どのくらい時間が経っただろう。



いつもより時間が2倍、3倍長いように感じる。



きっと緊張してるからだ。





    『つくしは、大丈夫だろうか??』





さっきから、俺の頭の中はこの事が何度も、何度も繰り返されている。


気づかなかったけど、もしかして・・俺って実は心配性?



「・・・・・・。」








・・・いや。そんな事はない。


いつもの俺だったら、滅多に心配なんてしない。


俺がこんなに心配するのはきっと・・・。


・・・心配する相手が『つくし』だからだ。






「つくし・・・・。」

頑張ってくれ・・・・!!!



























「・・・さん!花沢さん!!」


「は・・・はい。。」


目の前には院長がいた。



頭がポーっとする・・・。


・・・・俺、寝てたんだ・・・。こんな肝心な時に・・・。。。



が、しかし、そんな低血圧な類の眠気は、一瞬にして消えた。




「男の子ですよっ!!彼女はよく頑張りました。おめでとうございます。」


院長は、にっこりと俺に微笑んだ。


「えっ!?」

思わず、俺は声は裏返る。


そして一気に、鼓動も高まっていく。

「はい。××号室です。彼女も赤ちゃんも、あなたの到着を待ってますよ。」

「はいっ!!」




俺は、おもいっきり走った。




こんなに真剣に走ったのは、初めてかもしれない。



「廊下は走らないでください!!」



そんな俺に、廊下を歩いていた看護婦の人が怒鳴る。



でも、今の俺には、その声は届いてはいない。


一刻も早く、つくしを抱きしめたい。


一刻も早く・・・・。













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「つくしっっ!!!」


俺は、息を切らせながら××号室に駆け込んだ。



「類・・。」









そこには、愛しいつくしがいた。


つくしは、類の方を振り向き、微笑んだ。


少し疲れているのだろう。つくしの笑顔は、少し引きつっていた。



「つくしっ・・・・!!」



俺は、包み込むように優しく、つくしを抱きしめた。


つくしも、類を抱きしめ返した。 



「ほら、類。見て!!元気な男の子よ。」


つくしの隣には、スヤスヤと寝ている赤ちゃんがいた。


俺は、『そっ』と男の子の頬を撫でた。


「つくし、この子、抱っこしてもいい??」


「うん。もちろんよ。類と私の赤ちゃんなんだから。」



つくしてに収まっている小さな赤ん坊に、手を伸ばす。






胸が高鳴る。



何だか手も震える。



ああ。こんなの初めてだ。







つくしの手の中から、赤ん坊を抱きかかえた。


俺の手にすっぽりと収まってしまうほど、小さな手。


俺の指をギュッと握った。


その小さな手には、すごく生きる力がこもっていて。




「・・・・・・・。」




俺は、無意識のうちに涙を流していた。





悲しい涙でもない。


悔しい涙でもない。


その涙は、俺がいままで流したことのない、





    『愛する人』への涙だった。





「つくし・・・。ありがとう。」


俺は、赤ちゃんと、つくしの両方を、そっと抱きしめた。


つくしは、俺の胸の中で語り始めた。



「あのね、類。私ね・・・・・

私が病院に運ばれた時、本当にお腹が痛くって、もう駄目なんじゃないかって思った。 

目の前も真っ暗になって、気を失いかけるところだった。

でもその時、私、不思議な夢を見たの。」












私は「過去」という部屋から抜け出せず

ただ 立ち止まっていた



すぐ、そこに「未来」への扉があるのに・・・

その扉を開ければ、「未来」へとつながる道があるのに・・・

そこから抜け出せば「未来」へと歩むことができるのに・・・



未来が怖かった


どこまでも、どこまでも永遠に続いてるような道



けれどそれは途中で終わっているかもしれない


そんな先の見えない「未来」が怖かった

だから私は、そこで立ち止まる事しかできなかった



そんな時、部屋の外にあなたが立っていた


あなたは微笑んで

私に 手を差しのばした



そしてあなたはこう言うの

“一緒に行こう”



もう 未来に何があるかなんて気にしなかった。

あなたがいてくれれば 何も怖くない



何も不安じゃないなんて言ったら 嘘だけど

今 あなたと私がいるって真実だけで充分



さぁ 行きましょう

ゆっくりと未来への扉が開いて....















「・・・・・っていう、夢を見たの。」



そう語り、俺の胸から顔を出したつくし瞳には、涙があった。


でも、つくしの表情は、とても幸せそうだった。


「私たちの未来は、きっと永遠に続いてる。ね?類。」

「あぁ。もちろんだよ、つくし。」




二人は、ゆっくりと見つめ合い、キスをした。















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「へ〜・・・・。」

「これで、亮輝がどんなに大切なのか分かっただろ?」




類は、そう言って、亮輝の頭を撫でた。


「うんっ!!!えへへっ。」


亮輝は『へへっ。。』と照れながら言った。

類は、何かを思ったように、亮輝が持っていた『人魚姫』の本に手を伸ばした。


「亮輝、ちょっとその本、貸してごらん。」

「うん。いいよ。どうして?」


類は、人魚姫の本の最後のページを開いた。


そのページは、人魚姫が泡となって消えてしまうシーン。


「本当はね、この話には続きがあるんだよ。」


「えっっ!!そうなのっ??」


「あぁ。」





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