」

「はい。」










そして、1ヶ月後。類とつくしは、みんなの祝福を受けて結婚した。







「類、おめでとうな!」

「つくし、おめでと!!」


司も類とつくしの結婚式に来ていた。


「牧野。」


司に『牧野』と呼ばれるのは、記憶喪失になって以来だった。


「結局、お前のこと、思いだせなくてわりぃ。幸せになれよ、お前ら。」


「「ありがとう。」」




道明寺が私たちのことを祝福してくれるなんて思ってみなくて、嬉しくて涙が出た。




道明寺。あんたを好きになったことを後悔してないよ。


道明寺に出会えたことを、心から嬉しく思ってる。


道明寺との出会いがなかったら、私はこうして類と出逢うことは出来なかったから。


さよなら、大好きだった人。












「つくし、幸せになろうな。」

「うん!きっと、なれる!だって、類がいるんだもん。」

「ずっと、つくしの傍にいるよ。」

「ありがとう。私も、ずっと類の傍にいるよ。」














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「・・・って事があったんだよ。」

「そうだったんだ。」

「あぁ。」


「それじゃぁ、まだ今も、司おじさんは記憶がもどってないの??」

「・・・いいや。もう記憶はもどってるよ。」




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