ファルマン&7月竜
「両親の死に、軍が関っていると知ったわたしは、イシュバールへ行った。イシュバールをただ、ただ歩いて、歩いて‥気付いたら東の砂漠に抜けていたの。まだ両親が健在だった頃イシュバールからわたしに宛てた手紙にクセルクセス遺跡について書いてあったのを思い出して、せっかくだからと訪ねてみたわ。そこで」
「そこで我々は出会ったのだ。」
ラジオを通して聞くように、少しノイズのかかった声が子供の口から洩れた。
「わわっ、人形が喋っっっ、に、人形じゃなかったのかぁ?」
焦って後退るハボックを、子供は鼻で笑った。
「この体は確かに人形だよ。アルフォンス・エルリックのね。」
子供は自分の体を繁々と眺める。
「どういう、事です?」
アルは立ち上がると、ハボックの前に出て少尉を後に庇った。ウィンリィと子供の体勢を目で測りながら、一歩足を踏み出す。
「私の本体は別なところにある。ウィンリィが君に会いたいと言うので、意識プログラムだけこの体にコピーして護衛を兼ねて君に会いに来た。もっと歓迎してもらいたいところだね。」
「貴方は、誰?」
「ふふ、一番くだらない質問でがっかりだよ、アルフォンス。私が誰かなど問題じゃない。我々が何をするかが問題なのだ。」
「確かに問題だよね。国に混乱を招き、ヒトを機械化へと駆り立てる」
「噂通り頭に来る面白さだな。君は幾何学、いや数学について考えた事があるかい?」
「錬金術を学んでいる間に、自然と学びはしたつもりだけど」
「自然と?そうだろう。数学は世界に満ちている。そして数学の美しいところは、矛盾を許さない理路整然としているところだ。A=B、A=CならばB=C。B≠Cにはならないのだ。違うか?」
「‥‥‥」
アルは返答を返さずまた一歩、ウィンリィへと近寄る。
「だが錬金術は違う。等価交換などと建前だけで、実際は門の向うの平行世界から錬金術に使うエネルギーを徴収しているだけだ。生命もこの世界も、矛盾に満ちている。機械化によってそれは是正され、1+1=2というような明白な世界になる。」
「矛盾で、何が悪いと言うんです?」
ガチャリと鎧が鳴る幻聴を、ハボックは聞いた気がした。静かだが強い怒りを、ハボックはアルから感じていた。
「僕と兄さんは門を開けた事がある。だけど今の僕はまだ勉強不足で、門の向う側を知らない。そんな僕が等価交換を唱えるのは馬鹿な事かもしれないけど、でも誰かを想い、その為に可能性を探す事は、決して馬鹿な事じゃない。馬鹿な事じゃないはずだ!」
アルは叫ぶと一気にウィンリィの元へ走った。
「!」
ハボックも一拍おいて後を追う。
アルはウィンリィの手を取ると、素早くでも優しく少年から離し、自分の後ろへと引っ張った。それを少年は可笑しそうに見ている。
「そんな表情もできるのか、ヤになるな‥」
ボソッと呟いたハボックに、我が意を得たりとウィンリィが声を上げた。
「そうよ、アル。本当の人間みたい、ううん。人と比べてもなんの遜色も無いわ!だから‥ね、アルっ」
「人に近付けようとする事自体、人に劣ってるって事になるよ。」
鎧の腕を抱きしめるウィンリィを、アルは悲しそうに見下ろした。
「それは‥」
「別に形などどうでもいい。ウィンリィの希望、つまりこの世界の人間に難なく受け入れてもらうには人の形が良いと言うだけだ。ウィンリィ!」
少年はアルに縋るウィンリィを見た。
「アルフォンスの説得は時間の無駄のようだ。アルフォンスの移植は諦めろ。」
「え‥?」
「移植って?」
アルとハボックの呟きを無視し、少年はウィンリィだけを捉え続ける。
「脳が残っているのならその記憶・思考を信号に置き換え、機械に移す事も可能だ。だが、まったく存在しないのでは」
「できるって言ったじゃない!」
ウィンリィが前に出ようとするのを、アルは自分の体で阻む。
それを嘲笑うように、少年はやっとアル達へと説明を始めた。
「アルフォンスの思考パターンを分析し、それを電脳に再現する事はできる。記憶を写す事もね。だが、それにはアルフォンス自体の協力が不可欠だ。彼にその気の無い以上、機械の体を与えるのは無理だ。」
「思考パターンを、、、分析?記憶を写すって、、、、」
自分の手を掴むアルの指から、力が薄れるのをウィンリィは感じた。
「君の自我を電脳にプログラムするのさ。数式のように反応・思考パターンを組み立て、それを機械に組み込む。そうだなぁ、例えばアルフォンスはウィンリィが好き、というプログラムをこの体に施せば、この人形はウィンリィという条件を認めると、好きという感情を見つけ出すようになるわけだ。」
アルの手が自分の腕から離れていくのを、ウィンリィは目で追った。
「‥それって、僕なの?ウィンリィ‥‥」
ウィンリィの目がアームからショルダー、そしてアルのフルヘルムを映す。アイホールの奥に瞳が無い事が、責める視線の無い事が、今は皮肉にも有難いと、ウィンリィは硬く目を瞑った。
「君を好きだとプログラムされた僕の人形が君を好きと言っても、僕が君を好きだと言っている事になるのかなぁ。だとしたら、今の僕の気持ちはどこへ行くんだろう‥」
「アルっ、わたし‥」
「迷う事など無いさ、ウィンリィ。自分を自分と認識する事。それが自我だ。正しくプログラムすればこの人形にも自我は芽生える。」
「でも、それはアルじゃない。わたしの!‥ううん、最初の計画通りエドがアルの魂を、その子に移せば」
「あ〜、でもそれってさぁ、ウィンリィちゃん。結局、その機械君の言う非論理的な錬金術に頼ることになるんじゃ、、、ね!?」
宥めるようにハボックが笑いかけるのに、ウィンリィは唇を噛む。
「できないよ‥」
言葉は静か過ぎて、ウィンリィもハボックもすぐには分からなかった。
「兄さんは今、錬金術師としての責務を果たしに、ホムンクルスと対峙している。賢者の石、禁忌の術。それに関わった人の思い、涙、命、、、それら全てと向き合ってる。その覚悟を持った兄さんが、森羅万象すべてを数式で割り切る事なんて言うとは思えないし、仮に兄さんが認めても、僕は望まない、望めない」
「アル‥」
「僕はウィンリィが好きだよ。」
冑を上げて、アルは静かに指で鎧に錬成陣を描いていく。
金属の擦れる音を不快に思えるのはハボックだけで、顔を顰めるハボックに、アルは離れるよう促した。
「アル‥」
ハボックが遠ざかるのを見届けると、心配そうなウィンリィにアルは顔を戻した。
アルフォンス人形は、アルが何をしたのか分らず、或いは興味が無く、ウィンリィが諦めるのを待っているようだった。
鎧の姿で、表情を浮かべることもできはしないが、アルは精一杯、ウィンリィに笑いかけた。
そんなアルを、ウィンリィはひたすら見上げた。
描き終わった錬成陣に重ねられた手から、光が溢れ出す。
「僕は君や兄さんや、一部の人だけかもしれないけど、僕の事を考えてもらえて、それってすごいと思うんだ!僕はすっごく幸せなんだよ。」
アルの体から発せられる光に包まれながら、ウィンリィは笑うアルを見たと思った。
「ありがとう」
届けられた万感の思いを抱きしめながら、ウィンリィは目映い世界に落ちていった。
「なんで?あんたがここにいる!?」
セントラルシティの地下に眠っていた都市。一際目立つ建物の鐘の音に誘われ、エントランスを抜けると円形ホールに出る。装飾と広さに圧倒される空間で、その男は静かにたたずんでいた。
ホーエンハイム・エルリック。
エドの驚きは一瞬で怒りに変わる。
エドは言い終わらないうちにホーエンハイムに駆け寄ると、左手で殴りつけていた。身長差がある為か、ホーエンハイムはよろめいただけだった。
「落ち着け!エド。」
2発目はロイに止められる。
「父親に手を上げるなんて、そうか、背は変わらんがお前も大きくなったんだなぁ。」
しみじみ呟くホーエンハイムに、ロイも思わずこめかみを押さえた。
「あー、、、光のホーエンハイム。何故貴方がここに?それも今という時期になって。」
「光のホーエンハイムか‥、軍はどこまで知っているのか‥‥」
眼鏡をかけ直したホーエンハイムに、ロイははっとする。
「ここがどこか、何の場所か、知っているかね?」
「私の部下が文字通り命がけで調べてくれました。」
「そうか。では、ホムンクルスについては?ダンテの事も?」
「部下達は錬金術師ではない。たった一言で片付けられる貴方と違って、部下は今安静を言い渡されてベッドの上だ。」
「気に障ったのなら謝ろう。私はここへ、ダンテを止める為に来た。」
「ダンテか‥森の隠者、かつてはイズミ・カーティスに錬金術を教えた国家錬金術師をもしのぐ実力者という以外は、確かめられていないが、推測上ではホムンクルスを操り混乱を招き、賢者の石を造っている、と考えているが!?そして軍上層部にも内通者がいる」
ロイは拘束していたエドの手を離すと、ちらりと彼を見た。それにエドも頷く。
ホーエンハイムも頷くと、エド達を手招いた。その先、柱の影にはイズミが青い顔をして横たわっていた。
「師匠っ!?」
「辛うじて息はある。」
駆け寄るエドに重くのしかかる言葉。
反発は、無言でエドの手に添えられたイズミの冷たい手に遮られた。
「センセ‥」
薄っすら開いたイズミの瞳が笑うのに、エドは口唇を噛み締める。
「ホムンクルスの生い立ちを知っているか?」
「知ってる。」
イズミを見つめたままのエドを、ホーエンハイムは複雑に見守った。
「では、ホムンクルスを還す方法は?」
「死ぬまで戦うまでだ!」
「スロウスと?死んでは生き返るトリシャの姿をお前は見続けられると言うのだな!?」
「!」
やっと振り返ったエドの瞳に恐怖を見ながら、ホーエンハイムは続ける。
「お前も錬金術師なら、半端な答えを口にするな。」
「では、貴方はホムンクルスを倒せる方法を?」
「ホムンクルスは、死者再生の副産物だ。錬成しようとしたオリジナルが近くにあると、動けなくなる。あとは体内に蓄積されている命の代償・賢者の石を全て吐き出させれば、還す事ができる。」
「オリジナルの一部‥」
「私とカーティス夫人は、エンヴィーとラースをそれぞれ葬った。」
「エンヴィー?」
「エンヴィーは‥私とダンテの間に生まれた子供で、水銀中毒で死んだ。」
「!あんた、それっ‥」
「トリシャと出会うずっと‥トリシャが生まれるよりも前の事だ。」
なお言い募ろうとするエドの方をロイが抑える。
「それで他は?」
「残るホムンクルスのうち、プライドは用心深く、自分の身近に隠し持っているようで手に入らず、ラストはおそらくイシュバール人がオリジナル、迫害されているイシュバールの廃墟からは入手できなかったが他のホムンクルスの物は、用意してある。エドワード。」
名前と一緒に手の中に落ちてきた小箱を、エドは見つめた。
「スロウスを還せるな!?」
「あ‥‥」
「お前はその為に来たのだろう!・」
「あんた‥あんた、まさかっ、まさか、母さんの墓をっ」
「リセンブールは機械に占拠されていて、入れる状態ではない。」
理解とそれでも湧き上がる怒りの狭間で揉まれるエドの為に、ホーエンハイムは父親として背を押した。
「だから、村ごと破壊して」
息子の怒りと悲しみの引き金を。
「トリシャの骨を探し出した。」
ゴッ
ホーエンハイムに目で制され黙って見守っていたロイは、大理石に叩き透けられた鋼の拳を見た。
風圧と飛び散った大理石の欠片で多少の傷を負ったものの、ホーエンハイムは自分を殴らなかった息子の為に、苦く瞳を閉じた。
「こんな事‥」
「?エド?」
「時間はねぇんだ。早く!早く結決めねぇと‥」
「確かにそうだな。情報はありがたく使わせてもらいます、光のホーエンハイム。」
「ああ。軍とこのご夫人は君に任せるよ。安全なところへ。」
「あら、それはどうかしら?」
言葉とともに柱の影からライラの姿をしたダンテと、ラスト・グラトニー・グリード、そしてスロウスが現れる。
「ホムンクルスの弱点を持ってるからってどうなのかしら。アタシには賢者の石があるのに‥」
広く開いた胸元から、ダンテは賢者の石を取り出した。
「今までは後が無いから使うのを躊躇っていたけど、今は大きなのができたものね。」
「アルは賢者の石じゃねぇっ。人間で、俺の大事な弟だ!」
意味ありげにダンテに微笑まれ、エドは声を張り上げた。
「あるが賢者の石とはどういうことかね?」
予め隠しておいたホールの壁に描かれている錬成陣を発動させながら尋ねるホーエンハイムにロイは手短に答えた。
「そうか、アル‥‥。」
ホーエンハイムはずれてもいない眼鏡を触ると、エドに呼びかけた。
「スロウス以外は私とマスタング君で還す。お前は‥」
「分ってるよ!」
三角形の中央にイズミを守りながら、ホーエンハイムろロイは人は迫るホムンクルスを退け、葬るチャンスを伺う。
「エド!」
「分ってるって言ってるだろ!?」
分っている。決心もしている。
だが実際、攻撃してきながらも、瞳からは涙をあふれさせている母親像を、破壊するにはエドは母を慕いすぎている。
「くそっ、泣くなよ!卑怯だぞ。」
「仕方ないわ。貴方は殺さなきゃいけないけど、心は悲しいんですもの、エドワード。」
「名前をっ、呼ぶな!」
ラストの攻撃をかわしながら、チラッとロイはエドを見た。
「不味い。ホーエンハイム、スロウスは貴方が。」
「それは出来ない。」
「責任云々を言ってる場合じゃ‥」
「そんなつもりも権利も無いよ、私は父親失格だからね。」
「なら何故?」
グラトニーを還すと、ホーエンハイムはロイに、あるいはエドにかもしれないが笑った。
「私には、トリシャの為ならこの世界を滅ぼしても構わない傲慢さしかないから。」
「え?」
グラトニーを消されたラストの攻撃力が増し、ロイは2,3歩後退する。
「ホムンクルスでもトリシャと引き換えなら、この世界を見捨ててしまえるからだよ。だが、お前は違うだろう!?エドワード。」
「!」
「お前はそれがトリシャじゃないと、母ではないと分るだろう。私のように夢を見たりしない。」
エドは改めて涙を流すスロウスを見た。それに呼応するように、スロウスは微笑んだ。
「悲しいけどワタシは貴方を殺すの、エドワード。それがワタシの生まれた意味だから。」
「母さ‥」
カタカタと小さい音のする小箱を、エドは空中へ放り投げた。
スロウスが避けるより早く、エドは飛んでそれを掴むとそのまま一緒にスロウスへ突っ込んだ。
スロウスから発せられる錬成校。ホーエンハイムはそれから目を背けると、グリードに止めを刺した。
「いい気になるんじゃないよ!」
最後の一体、ラストは強かった。
「何年も暗闇で生きてきたけど、良かった事もある。それは、時間の分だけ学べるって事よっ」
弱点も無く、最強の矛として実践経験に長けたラストは3人が庇うイズミを巧みに狙いながら、じわじわと追い詰める。
「いいプロポーションだ。トリシャと遜色ない‥」
「あんたって男はっ‥」
「いやそれは人生の大事なポイントだぞ、エド。ま、今はそれどころじゃないが‥我々3人より力負けしているから決定力には欠けているが、こうジワジワ責められると体力負けするな。」
「弱気はいけませんぞ!」
花を背負って登場したアームストロングは、惜しげもなくその肉体美を晒していた。
「少佐!‥助っ人はありがたいがその格好は止めたまえ。」
「何をおっしゃる。美しい肉体は万人と分かり合えます。」
アームストロングがポーズをつけるのを、ラストは伺うようにダンテを見た。
「いいじゃない、べつに。国家錬金術師の血は、何十人、いえ何百人の血に当たる。400年前に既に流れているこの街の血と混じり、ひょっとしたらこのメンバーだけで賢者の石の欠片ぐらいできるかもしれない。」
アームストロングの潜入など歯牙にもかけず、ダンテは合流を見守ってやった。
「そういう事を言えるのも今のうち。大佐、これをスカーから預かりました。正確にはスカーがホークアイ中尉に託し、それを届けるようフレッチャーが‥」
「いや、詳しくはいいから‥」
げんなりした3人とは反対に。差し出されたロケットに、ラストが怯む。そのラストを助ける事もせず、最後のホムンクルスが消えるのをダンテは笑って見ていた。
「さて、あとはあんただけだぜ、ダンテ。大佐達はプライドを」
「あら、いいの?そんな余裕あるかしら!?」
ダンテが立ち上がると、天井から錬成陣の影が床一面に降り注いだ。
「しまっ」
「遅れをとったわね、ホーエンハイム。貴方が描いた錬成陣はアタシのホムンクルス達がその身をもって消してくれたわ。」
錬成陣の輪を繋ぐ線のいたるところに、ホムンクルスだった欠片が飛び散って途切れていた。
「ホムンクルスが吐いた賢者の石達。以前ここで死んだ住民の血、そしてお前達。良い石ができそうよ。」
賢者の石。等価交換を無とする錬金術師の至宝。
その名に恥じず、賢者の石を使うダンテの力は国家錬金術師を含む4人と対当していた。
「流石に4人はキツイか‥でも、ここにプライドを加えれば‥」
思案するダンテに対し
「切っ掛けだ。なにか切っ掛けさえあれば‥」
「しかし、今ですら精一杯ですぞ‥」
「ホムンクルスとの戦いで思ったより消耗したな。集中力が落ちている。」
「他人事みたいに言うな‥ぁ?」
突然眩い光がエドを、エドの右腕を包み込んだ。
「なっ?」
「エド?」
「右腕が‥」
「!」
エドは光ごと自分の右腕を抱え込んだ。
「アルッ」
アルっ アルフォンスっ
「エド?まさか!?」
「動揺するな!均衡が崩れ‥」
光が収束する中、エドは今は生身となった右腕と左腕を合わせ、床に付いた。
「エド?」
「アルは約束を守った。今度は俺の番だ。」
「約束って‥まさかっ」
床に付いたエドの両手から光が溢れ出す。その光は強く強く、ダンテの錬成光を押し始める。
「切っ掛けだ!」
叫んだホーエンハイムに、唇を噛み締めるとロイもアームストロングも同調する。
一方、ダンテは
「あの光は‥まさか、まさか賢者の石?」
動揺は大きくダンテの力を削いだ。
「アタシの‥使ったというの?最後の1個なのに?いったい誰が‥、まさか、そんな‥あの子、あの子自分の命と知ってて使ったの?何の為に‥」
「大事なもんを助ける為に、さ‥」
「大事?自分の命以上に何が大事だというの!?こんな馬鹿げた‥」
「あんたには一生、分んねーさ。」
床にこぼれる滴。顔を上げたエドの頬を伝う、涙はどこまでも温かかった。
「シグさん、聞いて下さい。ウィンリィちゃんが食事してくれたの!」
飛び込んできたロゼに、シグは包丁を放り投げると今はウィンリィの使うイズミの寝室へ飛び込んだ。
「お‥あ‥う、美味いか?」
ウィンリィはスプーンを休めるとこっくり頷いた。
体の大きいシグの後ろから、ロゼや言われて駆けつけて来たシェスカ、グレイシア、エリシアが涙を溜めて覗き込んでいる。
ウィンリィは目映しそうに彼らから視線を外すと、口元を緩めた。
「男の子がね‥呼んだの。ウィンリィって、わたしの事‥。その呼び声がすごく温かくて、なんか‥生きなきゃって‥」
シグは大きな前掛けを引っ張るとぶぴ〜と鼻をかんだ。
「すごく‥すごく大切なものを失くした気がする。」
「忘れられるものなら、大したものじゃないよ。気にするな。」
ウィンリィと並んでベッドに横たわるイズミが呟く。
「そう‥かもしれません。忘れてしまった‥ただ‥寂しい、だけ‥‥」
ウィンリィは生まれ変わった。全てを忘れて。
イズミはウィンリィを抱き寄せると黒髪となった彼女の髪を撫でた。
ロイ達はキングブラッドレイとして君臨していたプライドを排除し、今、新しくアメストリスを立て直すのに奔走している。人手が足りず一般の、例えばトリンガム兄弟も手伝う有様だった。
面倒臭いのは嫌いな彼らしく、アルがきれいさっぱり機械どもをこの世界から消してしまったのをいい事に全ての原因はキングブラッドレイとし、ウィンリィは冤罪でうやむやのうちに無罪放免にしていた。
「あの子‥誰?わたし‥」
長期療養を強いられたイズミは、リゼンブールの住人の生存が絶望と知りウィンリィを引き取った。引き取って今日まで、自分で食事もしない彼女をシグは娘のように手厚く介護した。
「ねぇ‥君は、幸せ?」
ウィンリィが覗く窓の外を青く広い空が広がる。
その空の下、エドは本を片手に読みながら歩く。その後ろを付かず離れず、ホーエンハイムも歩いていく。
アルが自分を賢者の石として使った結果、アルの血印として使われた右腕は元に戻ったエド。右腕とともにアルが約束を果たしたことを知ったエドは今、自分が自分に課した約束を果たす旅に出ていた。機械鎧の足と一緒に。
「必ずお前を取り戻す。そしてお前は、俺の足を戻してくれるんだろ!?アル」
手を伸ばす先、青い空に光はある。
やっと終わりです。マジ、データ消した時は終われないかと思った(笑)。しかし振り返るとまたどーしようもない話で、済みません(汗)。
コレ書いてる時にまだ長くなりそうなので、ギャク戒めつつ終わらせましたが‥迷った挙句がウィン黄泉帰り、エド鋼のまま、アル行方不明。これじゃアニメ通り?というか、全然ちゃうよね。なんだよ、この話‥。FEはリオン助かったんだろうか(←まだやってないよ;笑) 2005/7/25
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