「だ・だ・だ・だっ、、、誰だーっ
アスハ邸に響き渡声はキラのもので
「な〜きらぁ〜?」
舌足らずな声で聞き返して、けらけら笑ったのはあろうことかアスランだった。
ここはアスハ邸のリビングのひとつ。気さくな人が招かれる部屋だった。
「アスラン、近寄るな!」
抱きついて来たアスランをキラは力いっぱい跳ね除けた。
いつもなら吹っ飛ぶはずのアスランは風に吹かれる柳のごとく、ふにゃふにゃ〜と上体を揺らし持ちこたえると、今度はキラの足にしがみ付いた。
「これが酔拳、、、、って言ってる場合じゃない。離せ、アスラン。いったい誰が君に酒を‥」
こんな馬鹿力があるなら普段から使えよという言葉を噛み砕き、キラは足を振るもアスランは一向に離れない。
「きらぁ〜、だ〜い好きぃ〜。」
「君、完全に酔っ払ってるね。」
キラの傍にもっと寄ろうと、アスランはキラの服に掴まって足から登ろうとする。
「止め‥」
「キラ、今の声は何だ?」
カガリが扉を開けると、今まさに、アスランによってキラのズボンは脱がされようとしていた。
「‥‥‥」
「ちがっ、カガリ!これはっ」
「あらあらまあまあ。」
カガリの後ろから覗き込んだラクスは口を押さえる。
「カガリさん、どうやら取り込み中のようですわ。邪魔になりませぬようあちらへ」
「違うっ、カガリ!助けて。」
脱がされたズボンが足に絡まり、尻餅をついたキラはカガリに手を伸ばした。
「アスランが酔っ払ってて!だからっ」
「酔っ払う?」
小首を傾げるカガリの顔を蒼白な面持ちで見つめるキラの首に、アスランが手を回す。
「きらぁ、だ〜い好き。きらはぁ?ねぇねぇ、きらはぁ?」
「離せ、アスランっ」
その様子を指差し、カガリはラクスをうかがった。
「どうやらアスランはキラが好きで、アルコールの力を借りて告白なさってるのですわ。」
「男同士で?」
「愛に性別など関係ありませんわ。」
「関係大有りだーっ、カガリ、早く助けてっ」
しかしカガリはきっぱり首を振った。
「恋愛の邪魔はしちゃいけないぞ?馬に蹴られたり犬に喰われなかったり‥」
「犬が喰わないのは、、、って、いま、間違いを訂正してる場合じゃない。アスランのは愛の告白じゃなくてただの幼児後退!」
キラにすりすり擦り寄っているアスランと、ズボンは脱げ、シャツのボタンがちぎれ、よれたシャツを引っ掛けただけのキラをカガリはしゃがんで見つめた。
「ようじこうたい?」
「だから!ストレスが溜まるとアスランは昔を懐かしむ現実逃避をするんだよ。酒が入って僕と一緒だった頃の子供に戻ってるんだ。」
「まあ、子供の頃からそういう関係でしたの?」
「ラクス、君、面白がってるね。まさか酒を飲ませたのは‥」
キラの顔が引き攣る。
「子供の頃って‥アスランはラクスの婚約者だったんだろ?そういうのはいけないぞ。はっきりさせないと。」
そういうのってどういうのだよ と思いつつも今の状態から抜け出そうと、キラはアスランをしがみ付かせたまま床を張ってカガリの傍まで移動し始めた。
「あの?」
「ラクスはもう黙っててくれ。」
「わかりましたわ。キラがそうおっしゃるのでしたら」
含みを持った言い回しに一瞬動きを止めたものの、離れないアスランに業を煮やし、キラは前進を再開する。引き摺られるアスランのしがみ付く手はだんだんと首から肩、胸、胴へと落ちていき
ズルッ
「あ!」
「え?」
やっぱり
「キラ、尻が丸見えだぞ!?」
「分ってるからふたりとも、向こうむいてて!」
しがみ付こうとするアスランを阻むのを諦め、キラはパンツとズボンを穿いて、肌蹴かけたシャツを直した。
『尻だけ尻だけ‥』
「大丈夫ですわ、キラ。前は見てませんから。」
念を押すなーっ(涙)だいたいどうしてアスランに酒なんか、、、ラクスだって酒癖悪いの知ってるだろ?」
「それは間違ってますわ。」
「コレを見て、どう間違ってるって言うんだ?」
アスランのでこをキラが弾くと、アスランはいたぁいと言って泣き出した。
「こら、キラ。子供をいじめちゃいけないんだぞ。」
カガリはアスランの側によると、よしよしとその頭を撫でた。
「アスランは子供じゃない。」
「幼児退行ってお前が言ったんじゃないか。」
「精神は子供でもなりは大人だ!僕の様を見ていろ。」
「それは貞操の危機でしたわね。」
「あ〜もう、あー言えばこう言う‥」
「なりは関係ない。」
「カガリ?」
「気持ちが大事だろ!」
そういうとカガリはぐずるアスランを抱え込んだ。人肌の感触に安心し、血行が良くなったのかアスランの顔がほんのり赤くなる。
「カガリ、アスランは酔っ払いだ。危ないから離れて!」
「そうですわ、カガリさん。キラなら笑い話で済みますが、カガリさんは‥」
「僕は笑い話な訳‥」
ま〜いいけどね 明後日を見ながら呟くと、キラはカガリとアスランの間に入った。
「わ〜、きらがふたりぃ。」
「キラじゃない。私はカガリだ。」
キラの手をのけてずいっと前に出たカガリを見、アスランはニッコリ笑った。
「かがり〜?」
「そうだ。カガリだ。」
「かがり、だ〜い好き。」
抱きつこうとしたアスランを、キラとラクスが引っ張る。
「酔っ払いだからって許さない!」
              しません!」
「だいたい、ラクスがアスランに酒なんか飲ませるから‥」
「あら、先ほども言いましたがそれは間違いですわ。わたくしはアスランにアルコールを勧めた事は一度もありませんし、アスランの酒癖が悪いとも知りませんでした。」
「じゃあ、誰が‥?」
「みたところ、酒瓶なんてこの部屋には無いぞ?どっかで飲んでここに着たのか?」
「いや、アスランは酒に弱いから、他所で飲んでここに辿り着く事はできないと思う‥」
「じゃあ、どうして?」
ぐる〜と見回したキラは、部屋に食べかけのプティングを見つけた。
「これは?」
「それは私がっ」
カガリは顔を赤らめると、キラの手からプティングを取り上げた。
「キラもさっき言ってたけど、、、アスラン、疲れてたみたいだから、、、甘いものでもと思って、、、」
いつもと違い、俯き加減で髪をかきあげながら、小さい声で告げるカガリは微笑ましく
「カガリさんに心配してもらえるなんて贅沢者ですわ、アスラン。」
「全くだね。それでストレスなんてもってのほかだ。」
「いや、私が悪いんだ。ストレスかけるのも私だし、プティングに、、、ちょっと酒を入れてしまった。悪かった、キラ。パンツ脱がせて‥」
パンツは忘れて!!‥いいよ、カガリはアスランが酒に弱いなんて知らなかっただろうし。」
「そうですわ。パンツはともかく香り付けのアルコールぐらいで酔っ払うなんて、アスランが悪いのですわ。」
パンツはいいから!!!
そこへマーナが顔を出す。
「どうかなさいましたか?」
パンツの言葉は聞こえていただろうに、行き届いているマーナは何事も無かったように尋ねた。
「や、、、、マーナさん。何でもありませんから。」
キラが場を取り繕うとする前に、マーナはアスランの様子とカガリのプティングに気付いた。
「まぁ、カガリ様。他人様にお菓子を作られたのですか?」
「うん‥でも、アスランが‥やっぱり私は料理にはむかないな。」
「そんな事無いよ。アスランが弱いだけだよ。」
「そうですわ。カガリさんの手作りならわたくし、喜んでいただきますわ。」
キラとラクスは争うようにカガリのプティングを口に運んだ。
「かがりぃ〜、だ〜い好き〜」
「ハロたんはどこでちゅか〜?あすらん〜?早くつくってくださいな〜」
目元口元を緩ませると、ふたりはアスランと同じく床に座り込んで其々の世界を展開し始めた。
「二人とも酔っ払っちゃったぞ?どうなってるんだ??やっぱり私のプティングが!?」
頭を抱えるカガリに、マーナは溜息をついた。
「当たり前です。たかだか一人分のプティングにアスハ特製ウォッカを1本入れる人がいますか?」
マーナは騒ぎを聞きつけてやってきたのではなく、キッチンで空になった酒瓶を見つけてやって来て騒動に出くわしたのだった。廊下では他のメイド達も控えている。
「お前達も、どうしてお嬢様を止めなかったのです!?」
「お言葉を返して申し訳ないのですが‥」
「お嬢様がお料理をされたのですよ!?」
「しかも、他の男性の方にです!!」
「「「どうしてそれを止められるでしょうか!?」」」
「確かに!殿方の為に料理を作るお嬢様のお気持ちは何を置いても大切にしたいですが、、、、アスハ天国の使用は‥」
「なんで?ウチじゃ当たり前だったろ?」
「それはウズミ様やカガリ様だからです。アスハ天国は、それはもう香りと飲み心地を追求されておりますが、その分アルコール度数は一般のお酒よりはるかに高いのです。普通の方には強すぎます。第一良く固まりましたね。」
「あ、それはめいっぱい寒天を入れたんだ。ゼラチンじゃ固まらなくてさ。」
「まぁ、それに気付いたのはご立派でした。今回はそれでチャラといたしましょう。これからも勉強ともどもお料理も頑張ってくださいまし。」
マーナの言葉にメイド達も拍手を送る。他人よりもカガリお嬢様。それがアスハ邸の従事者の使命。マーナとメイド達はカガリを肯定するように強く頷いた。
「そっか。マーナが言うならそうだよな。良かった〜。」
酔っ払い3人を置いて、カガリとマーナは笑って部屋を後にした。















2008/3/30
ライ様、リクエスト有難うございました。
酔っ払いですが、アスカガとキララクがクリアできているかは‥(リハビリ中と言うのは言い訳になりませんね;滝汗)‥済みません。
ウズミさんなら子供のカガリに酒を飲ませたんじゃないか→カガリは酒に強い→マーナ達は知ってるが他人はどうでもいい→被害はキラとラスク→たまにはアスランも強い立場にしてみよう→虎はアスラン な〜んて考えたら‥書いている7月竜はとっても楽しかったです。
本当に有難うございました。
こんなんじゃないやい!という投稿や、再リクがありましたらお待ちしております。

G.S.Drunkard