echo of hope

賢者の石、それは…
解読した手記は重くて、俺達はふらふらと陽射しの中へ歩み出た。

人間っていうのは、どうして愚かな生き物なんだろう。
これ以上酷い事なんて無いと思っても、新たに出来事は発生し、その都度"酷い状態"の認識は塗り替えられていくわけだ。

廻りから喧騒が消えていく。

俺は、どこに居るんだろう。どこへ行くんだろう。


母さんが死んだ時、俺はまだ希望を持っていた。俺には錬金術があったから。
錬金術を使えば母さんを生き返らせる。それは身の程知らずの望み、そして最悪の大罪。
だが、あの頃は師匠を得、修行を積む事で望みを掴めるところまで来たと思っていた。
実際、理論を導く事は出来たし、アルと一緒なら錬成を相乗する事も出来たから。


母さんの魂の情報はどうするの?
あの日、アルの問いかけを一蹴した俺。

アルはどんな表情だったっけ。

母さんの錬成が失敗した後ですら、俺は絶望していなかった。
身体の痛みよりなお、弟に課した苦しみは俺を責め立て、アルを元に戻すという新たな目標が俺を生へと駆り立てた。この先やってくる未来への恐怖も、家と一緒に燃やした、はずだった。
なのに
国家錬金術師の資格が取れるまでは不安に苛まれ、取れた後はちからと正義を手にしたように思い、いざ現実に立ち向かえば己の卑小さを思い知らされた。

『助けられなくてごめん、ニーナ。助言聞かなくてごめんなさい、ヒューズ中佐。斬り付けてごめん、お前を、忘れてごめん!アルっ』

タッカーに打ち砕かれた錬金術への憧憬。それを振り払いたかった俺はあの時、アルを元に戻す事を忘れた。
組織に染まらずとも自分で何とかできると突っ走った挙句、お前に鎧である事を自覚させてしまった。

12歳だったからなんて言い訳にもならない。お前は11歳で、自分のできる事を探していたのだから。

挙句の果て国家錬金術師でも結局は人間でしかないと、そんな当たり前の事を言い訳にして、俺は目標を義務にしてしまった。

『ごめん、アル!俺は‥俺は弱い人間だ!』

失ってしまったのが全てで。だから賢者の石を使い、元の身体を手にするのだと己の失態を恥ずかしげも無く唇にのせた。


人の命を弄んだ結果だ
「違う!俺はっ俺は…
母親の時のように、失敗するんじゃないのか
〔失敗したら、いや、失敗は許されるのだろうか〕

錬金術に希望は見えなかった。残されたのは大総統がアルに話した賢者の石というパンドラの箱だった。
取り戻さなくては!アルを。身体を。
軍の規則に従うと宣言し、石の情報を渡すと約束もした。
賢者の石がもたらす道を信じて。

だが、たったいま、解った事はなんだ?

セントラル図書館・第一分館。ドクターマルコーの手記に隠されていた賢者の石の秘密。
それは、手の届くところまで来た光を三度打ち砕いた。

錬金術に光と闇があるように、賢者の石にも光と闇がある。
賢者の石を造る為に必要な犠牲。自分達の望みの為に、犠牲を求めてもいいのか
君も望んだはずだ。錬金術師なら試してみたいと思う、その可能性を。
明るい光の中に浮かぶタッカーの薄ら笑いを振り払いたくて、右手を振り上げる。

向けられる笑顔やかけられる言葉、俺達を育むこの世界の誰にも犠牲を強いる事は出来ない。絶対に!
走って、走って、走って。残ったのは鋼の身体だけ。この先、俺達はどうすればいい?

慟哭のかわりに、機械鎧を振り下ろした。


「兄さん」
「………、あ?」
急速に音が流れ込んでくる。軽い目眩の後、景色が映し出され自分がどこに居るのか、頭脳が認識する。アルは振り下ろす途中の俺の義手を受け止めたいた。
「…なんだ?」
「生きてるかと思って」
「は?」
「なんか苦しそうだったから…ごめん」
「あぁ……。べつに……、?」
アルが俺の右手を離したので、そのまま髪をかきあげてふと見れば、アルは座って小鳥と遊んでいる。どうやら心配で声をかけてきたわけじゃないらしい。
文句を言おうと口を開きかけて、ガチガチだった俺にそんな事をするゆとりがやっと生まれた事に気付く。
「できた?気分転換」
計ったタイミングでアルが俺を見上げると、一緒になって小鳥も俺を見上げてきた。

失う事で得られたものもある
リゼンブールへ向かう途中、偶然立ち寄った村で老人が俺に淡々と語った経験。
錬金術師の在り方、軍人の責任、人の生き方、純真な笑顔。
いろんな人にあって、いろんな事があって‥己の大罪を忘れた事も、あった。でも、そんな俺にお前はいつも、ついて来てくれた。
賢者の石の希望が砕け散ったいまでさえも。
お前は、鋼という現実の上に立ってなお、泣いて、笑って、怒って。普通に生きる日常そのもの。

それは失った左足に残されたもの。そして失った右手で掴めるもの。

「…賢者の石の他に方法があるかも。ほら、錬金術って勉強じゃん。どうせ時間はあるんだし。元に戻る事を諦めたら僕達、閑で仕方ないと思うよ」
一番苦しいはずのお前が、事も無げに笑うから。
「他に言い方無いのかよ」
俺だって笑うしかないじゃないか。昔母さんが言った【
エドが笑うとアルは嬉しいのよねぇ】の言葉を信じて、全開の笑顔で。


希望の光を見失った俺に、それでも進もうとお前は言う。希望が大切なのではなく、希望を探す意志こそが大切なのだと。
「諦める事は、いつでもできるよ」
目標じゃなく、義務でもなく、希望・希薄な望みですらなく。
俺達二人の出発点。
母さんを錬成しようと思ったときの"純粋な篤さ"で、
お前と一緒に生きていけたら と、残されたものを抱締めて願う。

7月竜

リクエスト及び掲載許可をありがとうございました。謹んでけい様に捧げます
お題は、新OP・小鳥とアルに笑うエドの心の軌跡なんですが(なのでTV版です)、はっはっはっ(泣)じゃなく、済みません済みません(滝汗)
丁度新OPで思った事、TVの流れで感じた事などが混じって混じって、作ってから削りまくりました(爆)。
「ready〜go」がそれです(苦笑)。
似た話が多いのは1つのテーマにいくつも答えがあるからで自分でもマンネリだと反省中。
一番マシなのを選択してみましたが、あっちがいい(って未だupしてないのもあるんですが)とかありましたら改めて、捧げさせていただきます(汗) 2004/02/07