大学研究棟の一室。暗い部屋で背を丸めるエドに、ハイデリヒは胸を衝かれた。
『この人はなんて孤独なんだろう』
手元の強い光源に浮かぶエドの頼りなさに、せめて自分に出来る事をさがしながら、ハイデリヒは遠慮がちに近付いた。
「エドワードさん?何してるんです‥?」
エドの手の中には、木彫りの人形がひとつ。
「‥‥‥‥ 、それって‥僕ですか?」
訊ねたくなるほどに人形はハイデリヒに似ていて、ハイデリヒは一歩半退いた。
「弟。」
「あ〜、弟さん。」
安堵の息と共にハイデリヒは再びエドの側によると、今度は落ち着いて人形を見た。
「エドワードさんが作ったんですか?等身大の大きさなら人と見間違うほどリアルな出来ですね。」
「等身大もいいけど、持ち歩けないから‥」
「‥‥持ち歩く、ですか‥」
『お手製の弟人形を‥』
いやいや、会えなくなれば作りたくなるかもしれないかもしれない。エドワードさんは弟さんを本当に大切にしていたという事だと思われる。
怪しい文法でハイデリヒは自分を納得させた。
「それにしても、本当に僕に似てるんですね。」
「うんv」
人形からやっと顔を上げたエドの瞳はキラキラと輝いていて
『同情撤回。できる事じゃなくて、僕がしなきゃいけない事は、平和と僕の安全の為にこの人を早く元の世界とやらへ送り返す事だ!』
5歩退いた場所で、ハイデリヒは心に誓った。













ホーエンハイムがエンヴィーで開いた扉
「秒速11Kの、この一人乗りロケットでも扉の中で起きる現象を突破し、向こう側に達する。」
エッカルトに撃たれ気が付いたらロケットに押し込められたエドは、優しい声にハイデリヒを振り返った。
「待て、俺はあっちに行くなんて言ってないっ」
「僕が行って欲しいんだ。」
「アルフォンス、俺が邪魔なのか!?」
「エドワードさん」
ハイデリヒは複雑そうに笑った。
「貴方は今、ここで生きてる?」
「‥え?」
訝しげなエドに、ハイデリヒはやれやれと息をついた。
「じゃ、質問を変えよう。貴方は僕達が生きてるって、分ってる?」
「なにを、分りきった事‥」
「本当に?」
「当たり前だ!」
「嘘つきだね。」
自覚していないところが、なお手に負えない
ハイデリヒは寂しそうに微笑んだ。
「貴方は夢を見てる。夜見る夢じゃない。将来の夢でもない。今の現実を受け入れられなくて、受け入れたくなくて、夢と逃げてる。僕たちを夢にしてしまってるっ」
エドワードさん
いつに無く強く、ハイデリヒはエドを呼んだ。
「アルフォンス‥!?」
「夢の中の僕は優しい?」
ハイデリヒは右手でエドの頬を摘んだ。
「だけど僕は貴方の夢の中の存在じゃ無い。」
ね、優しくないでしょう。と、ハイデリヒはエドの頬を引っ張る。
「いひゃい、アウフォーウ」
「もう一度言うよ!?僕達は貴方の夢の存在じゃない。ちゃんと生きてる。貴方と同じ‥ううん、以前の貴方と同じ希望や夢を抱いてる。今の貴方と違って、現実逃避するんじゃなく夢を叶えたいともがく人間なんだ!」
ハイデリヒはにっこり笑うと更に左手も加えて両手でエドの頬を引っ張った。その笑っていない目に、初めてと言っていいほどアルフォンス・ハイデリヒが生きていることを感じた。
『恐い』
エドは成す術も無く
「だから、貴方には僕の夢を叶えて欲しい。行って、くれるよね。」
ハイデリヒの確認ではなく断定に、エドはこくこく頷いた。


エドを乗せたロケットのエンジンが呻りを上げ、白い煙がハイデリヒの姿を隠す。
その事態に驚いてやってきたヘスが、ロケットに向けて銃を撃った。
ロケットに拳銃では勝負にならない‥しかし、その一発の弾丸は奇しくもロケットの排気口に引っかかってた。
放出される高温の熱。溶けた弾丸は排気口をわずかに変形させる。
このわずかな変形が扉を潜る時に受ける衝撃と相まって、秒速11kを失速させた。


以前、通過した時と異なり、白光では無く万華鏡のような光の流れに吸収される感覚に、エドは思わず目を閉じた。
「ここは‥?」
頬を撫でる風にエドが目を開けると、そこは懐かしい風景画広がっていた。
「リゼンブール?‥俺は、門を超えたのか?」
丘の上でロケットは、沈黙している。
「ここを下れば、家に帰る道に出る‥‥‥って、まさか、な‥」
エドはロケットから降りると、取敢えず記憶にある道へと足を進めた。
『懐かしい‥まるで子供の頃に戻ったみたいだ』
なんとなく気持ちが軽くなり、鼻歌混じりに風を受けていると、子供の声が聞こえエドの足に何かぶつかった。
「いってぇ」
ぶつかった子供は尻餅をつき、その子供を後からついてきた子が起こす。
「大丈夫?兄さん。我武者羅に走るから‥」
懐かしい声 懐かしい髪の色
『まさか‥』
「道の真ん中に突っ立てる奴が居るなんて、思わねぇだろ!?」
「怪我は無いみたいだね、良かった。」
それから気付いたように見上げてくる鬱金の瞳
『まさか』
「御免なさい。」
『ア‥ルッ』
「兄さんも謝りなよ「アルフォンスっ」
エドはそれこそガバッという音が聞こえそうな勢いで、小さい子供を思いっきり抱き締めた。
「アルフォンス、お前‥本物‥アルッ」
「わわっ、なに?」
ちびアルの悲鳴に、なにより目の前の光景に。ちびエドは髪を逆立てる。
「てめぇ、俺の弟を放せ!」
ちびアルを抱き込むエドの背に、ちびエドが蹴りを入れるが、エドは振り向きもせずちびアルを抱き締めたままで。
「こ‥っのォ〜、俺のアルから離れろって‥言って‥んだ〜」
ちびアルからエドを引き剥がしたくて、呻りながらちびエドがエドの束ねた髪を引っ張った。その力の強さに、流石にエドも、でもちびアルを放さず抱き上げて、振り向いた。
「痛ぇな、加減ぐらいしろ。」
「うっせぇッ、このヘンタイ!さっさとアルを放せ!!」
エドは目をぱちぱちさせ、ちびエドを見た後、ちびアルに顔を戻した。
「アルフォンス、だよな?アルフォンス・エルリック。」
「そうです。あの、降ろして下さい。」
ちびアルはエドの脚に蹴りを入れてるちびエドにおろおろしながら、懇願する。ちびアルの困った様子にきゅんとしながら
「今、いくつだ?」
エドは聞いた。
「アル、答えるな!」
「でも、兄さん‥」
答えなかったら降ろしてくれそうも無い
ちびアルは怒ってるちびエドの様子も、頬を緩ませているどっかで見たような男に自分を抱き上げられている事もなんとかしたくて、口を開く。
「5つだよ。お願い、降ろして下さい。」
ちびアルの、暴れそうな様子に仕方なく、エドは降ろした。でも腕の中にとどめたままで、エドは舌で唇を湿らせ、肝心の質問を発した。
「母さん‥、お母さんは元気か?」


「母さ〜ん、コイツ、母さんの知り合い?」
悔しいが今の自分の力ではちびアルをエドの手から奪い返す事は出来ない。悪い奴ではなさそうだが、アルと手を繋がせておくのは我慢なら無い。そこで助けを求めるべく家が見えてくると、ちびエドは大声で母を呼んだ。
「なあに?エドワード‥」
家の中からエプロン姿のトリシャが現れる。
『母さん!』
力の緩んだエドの手からちびアルが抜け出し、ちびエドの元へ駆けていく。
「母さん、コイツがアルを‥」
ちびエドの言葉をトリシャは遮ると、ゆっくりとエドの元へ歩を進めた。
「取敢えず中へ、お入り下さいな。」
トリシャは微笑むと、エプロンからハンカチを取り出してエドに差し出した。


ちびエドは居間の扉口で仁王立ちしている。ちびアルはちびエドに言われたのだろう、その後ろに隠れながら中を伺っていた。
ひとしきりエドが鼻をかみ終わるのを見届けると、トリシャは口を開いた。
「エドワード‥そう‥」
「‥信じられないかもしれないけど、俺は、、、本当に‥」
恥じも外聞も、母の前では存在すらなく泣いた為、鼻が役立たずになっていたエドは、トリシャが入れてくれた紅茶を所在無く手元に引き寄せた。
「信じるも何も、今のあなた、若い頃の父さんそっくりよ。」
「えっ?」
よほど嫌そうな顔をしたらしく、トリシャに噴出されてエドはバツが悪そうに淹れて貰ったカップに手を伸ばした。
「‥‥母さん?これ‥牛乳が入ってる?」
「あぁ、まさしく本物のエドワードね。そんなに大きくなってもまだ、牛乳が嫌いなのね。」
好き嫌いはダメよ、とトリシャは笑いながらミルクティーをレモンティーに替えてくれた。
ますますバツが悪くて、エドは視線を彷徨わせ、ちびどもに落ち着かせた。トリシャも気付いて、ちびエドとちびアルを呼ぶ。
「貴方達の、そうね、叔父さんよ。」
「叔父さん?」
繰り返したのはちびアルで、ちびエドは不審そうにエドを睨んでいる。
「あ〜、えっと。さっきは悪かったな。おいで、アル。」
ここでアルを呼ぶところがエドであり、更なるちびエドの不興を買う。ちびエドはちびアルの手を取ると、外へ走り去った。
「可愛くねぇ。」
「貴方の、父さんに対する態度と同じじゃないの?」
エドは紅茶にむせる。
「母さん‥‥」
「ん?」
「アイツは‥もう?」
「そうね‥」
誰とは言わないけど、ふたりは居間に飾ってある写真を見た。この家の主が写っている写真。
「母さんは‥」
「あなたはどうなの?エドワード。」
はっとエドは顔を上げる。
「錬金術の途中で、ここへ来てしまったんじゃないの?」
「俺‥」
「それとも。」
トリシャは立ち上がるとエドの側にまわった。
「ここに来る為に錬金術を使ったのなら、今すぐ戻りなさい。」
「母さん‥?」
「人は過去に帰るものじゃない。過去が人の中に還っていくものなのよ。」
優しくトリシャに肩を叩かれ、エドは俯いた。


『帰るって言ってもどうやるのか‥錬金術は使えるが、門を開けるのは‥』
トリシャの言葉に思案しながらロケットの状態を見に丘へ戻ると、今日の今日なのにロケットは見当たらない。ひとり、男が佇んでいるだけだった。
「アレは‥!?」
エドの気配に、ゆっくりと男が振り向く。
「親父‥、‥‥っ」
エドの、苦虫を噛み潰すような呟きに、ホーエンハイムは瞬きをした。
「おやじ?‥ああ!、どこかで見たと思ったらエドワードか。」
ポンと手を打つホーエンハイム。その姿はミュンヘンでともに過ごした頃より、若い。子供の頃の記憶そのもの。
『親父は門を開ける為に自らの命を使った。なら、今。目の前にいる親父は過去の、この世界の親父で‥』
そこまで考えて、エドの眉間に皺が寄る。
「おい、俺をいくつだと思ってる?」
ホーエンハイムは首を傾げると指を折った。
「‥‥6つ?」
エドの左ストレート炸裂。
「どこをどー見たら、6才のガキに見えるんだーっ」
「あ〜、うん。6つにしては大きいとは思ったが‥」
「ボケてんじゃネぇー。俺は18才だ!」
ホーエンハイムはポカンとしてエドを見直すと、にこやかに笑った。
「18才?はっはっは、いくらなんでも、騙されんぞ!?」
エドの往復ビンタ。
鼻血を飛ばす親子のコミュニケーションの楽しんだ後、やっと事の次第が語られた。
「う〜ん、そうかぁ‥しかし、それは困ったな。」
「別にあんたに頼る心算は無ぇ。それより‥母さん、どうするんだよ‥」
「そうだな。トリシャもこのままでは心配だろう。錬金術では再構築の青写真が想像できない点で、この問題は難しいが、他の方法を駆使して‥」
「再構築?門は錬成産物じゃなくて、もともと錬金術とともに存在し、錬成に必要なエネルギーが流れ込む入り口‥」
「いや、門じゃなくてお前の身長。」
コミュニケーション再戦後、ホーエンハイムは事も無げに包みをエドに渡した。
「私の持っている最後の賢者の石だ。これで門を越えるが良い。この程度の石では門は状態を保てず、すぐに消えるだろうから、後の心配も無い。」
「親父‥」
「トリシャは今の姿の私を愛してくれた。もう、別の人間になる意味は無い。お前がこの石を使いなさい。」
「賢者の石‥」
「父親らしい事をさせてくれ!?」
俯いたエドに近寄ると、ホーエンハイムは父親らしい顔で笑った。
「‥‥っ」
「ん?」
「持ってるなら、さっさと出しやがれーっ。いや、それよりまだ持ってたのか、バカ親父〜っ」
義手の右ストレートは、さすがにホーエンハイムも必死でかわした。
「感激してくれたんじゃないのか〜?」
「呆れて口が利けなかったんだーっ」
「酷いぞ、エドワード〜、そんな子に育てた覚えは」
「放蕩親父に育てられた覚えは無ぇーっ」
更なるコミュニケーションの末、杖を錬成してなんとか立ち上がったホーエンハイムは、同じく杖に頼って立つエドの背をひとつ叩き、背を向けた。
「会ってかないのか‥?」
「‥‥、背は伸ばせよ。」
よろよろのホーエンハイムに、よれよれのエドから最後の愛情が投げつけられた。


エドはホーエンハイムが隠してくれていたロケットを分解すると、家の裏庭で再構築した。
「すごい!すごいね。」
頬を上気させてちびアルが駆けて来る。
「兄さんもすごいけど、叔父さんもすごいね。」
珍しそうにちびアルはロケットを見て回る。
「アルっ、ソイツに近付くなって言ったろ!」
ちびエドは肩を怒らせて寄ってくると、ちびアルの手を取った。
「でも、兄さん。すごいよ!?」
それはちびエドも認めているらしく、口の中でもごもごと呟いた。
「お前ら、錬金術は好きか?」
うんうん、とちびアルが頷く。
「だって母さん、喜んだくれるんだ。」
「そっか。母さん、好きだもんな。」
うんうん、とちびアルは嬉しそうだ。
「錬金術、教えて下さい。もっともっと、母さんを喜ばせるんだ。」
「錬金術‥」
呟いて隣を見れば、ちびエドが難しい顔で睨んでいる。
「なんだ?」
「ぅ、その、教えてく‥下さい。」
悔しそうだが、ちびエドはエドに頭を下げた。
「お前‥?」
「俺、もっと上手くなりたい。母さんや、アルを守れるぐらい‥」
「!」
気に入らなくてもムカついても、ちびエドは頭を下げるのだ。母と弟を守りたくて。
『ああ、俺は‥』
門に吸い込まれていくアルに、手が届かなかった。なのに今は、届かないと。伸ばす手を諦めてる。
『何やってんだ、俺は!』
エドは自分の頭を叩くと、ちびどもの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
「俺、帰るわ。」
「え?」
「どこへ?」
エドはロケットの状態を確認すると、初めてちびエドと向き合った。
「お前、アルが好きか?」
「当たり前だ!」
胸を張って言える気持ち。
「忘れるなよっ」
でこピンを一発、ちびエドに決めるとエドはロケットに飛び乗った。
「危ねぇからどいてろっ。」
「あ〜、お前、錬金術教えてけ〜っ」
ロケットに近寄ろうとするちびエドを、ちびアルが後ろへ引っ張る。その距離を確認し、エドはエンジンを点火した。
『来れたって事は、帰れるって事だ。』
エドはちびアルを見る。ちびエドを引っ張っていたいたちびアルを、今度はちびエドが煙から庇うように抱き込んでいる。でもよく見れば、ちびアルは必死に兄を支えているのだ。
『アル、お前‥いつだって‥』
手早く賢者の石で門を呼び出す。
「必ず会いに行くから。待ってろ!」
エドは叫ぶと大空へと飛び立った。


「ちょっと、エド。エドじゃないの?」
何時の間にか気を失っていたらしい。大声に目を開けてみれば、そこはかつてダンテと対峙した地下都市で、その廃墟の中に巨大メガホンで叫ぶウィンリィがいる。
「戻って‥来たのか?門を抜けて?‥それとも、あれは‥夢?」
どうやら門を抜ける間に気を失っていたらしい。その間に夢を見たのかと、エドは頭を振った。
「夢‥現実‥、どっちでもいいさ、手を伸ばす事を思い出したから」
「兄さん?兄さーんっ」
耳につくエンジン音の中でも耳が拾う。下を見れば反響装置で非常識な音量を放っているウィンリィの後ろに、会いたかったと、会えてまさしくその渇望が強かったのだと自覚できる、愛しい人影がある。メガホンが無くてもアルの声は聞こえるらしい。
『これも愛の力か!?』
でれっと頬を緩めながら、人影でなくきちんとアルを見る為手早く望遠鏡を錬成すれば、ロケット弾が機体すれすれに通過していった。
「危ねぇな、何しやがるウィンリィ〜。」
手早く望遠鏡の上にメガホンを錬成すると、エドも地上へ怒鳴り返した。
「今までどこ行ってた放蕩マメ〜。それなりの詫び入れなきゃ、ここには降ろさせないわよ。」
ウィンリィは怒鳴ると、後ろを向きシェスタにアルを守るよう目配せする。
「アル‥?」
望遠鏡で確認すれば、また過去に戻ったのかと思うような、17才とは思えないアルの姿。
「だけどアルだ。俺が守りたかった‥」
ガキの頃の誓い。
門を潜る前は‥何も無かった。アメストリスに戻れる、なんて実感すら無かった。息すら、してなかったかもしれない。
門を潜って
『夢だろうが過去だろうが、問題はそこじゃない。』
思い出した。
『見たかった‥見たかったんだ  アルの笑顔』
門を潜ってどうする 具体的なプランは無かった前とは違う。
「俺がアルを守るんだ!」
「ムカッ、アルを守るのは私よ!いままで行方不明になってたくせに、偉そうな事言わないで。どこでどうしていたか、きちんと説明するまで、説明してもだけど、アルは渡さないわよ!」
「上等だ!今の俺は無敵だぜ。絶対諦めない!待ってろよ、アル!今行くからな〜。」
「往生際が悪いな、エド。アルは私が引き受けるから、貴様はどこぞの世界で幸せになれ。」
着陸態勢に入ったロケットに火炎放射が飛ぶ。
「アルがいてこその幸せだ!それにアルフォンスに、アルを連れて戻って夢が叶った事を見せてやるんだ。」
燃えるロケットから飛び降りると、エドは懐かしい面々の前に立つ。
「ちっ、このぼけマスタングがいなければ、エドを降ろさせやしなかったのに‥」
ウィンリィの舌打ちにロイの背を汗が伝う。緊迫する空気。そんな中、アルは一歩前に出た。
「僕が‥なに?」
「あぁ、お前じゃなくてドイツのアルフォンス。」
「どいつ?」
「どいつ、じゃくて〜、ドイツは国の名前で」
「ちょっとエド、あんた行方不明先で何やってたの?」
矛先が自分からエドに戻ったのにロイは息をつくと、ウィンリィに便乗する。
「アル、エドはどうやら向こうの世界でドイツのアルフォンス君と浮気してたらしい。ついていっても幸せにはなれんぞ。」
懇々と説教するロイに「オヤジ臭〜」の野次が飛ぶ。
「第一、浮気ってなんだよ。アルフォンスは向こうのアルで俺より1ッコ下の17歳」
「だからって、アルじゃないでしょ。」
「それは、兄さんが増えるって事?」
呆れるウィンリィをよそに、アルの声は嬉しそうな響きが混じっていて
「ちがっ、お兄ちゃんは俺一人!アルフォンスだって、俺のアルはやら無ぇ。」
「狭量だな。」
「うっせぇ。アルは特別‥〜てか、その汚ねぇ手をアルから放せっ」
「それは同感よ。マスタングさん!?」
ちゃっかりアルの肩を抱いていたマスタングの顎を自動小銃で突き上げ、ウィンリィはエドを振り向いた。。
「で、あんたも!連れ戻るってどういう事!?」
「ふっふっふ」
エドは悪徳代官のように笑った。
「向こうまでは邪魔しに来れまい。」
それは即ち、ウィンリィやロイ達の邪魔はかなりの痛手と認めた事になるのだが、エドは気付いてないようだった。
「確かに門は開いているようだが、乗り物は壊れたようだな。戻れはせんぞ。」
ロイの言葉を鼻で笑うと、エドは上空を見た。すっかり忘れ去られていたが、エッカルトの乗った飛行艇が所在無さげに飛んでいる。
「問題ない。」
エドの両手が打ち鳴らされ、量産された大砲から雨のように集中砲火が飛行艇を襲った。


「夢が叶ったのは嬉しいって言うか、ロケットが門を通過した時点でOKだったわけで‥問題背負って帰って来ないでくれる?」
研究施設もろとも次回作までぶっ壊し、半壊状態の飛行艇の中から現れたエドに、ハイデリヒは笑顔なものの口元を痙攣させた。
「そんなの、後で片付けるから。それより見てくれ!アルフォンス。弟のアルだv」
前に押し出され、アルはぺこりと頭を下げた。
「お前のロケットのおかげで、見事にアメストリスからアルを攫って来れたんだ。」
「攫って‥?」
うんうん と頷くエドに
誘拐してきたの!?
ハイデリヒは叫ぶ。見ればアルも困ったように笑った。
何てことするんだ君は〜っ
共犯の文字がぐるぐると頭を巡り、ハイデリヒは青ざめた。
「心配無い。」
飛行艇から、別の人影が現れる。
「貴方は?」
「初めまして、アルフォンス君。私は」
手を差し出すロイから、エドはハイデリヒを遠ざけた。
「無能のくせに、付いてきたのかよ!」
「当たり前でしょ。アルをすんなり誘拐させられるわけ無いじゃない。」
錬金術は使えないので、機械技師の全精力で作った門通過黒子対策用鎧から、ウィンリィも出てくる。
「門って言っても、たいした事は無いわね。」
世の錬金術師が泣くような事を、ウィンリィはけろりと言った。
「錬金術の使えないこの世界なら、わたしこそが無敵だと思わない?エド。」
七つ道具を構えるウィンリィに、ロイまでもが後ずさる。
「アルフォンス、こいつらは危険分子だ。近寄るな!」
「どーでもいいから、帰ってよ」

大戦は、目前に迫っていた。
錬金術はサイコロを振らない
シャンバラの果て

一の目

何時に無く、どうやれギャグになるのか、困りました。普段は何気にギャクになるのに‥どうやらハイデリヒを出すと、シリアス傾向になるような(←ホントか!?笑) 2006/06/01

六の目

門の目