声と引き替えに、足を手に入れた人魚姫。


しかし、あまりにも失った代償は大きすぎて。















声が出せない人魚姫は、



『あの時、あなたを助けたのは、この私です』



・・と言いたいのを耐え、王子様のそばに仕えてきました。






が、しかし、王子と隣国の姫君の婚約が決まってしまいました。





人魚姫は、この事を悲しみました。


涙が枯れるまで、涙を流しました


叫んでも 叫んでも 声にはなりませんでした。





しかし、そんな人魚姫をいつも慰めてくれる人がいました。

その人は、人魚姫と同じ、王子に仕えている者でした。



彼は、人所姫よりも少し年上で、とても優しい人です。

いつも私に優しくしてくれる、良い人です。



「泣かないでください。あなたが悲しむと、僕まで悲しくなります。」



そう言って、人魚姫が隠れて泣く度に、元気付けてくれました。


「だから、涙を拭いて。あなたは、笑顔の方が良く似合いますから。」



「((ありがとう))」



そんな感謝の言葉でさえも、声にはならず、ただ掠れた音しか出ませんでした。








人魚姫には、一つ大きな悩みを抱えていました。


それは・・・・・・・




『王子様との恋が叶わなければ、海の泡となって消えてしまう』




その事を知った人魚姫の姉妹達は、婚礼の晩、人魚姫の前に現れます。



「このナイフで王子様を殺してしまいなさい。それしか、あなたが泡にならずにすむ方法はないのよ。」



そう言って、姉妹達は人魚姫にナイフを渡し、青く、深い、海の中へと消えていきました。


人魚姫はナイフを手に、一度は王子を殺そうと決心しました。


しかし、心の優しい人魚姫には 愛する王子を刺せるはずがありません。



もう、人魚姫には時間がない。




人魚姫は、最後に王子に涙のように、悲しみを込めた口づけをします。


“さようなら、愛しています”と。






そして、人魚姫は涙ながらに、海へと向かいました。























「(・・・ん??あれは・・!!!)」



偶然に、海へと向かう人魚姫を見つけた人がいました。

それは、いつも人魚姫を気遣ってくれて、王子に仕えている、あの者でした。



「(どこへ行くのだろう?)」



彼は、不思議に思い、人魚姫の後をつけていきました。



不運なことに、彼は人魚姫がナイフを持っていることに気が付いていません。












人魚姫は、崖の上に立ちました。


そこから下の海を眺めると、目が眩むほど高い。



「(一体、こんな危ないところで何をするつもりなんだ?)」



彼がそう思った瞬間、人魚姫は思いがけない行動をします。



なんと人魚姫が、手に持っていたナイフを自分の胸に刺そうとしているではないか。



「(・・・・!!!)」




彼は反射的に人魚姫の元へと駆け出し、人魚姫の腕を掴んだ。




人魚姫の手から、ナイフが小さく音を立てて落ちた。


「・・・・・!!」


突然の事で、人魚姫は何が起こったか分かりませんでした。



「貴女を追って、ここまで来たんです。」


彼は、人魚姫の瞳を見つめながら言いました。


「一体、これはどういうことなんですか?なぜナイフを・・。」



人魚姫は、瞳にいっぱい涙を溜めながら、声にならない声で言いました。





「((・・・私は、人魚なのです・・。))」





「えっ・・・!!」



彼は、人魚姫の口の動きと、表情で、言葉を読みとった。




「((私は、今晩、海の泡になって消えます。))

((しかし、王子様をこのナイフで殺せば、私は人魚に戻り、生きることができます。))

((だけど、私には愛する人を殺すことはできない・・!!))」




人魚姫の瞳に溜まっていた涙が、頬を伝って流れ落ちる。





「((私は・・・私は、王子様が幸せならそれでいいんです))

((他に望むことは、何もありません。だから・・・・))」



人魚姫は、落ちたナイフを拾おうとしました。



すると、彼はナイフを拾うのを止め、人魚姫を抱きしめます。



「貴女が人魚だという事は知っていました。」



「((えっ!?))」



人魚姫を抱きしめる彼の身体は、少し震えています。





「貴女がこの城に来る前に、私は浜辺を歩いていたんです。

そうしたら、何処からか美しい歌声がきこえてきたのです。

私は、歌声のする方にそっと近寄りました。

そこで、貴女を見つけたのです」




人魚姫はとても驚きました。



まさか、見られていたなんて・・・・・!!





「一目惚れでした。貴女は、何よりも美しく、出逢った瞬間で貴女の虜となってしまったのです。

そんなある日、人間に姿を変えて貴女が私の目の前に現れた。


こんな奇跡があるでしょうか?恋い焦がれていた人が・・・・・・貴女が目の前に現れたんです。」




人魚姫は、何と彼に答えて良いか分かりませんでした。


ただ、分かる事は、、、彼が私が人魚であるという事を知っている。


それだけだった。




「貴女が、王子様の事で泣いていたり、辛い想いをしていた時、僕も辛かったです。

だって、貴女の涙を見たくなかったから・・。

貴女が辛い思いをしてほしくなかったから・・・。

でも、僕は、貴女を励ますことくらいしか出来なかった・・!!

本当は、もっと早く貴女を抱きしめたかった・・・。

貴女を優しく包み込んであげたかった・・・・。」





そう言って、彼は人魚姫を抱きしめていた腕を緩めて、人魚姫の瞳を見た。



「僕は貴方のことを、心から、愛しています。

貴方が本当に、海の泡となるつもりなのなら、僕も一緒に身を投げます・・・!!」



彼の真剣な眼差しを見た人魚姫は、彼が嘘を言っていないことが分かった。



「だから、僕も一緒に・・・・!!」



人魚姫は微笑んだ。




「((駄目です。貴方は、まだこの世を去ってはいけない。))

((私は、こうすることしか出来なかったけれど、貴方はこうなる必要はないのです。))」



そう言って、人魚姫は自分が付けていたネックレスを彼に渡した。


そのネックレスは、青い雫のような物が着いているネックレスだった。




その雫のような物は、深い青色で、思わず魅入ってしまうほど、美しい物だった。



「((貴方にこれを差し上げます。これは、深海の宝であり、私の宝でもあります。))

((貴方がは、これを持っていてください。貴方に持っていて欲しいのです。))」





そう言った瞬間、人魚姫の意識はもうろうとしてきた。


そして、身体が焼けこげるように熱くなり始めた。




「((もう私には時間がありません。))」



そう言って、人魚姫はナイフを持った。



「((一つ、最後に約束をしてくれますか・・?))

((あなたが、必ず幸せになってくれると・・・。))

((きっと、貴方には運命の人が見つかるはずです))」


「・・・・・・。。。」


彼の頬は、透き通った涙が伝っていた。


「駄目です・・・。貴女は海の泡になる必要なんてありません・・!!」




人魚姫は、ゆっくりと首を振った。


人魚姫の頬も、透き通った涙が伝っていた。


「((ありがとう))」


人魚姫は、彼の頬を伝っていた涙にキスをした。





ついに、彼女の胸をナイフが貫いた。


人魚姫の、白い肌が赤く染まっていく。


そして、人魚姫の体は海へと吸い込まれるように落ちていった。


彼が大きな声で叫んでいる。


「行かないで・・!!お願いです・・!!僕を置いていかないでください・・・。」


海へと吸い込まれながら、人魚姫は、彼に向かって微笑んだ。



みるみるうちに、人魚姫の視界から彼の顔が見えなくなった。





彼女の体は、海の底へと沈んでいく。






体が泡になりながら、人魚姫は思った。








【 私は、王子様を愛していました 】




【 けれど、私は所詮、人魚 】



【 初めから叶うはずのない恋だって、 】



【 希望も、望みもない恋だってこと、分かっていました 】




【 でも、私は王子様を愛してしまいました 】



【 愛してはいけないのに、愛してしまいました 】




【 ((なんで私は、王子様を愛してしまったのだろう・・?)) 】



【 自分で自分を追いつめ、 】



【 愛した気持ちを、悔やんでしまう私が、いつもいました 】




【 でも、そんな時、】



【 いろんな人が優しくしてくれました 】



【 助けてくれました 】




【 そして、私は気が付いたのです 】



【 私は、気付かない所で、いろんな人に愛されていた・・・ 】



【 家族や友達、みんな私の事を心配してくれた 】 



【 そして、大切にされていた・・・ 】



【 私が単に気づかなかっただけでした 】




【  聞いたことがあります・・ 】



【 ((本当に大切な人ほど、近くにいるもの))だと・・ 】




【 私は、幸せでした 】



【 本当に、本当に、幸せでした 】



【 今、やっと気が付きました 】



【 本当の愛というものを 】




【 王子様に恋した事を後悔したと思っていましたが、 】



【 それは違っていて、 】



【 王子様に出会えたからこそ、今の私はここにいるのです 】



【 王子様に会えたからこそ、彼や、お城の人達に出会うことができました 】



【 今なら、言いきることができます 】



【 ((王子様を好きになって良かった))と・・ 】


そして、人魚姫は、海の泡となって消えました。





王子様とは結ばれなかった人魚姫ですが、消える瞬間、彼女は微笑んでいました。



なぜなら・・・



人魚姫は、『本当の愛』を見つけることができたからなのです。











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