第1章 予 感


 

予定日は10月22日。
その日が2日後にまで迫ってきても、みきさんのお腹には何の変化もなく、「
まあ、最初の子だし、1週間くらいは遅れるかもね」などと、のん気に友人、知人には触れ回っておりました。

でも、今にして思えば、全く予兆が無かったわけではありません。

 
 


その夜、地元自治会の運動会の準備でへとへとになって家に帰りますと、みきさんはでかいお腹をふりまわしながら、お部屋の模様換えをしておりました。

「ちょっと、そこの夏の敷物押入れの中にいれて! あとお客様用のふとん、圧縮袋に入れるからね! 掃除機もってきて! 早く!

こちらとしては疲れて帰ってきているわけですし、何も今やらなくてもと少々文句をいいますと、
「何いってんの! もういつ産まれるかわかんないんだから、できるときにやっとかなきゃダメでしょ! シャー!(←威嚇音)」

 

 
 

おそらく野生動物が繁殖前に巣づくりをするような本能が彼女をそのような行動に駆り立てたのでしょう。そういえば、実家で飼っていた猫が押入れで子供を産んだときもあんな感じで興奮していたなあ。


 
  そして10月21日の早朝、運動会の会場設営のための早起きにそなえた貴重な睡眠時間はトイレからの叫び声によって破られたのです。

 
  「大変だ! パンツになんかいっぱい出てる。破水?
内心、これまでの人生で一番びっくりしてうろたえていたのですが、ここではじめてのお産をむかえるみきさんを動揺させてはいけません。
「それはいわゆる『おしるし』ってやつじゃないの?」
と、聞きかじりのいいかげんな知識をならべると、
「そうよね、まだお腹も全然痛くないし・・・もうちょっと様子をみようか!
その見事な安心っぷりに逆にこちらが慌てます。「違うでしょ!痛くないのに破水してたらそのほうが心配じゃないの!」

  そんなこんなでとりあえず病院に駆けつけ検査をすると案の定破水で、即入院となりました。時に10月21日午前6時30分。もう運動会どころではありません。自治会役員のみなさんごめんなさい。