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第3話 日本ワイン

  原料に国産ブドウのみを使う「日本ワイン」事業を広げるため、サッポロビールが北海道に大規模ブドウ農園の開設を決めた。確保した広大な土地には、増産や品質向上だけでなく、歴史まで踏まえたブランディング効果も託している。ビール各社が力を入れる日本ワインは、産地の個性も競う時代に入った。

 函館市から北西に向かったところに位置する北斗市。サッポロビールがブドウ栽培地として市内に確保したのは、25㌶の土地だ。「海の見える日当りのいい、次のステップアップに必要なブドウ栽培に適した土地」。4月中旬に東京都内で開いた記者会見で、サッポロビールの高島英也社長はこう評した。

 サッポロビールはすでに長野県で日本ワイン向けに計16㌶の自社畑を保有している。今回の北斗市の畑と合わせると栽培規模は2倍以上に広がる。

 北斗市では2019年に植樹を始め、22年に北斗市産のブドウを使った最初の日本ワインを「グランポレール」ブランドから発売する計画だ。「メルロー」や「シャルドネ」といった他の地域で栽培するブドウの品種だけだなく、新しい品種に挑戦する目標も掲げる。

 高島社長は「日本を代表するラグジュアリーブランドへと、グランポレールを高める」と意気込む。その思い北斗市の土地に込めた。一つは品質。良好な日当りなどブドウ栽培に適した土地を生かし、新しい品種など原料にこだわったワインづくりを志向する。

 もう一つは歴史だ。サッポロビールが確保した栽培地は、1896年創設のトラピスト修道院の土地などだった背景を持つ。「この土地の歴史を理解した上で高品質なブドウ、ワインに変えていきたい」(高島社長)という。

 様々な地域に畑を持つことで、商品を売り出す際に、産地ごとの歴史などを生かしたブランディングもしやすいとみる。サッポロビールでは山梨県の生産者から得たブドウでつくったワインのラベルに「山梨」を冠している。こうした展開を広げていく考えだ。

 日本ワインは業界にとり、国内ワイン市場の切り札でもある。チリ産の輸入品の普及で拡大したが、近年は伸びが鈍化している。メルシャンによると、18年のワインの国内出荷量は横ばいの379200㌔㍑となる見込みだ。「踊り場」の感もある国内ワイン市場にあって、近年伸びている日本ワインの割合は5%に達したとみられる。

 需要増加をにらみ、競合各社も動きは急だ。「シャトー・メルシャン」ブランドのメルシャンは19年秋までに約6億円を投じ、ワイナリーを2か所新設することを決めた。アサヒビールやサントリーワインインターナショナルもブドウの栽培面積を広げる」。現在は需要に対して原料不足の地合いだが、今後はブランド力の重みが増す。

 また今年10月末からはワインの表示ルールが厳格になる。原料が国産ブドウ100%でなければ、日本ワインと明記することができないだけでなく、「長野」や「北海道」といったと地名をうたうには産地のブドウを85%以上使用しなければならなくなる。産地はブランドに結びつく。

 サッポロビールは16年に31500㌜だったグランポレールの販売量を26年には3倍以上の10万㌜へ高めることを目指している。「ワイン事業をビールに続く第2の収益の柱にする」(高島社長)。新農園の役割は重い。

 国産ぶどうを使って国内で醸造した日本ワインの評価が世界的に高まりつつある。著名なワインコンクールでも数々の賞を受賞しているワイナリーの一つが、マンズワイン勝沼ワイナリー(山梨県甲州市)だ。「甲州」「マスカット・ベリーA」など日本固有のぶどう品種にこだわった高級ワインを醸造。担当する武井千周(47)は、日本では取得者が限られるフランスの国家資格「ワイン醸造士」を持つ。ワイナリーの多い山梨県の出身で、ワインは小さい頃から「身近な存在だった」。マンズワイン入社後にフランスのボルドー大学醸造学部に留学。ぶどうの栽培から醸造、ワイナリー経営まで幅広く学び、帰国後にマンズワインの高級ブランド「リュナリス」の醸造責任者に就いた。

 常に目指しているのは「飲んだ時にぶどうが栽培されている風景が思い浮かぶようなワインづくり」。樹を植えたらすぐに良質な原料が育つわけではない。「数十年の歴史、取り組みがあって今の日本ワインの評価がある」と、地元の勝沼に根差した商品づくりに専念する。ほかの国のワインに比べても日本ワインは「香り、味わいが非常に繊細」という。一過性のブームには終わらないと信じているが、気がかりな点もある。勝沼でも、高齢化や後継者難でワイン用のぶどうを栽培する農家の離農が増えていることだ。「今後は畑を買い取り、自社で管理することも考えていく必要もある」。日本ワインの世界的なブランド」の確立に向け、今後もその一端」を担っていく。(日経流通新聞2018年1月19日、4月27日記事参照)

  

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