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sketch

「あ‥りゃ?アル、、、フォンス!?」

可愛い声の人が面会に来ている。
ジュリエット・ダグラスに促されてジャン・ハボック少尉が来てみれば、丸テーブルの向かいに座るのは、鎧姿のアルフォンス・エルリックだった。
アルはハボックの驚きに、済みません、と小さく謝った。
ハボックが振り返っても既にダグラス秘書官の姿は無く、ここ、上級仕官の休息室でハボックはげんなりとイスに伸びた。
「お前さんのせいじゃないさ、で、用件は?」

ハボックは決してアルが嫌いとか苦手とかでは無い。下士官からの人望を見ても、彼の面倒見の良さはうかがえる。
『兄貴と違って可愛いし、よく気が付くし、でしゃばらない・言う事無い』
ハボックはダレながらタバコに火を点けた。
『だがなぁ‥付属してくるもんがなぁ』

繰り返して言うがハボックはアルが嫌いではない。むしろ気に入っているのだが、それを主張して巻き起こる騒動が面倒なだけなのだ。
そこは恋愛王道を突き進む彼、女にはマメだが野郎にまでは其処までしない。
『ったく尊敬するよ、大佐殿は』

テーブルに懐いていたハボックは、アルが困っているのにやっと気付いて、頬杖付だが顔を上げた。
「その、、、相談が‥あるんです。少尉は、その、、女の人の事とか、よく知ってるからと‥」
申し訳なさそうなアルの視線が反れるのを、ハボックも目で追った。
「だ、大総統〜〜〜!?」
「ん〜?いや、気にしないで続けてくれたまえ。」
見回せば、休憩室には誰もおらず、ハボックは自分が罠に落ちたことを知る。
「その、俺が恋愛のエキスパートだと誰から‥?」
恋愛のエキスパートだと言った覚えは無かったが、アルは突っ込まずに答えた。
「大総統閣下です。」

やっぱり〜やっぱり〜やっぱり〜

『神様〜俺、なんか悪い事しましたか〜?(涙)』

だが、次の瞬間、ハボックは閃いた。
『もしかしなくても、これは出世の糸口では?』

ガシッ

ハボックはアルの手を取ると、胸を叩いた。
「俺に任せなさい!」
「ありがとうございます!ホント、僕、どうしていいか分からなくて‥」
縋るアルの声は、大総統令が無くとも聞いてやりたくなる。
「俺が付いてる。どうした?」
「兄さんの事なんですけど。」
「まぁそうだろうなぁ。」
この兄弟はお互いの事しか心配していないのだ。
「ありがとうございます、少尉。なんか皆さん、兄さんの名前を出した途端、相談に乗ってくれなくて‥」
「それもそうだろうなぁ。で?」
「あ、はい。実は兄さん、女の人を、その、、、睨むんです。」
「は?」
「ウィンリィ以外の人にまで優しくしても困るけど、だからって睨まなくても‥ただでさえ評判が良くないのに、ますます誤解されちゃう‥」

それは睨むのが困るんじゃなくて、兄さんが誤解されるのが悲しいのかな〜!?

という突っ込みは頭の中でエドに蹴りを入れる事で解消し、ハボックはタバコを思いっきり吸い込んだ。「女性を皆?」
「あ‥、あぁいえ‥、話しかけてくる人だけですが。」
「年齢問わず?」
「‥そういえば、おばあさんとか小さい子は睨みませんね。」

すごいです。と尊敬の眼差しを向けてくるアルに、ハボックはガクリと首を落とした。

「それ、大佐には聞いた?ホークアイ中尉とかさ」
煙と一緒に吐き出す。
「大佐は、直した方が良いと。直し方については少尉にお聞きするよう言われました。」

うわぁ〜傍観かい!
ロイの腹は読める。即ち、エドは生贄なのだ。

【女性相手では分が悪い。いくらアルが私を好いてくれたところで、女性には勝てんからな。】
【いつからアルフォンス君が大佐を好きだと言う事になったかは言及しませんが、エドワード君はアルフォンス君に近付く女性除け、というわけですか?】
【べつに私が頼んだわけではないよ、ホークアイ中尉。】
【ご自身は女性に怨まれる事無く、邪魔者も排除できる‥】
【兵法の基本だな。】

ハボックは交わされた会話まで聞こえた気がした。
「そ、そだ。ウィンリィちゃんは?彼女はどう言ってるの?」
「ウィンリィには、、、言ってはありますが、相談は‥、兄さんが直接ウィンリィに告げるまでは、僕‥」

い〜かげんお前もその誤解に気付けよ!いや待て、そのままの方が面白くていいんだけど‥って、笑いを取ってどうする!?俺何考えてんだよ(涙)。

「冗談交じりに言ったんです。ウィンリィ以外の女の人には、兄さんそっけないって‥、そしたらウィンリィは放っときなさいって」

確信犯!

間違いない、ウィンリィ・ロックベルもエドの行動を理解しているうえで、ほくそ笑んでいるのだ。

【変な虫が付かずに助かるわ。女の子は泣かすの、ちょっと気が引けるけど、エドや軍のヘンな連中なら泣かすの0kだもの、アルを守ってみせるわ!】

『どうする、俺〜?どうするよ!?』
「少尉?どこか‥お加減でも?すっごい汗ですけど」
「アルッ」
ガバッと立ち上がると、ハボックはアルの肩を掴んだ。
「拗ねろ!」
「え?」
「女の人を睨むなら、もう口を利かないとか言ってやれ!」
「は?‥い。」
「俺はしばらく旅に出る。探さないでくれ!」
「え、ええ?ハボック少尉!?」
追っかけるまもなく、ハボックは脱兎のごとく逃げ去った。

「え、、、、と、やってみます」

この方法は効果を奏した。ただ、アルが見ている時に限られてはいたが。

「ありがとうございます、ハボック少尉。でも、今はどこに?」
「どうした、アル?」
「あ、兄さん‥。ううん、ハボック少尉はどこにいるのかと思って。」
「行方不明らしいな。大佐が血眼で探し回ってるぜ。横領でもしたのかな?」
「ハボック少尉はイイ人だよ。一生懸命さがすって事は有能だから。大佐に必要だからじゃないのかな。」
「いやに肩持つな。」
エドはアルをちらっと見た。
「俺も‥探そっかな。」
思案気な呟きに、アルは喜声を発する。
「ホント?兄さん。僕も探したい!」
「‥‥‥、そうだな。なんか急に、会って聞きたい事ができたぜ、俺も。」

その頃、大総統府では

「上手くいきましたね。」
「うむ。アルフォンスに、<エドワードに睨まれたと女性が訴えてきているが、困ったものだな。このままでは評判を落としてしまう>と言っただけなのだが、美味い出来栄えに成った。今度はなんにするかな。」
「エンヴィーあたりに父親に化けてかどわかしてもらうのはどうでしょう?」
「うむ。それもなかなか面白そうだな。」

アメストリスは実は平和である。






ムゲ様、御礼にもなりませんが、即興で作ってみました(それが問題か!?;汗)。2005/06/19
ムゲ様から掲載許可を頂きましたので、upしました。ありがとうございました。
2005/07/09

7月竜