〜開店おめでとうール〜 」
                                                 7月竜




「等価交換なんて、この世には無いわ。錬金術の真理は、お前が思っているような甘いものではないのよ。」
ダンテが赤子から出した真理の、いや、今では異界への門からのびる黒い手に、エドは抵抗すらかなわず引き込まれた。
エドを招いた門が音も無く締まると、触手蠢く闇の世界。
ダンテの力か、そこを分解される事なく、エドは体ごと暗闇の先にある光へと吸い込まれ‥
「ここは‥?」
目が光になれおずおずと瞼を開いたエドが見たものは
「万事屋?」
「求人募集はしてねぇが?」
「は?」
エドが振り返れば、青い頭が眠そうな目を自分に向けている。
「言葉も満足に話せねぇのか。仕方ねぇ。持参金持ってんならしばらく雇ってやらぁ。」
「人の話を聞け。」
エドの足払いを避け‥たところに愛用のソファがあって。ソファにひっくり返った万事屋銀さんは、その寝心地に再び夢の住人になろうとしいた。
「寝てる場合ですか!これ以上の胃袋扶養は無理です。明日の、いや今晩の米が‥」
「何言うアル、新八。こんな可愛い生き物、定春以来アルね。」
湧いて出るのが十八番の神楽が、背後からエドの首に抱きついた。
「あ、そんなに強く抱き締めると‥」
新八が神楽を止めなければ、エドは二度とアメストリスに戻る事無く昇天していた。
「‥‥ 酸素」
「人死には困るが、生きてりゃ問題ねぇな。じゃ‥」
朦朧とするエドを無視し、非情の万事屋、会議開始。
「無駄飯ぐらいは困る。」
「あんたが言うことですか!」
「飼う飼う〜、定春も仲良くしてるネ。」
『俺は仲良くしてもらえなくて良い‥』
酸欠貧血から解放されたのもつかの間。突然現れた巨大犬もどき定春に頭を咥えられて手足をばたつかせているエドを、他人よろしく銀時と新八は遠巻きに見守った。
≪こら、豪!そんなスピードじゃコースアウトするぞ。≫
≪へへ〜んだ。止めたかったら追いついてみな。もっとも烈アニキのソニックじゃ‥≫
≪何がお尻ペンペンだー。行け、ソニック!≫
「何だ?外が騒がしいな‥」
銀時は窓を開けると大人の顔でもっともらしく注意する。
「こら、公道での危険なミニ四駆走行、、わっ」
「マグナムトルネードーっ」
避けた銀時の頭上を越え、飛び込んできたミニ四駆が定春に当たり、定春は驚いて首を振った。その反動で咥えられていたエドは屋根を付き抜け、屋外へ放り出される。
「痛って〜、くそっ、ここはいったい何なんだ。ダンテの罠か?」
学生服姿の少年が、天から降ってきたエドの様子を伺おうとするのを、連れらしい薄紫の長髪男が慌てて学生の襟首を掴むと引き摺りながら足早に去っていく。
「なんだよ、人をばい菌みたいに。」
尻を擦っていたエドは
「いっ」
痛みを堪えてなんとか四つ這うと、そこで派手なマントが前に立っている事に気付いた。
嫌な予感で確かめたくないのに、体は言う事を聞かずマントに沿って、エドは視線を上げる。
そこには金髪をなびかせ厳しく自分を見下ろしている、長身の男がいた。
「師匠〜」
その後方から、赤銅色の肌を持った少年が息を切らせて走ってくる。
「どんな女性か知りませんが寄り道はダメですよ、師匠。依頼人はここから西の‥?」
カシムは言葉を失った。金髪男・メルヴィの足を止めたのが女性ではなく、男だったからだ。さらにカシムが驚いた事に、メルヴィはしゃがむとエドの頭を撫でたのだ。
「師匠???それ、男ですよ〜!???」
「馬鹿者!子供は労わってやるものだ。」
「確かにちっさいですが‥」
「誰がちっさい子供だっ」
「うわっ、生意気ですよ、この子。」
「お前も身に覚えがあるだろう。怯えて傷付いている子供ほど、牙をむくものだ。」
「俺は怯えてないーっ、状況が理解できないだけだ。いやその前に。頭から手をどけろ!俺は子供じゃねー!!」
「そうかそうか。とりあえずは元の世界に戻せばいいかな。」
「え?そんな事、できるんですか?それより元の世界って‥この子人間じゃないんですか??」
精霊か幽霊か。あるいは魔物かもしれない。カシムがパニクっていると、メルヴィは無情にもその尻に蹴りを入れた。
「口は達者になっても、状況判断すら出来んのか?」
正気に返ったカシムはメルヴィの様子に青ざめる。
「わ〜、こんなところで魔法を使う気ですか?わわっ止して下さい、師匠!師匠の魔力は強すぎ‥」
カシムの静止も虚しく、メルヴィの両手が光ったと思うとエドは凄まじいし衝撃に気を失った。


「兄さん?兄さん、大丈夫?」
揺る動かされ、エドが目を開くと幾分柔らかい造りだが自分に良く似た顔が心配そうに覗いている。
「アル‥?」
「ホムンクルスと対峙してくるって出て行ったと思ったら、爆発とともに帰ってくるなんて‥も〜、兄さん、限度を知らなさ過ぎ!怪我どころか、死んじゃうよ、気をつけないと‥。嫌だからね。死ぬなんてそんなの、絶対認めないからね、僕‥」
アルが言い終わる前に、エドは起き上がるとガバッと弟を抱き締めた。
「アルフォンス〜」
「兄さん?」
「も、絶〜対無茶しない。」
「兄さん!?」
「アメストリスには非常識な奴らが多いと思ってたけど、少佐なんて、まだまだ可愛いもんだった‥」
「少佐が可愛い‥?確かに、いい人だけど‥」
「外の世界は恐い。」
エドは鎧にしがみ付いた。
「ちょっと!何錬成したの?すごい音で、これじゃ軍から隠れている意味無いじゃない‥って、そこ!くっ付かない!!」
飛び込んできたウィンリィが目に飛び込んだ光景にレンチを振り上げるのを、エドは満面の笑みで迎えた。
「お前も可愛かったんだなぁ‥」
「エ、、、、エド?」
ウィンリィの口元が引き攣る。
「どうしたの?アレ‥」
自信と才能、騒動と破壊。暴挙に満ちていたエドの豹変。
「ウィンリィ、スパナで殴った?」
「そんなの、いつもの事じゃない。」
「そうだよねぇ。」
納得してから、それはそれで可哀相かも、とアルは苦笑して抱きついているエドの背を撫でた。
「それにしも、スパナで殴るウィンリィを普通だと受け入れられるほどヘンな世界って‥」


「井の中の蛙、大海を知らず」
出番の無いのを哀愁でカバーしながら、土方が呟いて決めるのを
「そりゃ、幸せってもんですぜ。」
通りすがりに沖田は囁いた。






開店有難うございます〜、開通おめでとうございます〜〜(^▽^)。
j実はコレ‥魔王キャラにセリフが無く、エドとのやり取りが入ってないので未完品なんです(汗;セリフ使いが分らなかったもので)、正しくは色々雑貨店様の方でご確認下さい。そして脱兎(探さないで下さい‥
2006/09/27