◇vampireを読む前にワンクッション◇

類くん吸血鬼、つくしちゃんお姫様設定。
パラレル小説。シリアスチックになる予定。



















































自分の運命を

どれだけ呪ったことか





この世に生まれなければよかったのに

そう何度願ったことか



しかし

どうすることもできない俺は


ただ苦しみに

顔を歪めることしか出来ない














      vampire
                              吸 血 鬼 @














世の中を照らしていた太陽が沈み、街が色とりどりの街灯で灯される頃。

ポツン、とした一件の空き屋に小さな光が灯っていた。




この街全体を見下ろすことが出来る、その丘の上の小さな空き屋の屋根の上。

ゆらゆらと揺れる光を放っているランプを隣に置き、俺はごろんと横になっていた。





ひらひらと黒いマントは風に吹かれ踊る。

黒い帽子も飛ばされないように気を遣いながら。










そして、またいつものように考え事をする。





俺は俺自身が嫌いだ。

昼間は動けず、夜だけしか動き回れないこの身。


ああ。人間が羨ましい。

周りと同じように歳をとってゆき、死ねるのだから。














「またひとりで考え事?」

くすくす、と小さな笑いが聞こえてきた。



俺は身体を起こし、声がする方を見てやる。

ひょこん、と屋根の下から彼女が顔を出したのが見えた。







風に揺れる、肩までの短い黒髪。

俺を映す、大きな瞳。

そして何よりも、人を惹き付ける笑顔が印象的な彼女。


この街に来て数ヶ月。

初めて会ったのが、目の前にいる彼女だった。



それ以来、彼女とここで会うのが毎日の習慣となっている。








彼女は梯子を登り、少しふらつきながら俺の隣へとやってくる。

彼女の少し危なっかしい足取りが気になって。

「気をつけなよ。」

彼女に手の差し伸べる。



俺の差し伸べた手を握った彼女は、俺の隣へ腰を降ろして。

「大丈夫よ。」

高いところは好きだもの、と嬉しそうに言った。












二人で肩を並べて座る。


この時が俺にとってかけがえのないもの。

ずっとこうすることが出来ればいいのに。












・・・・・・・・・。

何を考えているんだ俺は。


俺は吸血鬼で、人間じゃない。

彼女は人間で、吸血鬼じゃない。







そんなの前から分かっているじゃないか。

今さら何を。










俺が急に黙り込んでいたからだろうか。

「どうかしたの?」

少し不安そうな表情をした彼女が俺に問いかける。



「いや。なんでもないよ。」

悩んだってしょうがない。

俺一人でどうこう考えても、どうにかなる問題じゃないんだから。


そんな気持ちを悟られないように、彼女に明るく話しかける。




「毎日こんな時間に屋敷を抜け出して、大丈夫なの。」

だって仮にも彼女は、この街のお姫サマ。

こんなことが許される筈無い。




「大丈夫。みんな気付きやしないわ。」

彼女は、俺の肩にちょこんと頭をのせた。



屋敷の奴らが気付いていない筈無い。

きっと彼女もそれはわかっているだろう。








でも。


頭ではそう分かってはいても。

今、この時間を失いたくない。


そんな想いが邪魔をして、否定をすることは出来なかった。









どちらともなく二人で空を見上げた。

丘の上にあるここからの眺めは最高だった。






360度全てが星空。

散りばめられた星達は、いつまでも光り輝く。




「星空が綺麗ね。」

「ああ。」





見上げた先にある星空は、本当に美しかった。

悩みなんて、あっという間に消えて無くなってしまうような気がするほど。















しばらく二人で星空を見つめていた。

これという会話は無かったけれど、何だか心地良い。











すると、丘の下の街の方がざわついているのに気が付いた。



門構えも大きくて立派。

屋敷はきれいに磨かれ、広い庭に根を下ろしている植物は、こまめに手入れが施されている。


そんな、街の中でも一際大きな屋敷が、何やら騒がしい。



「姫様がいらっしゃらないわ!!どうしましょう!?」

彼女の屋敷から、おそらくメイドのものであろう悲鳴が聞こえた。







あーあ、と彼女はため息をつくと立ち上がった。

「運が悪かったわ。」

もう少しここに居たかったのに、と言葉を漏らしつつも彼女は帰らなければならない。



彼女と一緒に梯子の方まで、ゆっくりと歩く。

彼女は、地面へと繋がっている梯子に掴まると、俺に軽く手を振った。







「また明日も会いに来るわ、類。」

「ああ。待ってる。」


いつものように約束を交わすと、トントンという梯子を降りる音を残して、彼女は去っていった。














彼女の姿が見えなくなると、力が抜けたようにまた屋根に寝ころんだ。





見渡す先は、全て星空だけ。

星は、さっきのように輝いていた。



でも。

彼女と一緒に見ていた方が、もっと星空は美しかったような気がした。








また明日も彼女と会えるだろうか。

彼女は今日、屋敷を抜け出したのがばれてしまった。

もしかしたら、しばらく会えないのかも知れない。









そんなことを独り考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた。



くすくす。



少し踊る気持ちを抑え、声のする方を見てみる。

帰ってしまったはずの彼女が、またひょっこり顔を出していた。







「忘れ物してたわ。」

トトト、と屋根の上を小さく走りながら彼女は言った。

やっぱりそんな彼女が危なっかしくて。

また、俺は彼女に手の差し伸べる。



彼女はさっきと同じように俺の手をとると、隣にちょこんと座った。





帰ってきた彼女に尋ねる。

「忘れ物って、なに。」

屋根の何処に置いていったのだろう。

何も置いてなかったような気がするが。



周りをきょろきょろと見回していると、彼女はまたくすりとした。






「そんな所にはないわよ。」



彼女の言葉と行動の意味がよく分からなくて。

俺は首を傾げる。


「私が忘れたのは。」








気が付いたら、彼女の顔が近づいて近づいて。









唇を、奪われた。












「おやすみなさい。」

笑顔と共に彼女は梯子を降り、夜の街へと消えていった。

固まったままの俺を残して。










「・・・・・・。」

俺、きっと今マヌケな顔してるんだろうな。

情けねぇの。







そう思いながらも、頬が緩んでしまうのは事実で。

にんまりとしたまま、屋根に寝ころんだ。









ああ。星空が綺麗だなぁ。

星達がきらりと光った。





でも、そんな幸せも束の間。

緩んでいた頬は、次第に硬直していった。








呪文のように頭の中で繰り返される言葉。


人間をすきになってはいけない

人間を好きになってはいけない





消し去ろうとしても、なかなか消えてはくれない。






わかってるよ。

わかってるから。










自分にそう言い聞かせた後。

俺はゆっくりと起きあがると、風に混じって闇に姿を眩ました。









もうやめよう。

この街に居るのは。




闇に溶け込みながら、ぽつりとそんな言葉が口から漏れた。



                     A→






05/10/14


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数年ぶりに長編に挑戦。

既に体力消耗中ナリー。あぁ、歳をとったな自分。笑