平成4年ワ第2936号(原告 陳述書)


陳 述 書

平成四年(ワ)第二九三六号

          陳   述   書

原  告翠松園道路対策組合
被  告有限会社◯ ◯ ◯ ◯

  右当事者間の道路整備工事同意請求事件につき、左記の通り陳述する。

 平成 八年 八月 八日

右原告証人
翠松園会副会長(翠松園道路等整備事業専任)
横   田   英   一 

名 古 屋 地 方 裁 判 所
    民 事 第 六 部 御  中


      記

1 証人の身分
(1)翠松園会について
(1) 翠松園土地分譲開始後、翠松園に土地を購入し居住することとなった住民により組織された、所謂、町内会の呼称であり、当初は「翠松会」と称し、その後、「翠松園会」と改称された。
(2) なお、平成三年に地方自治法が改正されたことを受け、平成四年四月一九日開催の翠松園会定時総会において翠松園会規約を改正し、地方自治法第二六〇条の二第一項の規定により、同年六月一日、「地縁による団体」として名古屋市より認可を得、法人格を取得した。(甲第五号証参照)
(2)翠松園道路等整備事業専任副会長について
(1) 証人は、平成元年四月、翠松園会副会長(庶務担当)の任に就いた。
 平成元年度は、後述の名古屋市等による翠松園道路等整備事業が開始された時期に当たり、庶務の職務の外、整備事業の施行者及び住民間の調整の業務に携わった。
(2) 業務に一貫性を付するため、平成二年四月一五日開催の翠松園会定時総会において、翠松園会規約の一部(第七条 役員)を改正し、翠松園道路等整備事業に係わる業務を専任する副会長を置くこととした。
(3) 証人は、平成二年四月、翠松園会副会長(翠松園道路等整備事業専任)に就任し、現在もその任にある。
(3)翠松園会副会長(翠松園道路等整備事業専任)の職務について
   翠松園会副会長(翠松園道路等整備事業専任)の職務は、概ね、以下、(1)(2)(3)の通りである。
(1) 翠松園内道路の整備に関し
1)道路に係わる苦情或いは要望一般の処理
2)公共下水道(雨水ならびに汚水)に係わる苦情或いは要望一般の処理
3)翠松園内未解決道路敷の維持ならびに補修
4)翠松園道路等整備事業施行者、以下
 ・名古屋市土木局(路政課、建設課、維持課、測量課、守山土木事務所)
 ・名古屋市下水道局(設計課、第一工事事務所、第一管路事務所)
 ・名古屋市水道局(給水課、東配水事務所、守山業務所)
 ・守山区役所(地域振興課、農政課)
 ・東邦ガス株式会社(本管課、北部支社)
 ・中部電力株式会社(旭名東営業所)
 ・日本電信電話株式会社(名古屋東地区所外設備運営担当)
 ・及び各整備事業施工業者
 との、協議ならびに調整。
(2) 名古屋環状2号線建設に伴う諸対策に関し
1)名古屋市(土木局、計画局)
2)建設省中部地方建設局愛知国道工事事務所
3)愛知県公安委員会ならびに守山警察署
 に対する、要望或いは協議。
(3) 名古屋都市計画公園「大森公園」の整備に関し
1)名古屋市農政緑地局(緑化推進課、測量課、用地課、農業施設課)
2)守山区役所(地域振興課、農政課)
 との、協議ならびに調整。
(4)証人の立場
  右の通り、証人は、平成元年四月、翠松園会副会長の任に就いて以来、立場上、また本来の職務を遂行する上からも、翠松園道路対策組合と協同してその任に当たってきた。就中、前理事長故冨永義彦氏からは、翠松園道路問題の経緯・仔細に関し、幾多の伝聞を得てきた。
 右の立場から、以下、陳述する。

2 本件一ないし六土地の性格
(1)本件一ないし六土地は、いずれも訴状に記載し、また訴状添付図面 (1)ないし(7)に示した通りの形状であり、道路敷地である。
(2)これらは、本件土地がいずれも、訴外朝倉千代吉、谷口藤次郎が元守山町大字小幡字北山二七五八番及び同所二七七三番の土地を、「翠松園」と称する郊外住宅地として分譲するため開設した道路の一部であること。
 また、いずれの土地も、元守山町大字小幡字北山二七五八番二八二及び同所二七七三番四二の翠松園開設当初よりの道路敷地から分割され発生したこと。
 右、本件土地発生の原因及び発生の経緯よりすれば、本件土地が道路敷地であることに疑問の余地は無い。
 以上は、「第七準備書面」第二ならびに「第一〇準備書面」第一において示す通りであり、また「翠松園分譲土地区画明細図」(甲第一九号証ないし甲第二一号証)及び甲第二三号証 (1)ないし(15)ならびに甲第三一号証ないし甲第四一号証の示す通りである。
(3)本件土地は、その発生当初より道路敷地として予定され、完全な道路の形態に整備され、かつ翠松園の住民の利用に供されてきたことは、添付書面6「翠松園土地分譲御案内」(昭和三年頃の第二回翠松園土地分譲時パンフレット)掲載写真に示す通りであり、「通行権確認等反訴請求事件」判決(甲第三号証)の認容するところである。
(4)また、現に翠松園の居住者ならびに近隣住民の生活のため、一般公衆用道路として利用に供されていることは、甲第九号証の(1)ないし(7)に示す通り、地方税法の規定により固定資産税・都市計画税が非課税となっていることからも明白である。
(5)すなわち、本件土地は、甲第三号証(主文)に示された通り、通行の妨害となる建築物或いは工作物等の築造を禁止された土地であり、道路としての他に用途が無い、或いは、その用途を道路としての利用に限定された土地である。

3 地役権の性格
(1)右、本件土地発生の経緯ならびに「道路工事承諾請求裁判」判決(甲第四号証)等を勘案すれば、本件土地には、翠松園に土地を購入し居住する者が、いずれも各自の所有土地を要役地とし本件土地を承役地とする地役権が、少なくとも黙示的に設定されていること、また、その地役権の性格は通行範囲を限定された一般的な通行権ではなく、本件土地の全幅員にわたり道路敷地を道路として利用する権利、と解することが認容さるべきである。
(2)他方、道路敷地を道路として利用する内容は、時代とともに変遷し、社会の文化的成熟度を含め、技術の進歩、経済の成長等、社会発展の歴史的規定性を受けるものである。すなわち、古くは人馬の通行の用に始まりながら、現在においては人ならびに車輛等の通行の用に供されるばかりではなく、文化的な生活を保障するための動脈として、雨水排水設備、送電ならびに通信施設の設置、上水道管、下水道管、ガス管等の埋設の用にも供されているのである。と同時に、通行の安全を確保し道路を維持するため舗装が施され、ガードレール等の各種交通安全施設も設置されている。
(3)したがって、右地役権の内容には、最低限の文化的な生活を保障するための道路敷地の道路としての利用、すなわち、1)雨水排水設備及び公共下水道基幹管の設置ならびに基幹管に連結するための設備 2)上水道、都市ガスの基幹管の設置ならびに基幹管からの導入設備の設置、及び 3)側溝敷設・舗装等の道路の整備をなし得る権利も当然に包含されているというべきである。

4 名古屋市等が施行する翠松園道路等整備事業
(1)背景
(1) 本件土地を含む翠松園内の道路敷地は、訴外朝倉、谷口両名による土地分譲時より現在にいたるまで、一般公共用道路の形状を保持し、翠松園居住者の生活道路として、かつ近隣住民の一般公衆用道路として使用されてきたにも拘わらず、戦中・戦後の混乱期を経過するにいたり、登記簿上の地目が山林であることを理由に投機の対象とされ、被告等を含む数十名の者にその所有権が移転したため、右道路敷地所有者と翠松園居住者との間に紛争を起こした。
(2) しかし、左記(ア)(イ)(ウ)(エ)事件はいずれも住民側が全面的に勝訴し、(オ)事件も被告等を含む和解に反対する一部の道路敷地所有者を除き大部分は和解が成立し、原告組合員の公平なる和解金の醵出・負担によって、翠松園内道路敷地の約九〇%(平成四年現在)の所有権は、訴外名古屋市に移管されるにいたった。
(3) その結果、「翠松園道路等整備状況 」(1)ないし(5) (甲第二号証)、「小幡翠松園地区道路等整備に関する説明会資料」(甲第一一号証)、添付書面1「工事のお知らせ」ならびに添付書面8「人並みの生活見えた!」に示す通り、平成元年度より名古屋市等による翠松園道路等整備事業が施行されるにいたり、また現在も施行中である。
 (ア) 昭和三九年(ワ)第二三九一号通行権確認等反訴請求事件       (甲第三号証)
 (イ) 昭和四四年(ワ)第六八五号 上水道工事同意請求事件       (甲第二四号証)
 (ウ) 昭和五一年(ワ)第五六三号上水道工事同意請求事件     (甲第二五、二八号証)
 (エ) 平成二年(ワ)第一一〇九号道路工事承諾請求事件          (甲第四号証)
 (オ) 昭和六一年(ネ)第五九五号道路舗装工事同意請求控訴事件     (甲第一〇号証)
(2)内容
  名古屋市等が施行中の翠松園道路等整備事業の内容は、添付書面2「翠松園道路整備に関する説明会開催の御案内」、添付書面3「翠松園道路等整備事業についてのお知らせ」及び「小幡翠松園地区道路等整備に関する説明会資料」(甲第一一号証)に示す通りであり、概ね、以下の順序で施工されている。
  1)各種地下埋設管敷設のための上水道管移設工事
  2)排水管(雨水管)敷設工事
  3)下水道本管(汚水管)及び取付管敷設工事
  4)都市ガス本管及び供給管敷設工事
  5)上水道本管及び給水管敷設工事
  6)道路境界確定のための測量ならびに境界立会
  7)側溝敷設工事
  8)電柱(電気ならびに電話)移設工事及び架線工事
  9)舗装工事ならびに土留工事及び階段設置工事
 10)街路灯設置等交通安全施設設置工事
(3)本訴との関連
(1) 平成八年三月三一日現在での名古屋市等による翠松園道路等整備事業の進捗度は、添付書面4「翠松園道路等整備状況」の(1)及び添付書面5「翠松園道路等整備状況説明図」(1)ないし(4)に示す通りである。
(2) 翠松園地区における公共下水道は、雨水については側溝及び雨水管で排水し、また汚水については汚水管で排水をする分流式である。
 排水方法に関してはいずれも自然の高低差を利用する自然流下方式であり、流域区分及び排水系統については、甲第一一号証一頁ならびに甲第四四号証「小幡翠松園地区流域区分図」に示す通りである。図中、一点鎖線は流域界を、破線矢印及び実線矢印は、各々雨水管及び側溝の排水系統ならびに排水方向を示している。
(3) 排水を自然流下方式に拠るため、排水系統ならびに排水方向が示す通り、現状(平成七年三月三一日現在)では、
1)本件土地に汚水管の敷設ができないばかりではなく、
2)本件一土地(前被告 株式会社さいとう所有)、本件四土地(前被告 丹羽 誠所有)、本件五土地(前被告 亀澤大八郎、竹下一男、三光住宅株式会社所有)等の道路敷地に接続し上流域に位置する公道部分(前記図中、A流域の大半及びC流域ならびにD流域の一部)においても、汚水管の敷設が不可能となっている。
以上は、添付書面7の(1)に示す通りである。
3)また、添付書面7の(2) に明示する通り、雨水管についても同様であり、本件一土地、本件五土地、本件六土地(被告 有限会社◯◯◯◯所有)に雨水管の敷設ができないことによって、これらの道路敷地に接続し上流域に位置する公道部分(前記図中、A流域ならびにD流域の一部)においても雨水管の敷設が不可能となっている。
(4) すなわち、これら本件土地に接続する公道部分における広範囲な流域の居住者は、民法第二二〇条に定める[余水排泄権]の正当な行使を妨げられているのみならず、右(2)に示した通り、構造上、1)雨水管敷設 2)汚水管敷設 3)都市ガス本管敷設 4)舗装等の順に工事を実施するため、本件土地の未整備に起因して、公共下水道の利用を含め、都市ガスならびに舗装等、整備事業の成果を享受することが不可能となっている。
(5) よって、道路敷地所有者との間に生じた紛争を解決し翠松園内道路敷地公道化のため、公平に前記和解金を負担してきたにも拘わらず、被告等所有の道路敷地沿線居住者たる組合員ならびに当該道路敷地に接続する広範囲な公道部沿線居住者たる組合員は、名古屋市等による整備事業の施行が不可能なため、劣悪で非衛生的・非文化的な生活を余儀なくされる結果となり、既に整備事業が施行され、安全な舗装道路、公共下水道、都市ガス等の利用が可能となった組合員との間に、著しく不公平な事態を惹起するにいたっている。
(6) したがって、公平の原則に鑑み、また、現に名古屋市等が施行中の翠松園道路等整備事業との均衡上からも、原告は、名古屋市等が施行する翠松園道路等整備事業と同程度の整備事業の施行を訴外名古屋市等に要望するものである。
(7) しかるに訴外名古屋市は、「名古屋市私道整備要綱」(甲第一三号証)ならびに「私道における公共下水道設置要綱」(甲第一四号証)の規定により、整備事業施行の前提として本件土地の所有者たる被告等の承諾を要求し、また訴外東邦ガス株式会社も同様に都市ガス導入施設設置の前提として本件土地所有者たる被告等の承諾を要求しているので、原告はやむなく本訴において承諾を請求する次第である。
(8) 以上を考慮すれば、黙示の通行地役権或いは囲繞地通行権の非限定的な解釈、或いは下水道法第一一条の類推適用が認容されるべきである。
(9) なお付記すれば、添付書面4の(2) に示す、平成五年度中に敷設された汚水管五五都市ガス本管六二mは、いずれも、守山区大字小幡字北山二七五八番七二三の道路敷地に敷設されたものであり、当該道路敷地においては、併せて側溝敷設ならびに舗装工事を含む道路整備事業も施行されたが、これらはいずれも、平成二年(ワ)第一一〇九号「道路工事承諾請求事件」確定判決(甲第四号証)に基づいて施行されたものである。

5 本訴請求の正当性
(1)原告組合員は、いずれも各自の所有土地を要役地とし本件土地を承役地とする地役権を有している者であるとともに、名古屋市の市民であり、また日本国の国民である。したがって、日本国憲法第二五条に定められた、『健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する』者である。
 したがって、右記のような諸事情を考慮すれば、原告組合員が名古屋市の市民として、かつ日本国の国民として、近代都市生活において最低限の文化的要件である、雨水排水設備、公共下水道、都市ガス等の施設利用の権利を有する者であり、その権利に基づき、翠松園道路等整備事業と同程度の整備事業を本件土地において施行するよう名古屋市等に要望することはその権利の正当な行使というべきである。
 また、当該地役権に基づき、整備事業施行の前提たる被告等の施行承諾を請求することは、何ら非難さるべきことではなく、正当性を有することは明白である。
 添付書面8『中日新聞』見出し「人並みの生活見えた!」は、近代都市生活において最低限の文化的要件を簡潔に示している。原告は、正に「人並みの生活」を要望しているのである。
(2)被告等の所有権の対象が一般的な「財」ではなく「土地」である以上、その所有権の行使に当たっては、『土地についての基本理念を定め』た土地基本法の制約を受けるものである。
 すなわち、被告等が本件土地の諸事情を知悉しながら、原告の請求に異議を申し立て、部分的な和解をも拒み、或いは時価での購入、或いは代替地の申し出をなすことは、土地基本法第二条「土地についての公共の福祉優先」の精神に反すといわざるをえない。
(3)また、本件土地が通行権(黙示の通行地役権或いは囲繞地通行権)の認められた道路敷地であること、ならびに右の諸事情を勘案すれば、囲繞地通行権の限定的な解釈を理由に原告の主張を退けようとすることは、正に権利の濫用にあたり、到底認容さるべきではない。

6 翠松園道路問題の現況と本件との関連
(1)A流域居住者の特殊事情
(1) 添付書面9「仮舗装工事についてのお知らせ」に示す通り、名古屋市に移管された道路敷の大部分において、翠松園道路等整備事業に先立ち、名古屋市による仮舗装が実施された。
(2) 他方、当時の未解決道路敷の大半(既に、沿線居住者の手により簡易舗装がなされていた一部の箇所を除く)は、未舗装のまま残されたため、降雨時の泥濘化、乾燥時の塵埃化が甚だしく、前記和解金を等しく負担した住民間に著しい不公平感を惹起することとなった。
(3) 右事情の下、未解決道路敷沿線居住者より強くその対策方要望が寄せられたのを受け、未解決道路敷の内車輌等の利用頻度が高く、日常生活を維持する上で最低限必要と思われる箇所に限り、防塵を主たる目的とし、平成二年五月末、翠松園会が応急的に仮舗装を実施した。
(4) これに対し、本件五土地の当時の所有者(栗木 章)は、近隣住民を含め、翠松園会ならびに翠松園道路対策組合への威嚇を始め、平成二年一〇月二三日、
『私有道路に付き 無断で舗装したため 平成2年11月15日に元の道路にします 地主 栗木』
と表記した看板を設置した。
(5) 同看板の設置を始め、住民ならびに関係者に対する威嚇を強めるとともに、平成二年一一月一五日、前所有者(前被告)竹下一男と共謀の上、重機を導入し前記仮舗装を剥奪する暴挙に及んだ。
(6) また、両名は、同年一一月二一日、重機とともにコンクリート・パイルを持ち込み、通行妨害を企図した上、同年一二月一一日には、
『この道路は私有道路であり、この道路を無断にて使用するべからず。 地主 栗木・竹下』
と表記した看板を設置した。
((4)(5)(6)については、添付書面10「写真(写)」(1)ないし(4)参照)
(7) さらに栗木は、同年一二月、近隣住民ならびに名古屋市水道局に対し、水道本管破壊の意志表示をし、脅迫を加えた。
(8) A流域の居住者、就中、本件五土地沿線の居住者は、かかる道路敷所有者の威嚇の下、不安で恐怖に満ちた日常生活を余儀なくされたのである。
(9) したがって、これらA流域の居住者が、本件道路問題の解決に寄せる期待には、切実なものがある。正に、一日も早く『人並みの生活』が可能となることを、一日千秋の思いで、待ち望んでいるのである。
(2)本件と今後の翠松園道路等整備計画の関連
(1) 本件三土地については平成八年二月二〇日、本件一土地については同年三月一二日、本件四土地については同年三月一九日、また本件五土地についても同年六月一二日に被告との間で和解が成立し、いずれの道路敷地もその所有権は訴外名古屋市に移転され公道化が実現した。
 以上の結果、翠松園内全道路敷の内、九九・八%が解決済みとなり、添付書面11「翠松園道路等整備計画説明図」(1)ないし(4)に示す通り、翠松園道路等整備事業が引き続き施行される予定である。
(2) 雨水管は構造上、道路中央の最深部に埋設されるため、汚水管、ガス管、水道管等の地下埋設管に先行して埋設される。
(3) 従って、前記A流域の流末に位置する本件六土地への雨水管の敷設が現状では不可能なことに起因し、A流域の道路等整備の前提となる埋設構造物(雨水管、汚水管、ガス管)の敷設工事ならびに側溝敷設、舗装等の道路整備工事が不可能となることは、添付書面11(1)ないし(4)に明らかな通りである。
(4) この結果、A流域居住者(約四〇世帯弱)は、沿線道路が既に解決済みであり、公道であるにも拘わらず、公共下水道の利用を含め、翠松園道路等整備事業の恩恵に浴することができず、依然として従前の劣悪な環境下での生活を強いられるのである。

7 被告抗弁に対する反論
(1)前被告株式会社さいとうについて
  前被告株式会社さいとうは、平成五年六月二五日付「第二準備書面」において、「昭和二年当時に『下水は存在しなかったのであるから、当時設定された通行地役権に、原告主張のような内容が含まれるはずがない。」旨、主張しているが、これらはいずれも事実に反する。
 昭和二年頃名古屋市において、上水道、下水道、都市ガス等の諸設備が既に存在していたことは、左に示す通りである。
(ア) 上水道について
 名古屋市における水道事業は、明治二六年、当時の内務省衛生局雇工師、英国人W・Kバルトン氏に給水工事の調査を委嘱したのに始まり、明治三五年愛知県技師上田敏郎氏に水道敷設計画を委嘱、同計画は、明治四一年二月内務大臣の認可を得て、同四三年に工事に着手、大正三年三月その主要施設が完工し、同年九月鍋屋上野浄水場から、名古屋市で初めて近代的な水道として市内へ給水を開始した。
(平成六年三月 名古屋市発行『市政94』より、要約)
(イ) 下水道について
 名古屋市における下水道事業は、明治二六年、同右、W・Kバルトン氏に調査を委嘱したのに始まり、明治三五年、同右、上田敏郎氏に委嘱して計画を作成し、明治四一年二月内務大臣の認可を得て、工事着手、大正一二年三月に工事を完了し、当時の市街地のほぼ全域に下水道の敷設を終えた。
(平成六年三月 名古屋市発行『市政94』より、要約)
(ウ) 都市ガスについて
 名古屋市における都市ガス事業は、東邦ガス株式会社の前身、名古屋ガスが明治三九年一一月に誕生したのに始まり、大正一一年二月関西電気との合併を経て、大正一一年六月東邦ガスが発足し、同年九月末のガス供給区域は、名古屋市、西枇杷島町、新川町の一市二町であった。
(平成五年三月一五日 東邦ガス株式会社発行『最近10年の歩み・1992』より、要約)
(2)被告有限会社◯◯◯◯について
(1) 被告有限会社◯◯◯◯は、一九九五年七月二四日付「準備書面」中、一の第2項(2) において、『本件土地を道路として利用しなければならない必要性が全く認められないことは、その位置関係より明らかである。』旨主張するが、
1) 甲第四三号証「写真」(1)ないし(13) ならびに添付「A流域流末排水系統図」に示す通り、現在、A流域の生活排水及び雨水排水は、U字溝・素堀側溝等の排水手段によって集水され、本件土地を経由し、県有地(愛知県都市公園「小幡緑地」)内に設置された雨水桝を介し、排水管を経て、流域外へなされている。
2) また、本件土地付近に居住する中村幡成氏に拠れば、
 甲第四三号証(12)に示す、「小幡緑地」公園内道路は、公園整備に伴い盛土により新設されたものであり、以前は、A流域の生活排水及び雨水排水は、本件土地を経由し、何ら障碍もなく自然に流域外へ排水されていた。
 甲第四三号証(12)(13)ならびに添付「A流域流末排水系統図」に示す、県有地内排水桝及び排水管は、従前からのA流域の排水を阻害しないよう、公園内道路新設に際し設置され、現在にいたっている。
3) 右の事実は、本件土地が近隣住民の生活のため少なくとも、排水路として利用に供されてきたこと、また現に利用に供されていることを示している。
 すなわち、本件土地を少なくとも、雨水管埋設のための道路敷地として利用しなければならない必要性は、右1)2)及び甲第四四号証「小幡翠松園地区流域区分図」に示す通り、本件土地がA流域の最低地に位置し、また流域外への排水経路に位置する、その位置関係より明らかである。
(2) 被告有限会社◯◯◯◯は、乙ハ第3号証を根拠に本件六土地が道路敷地ではない旨主張するが、被告は、本件土地を競落するに際し、少なくとも
1) 本件土地が、右乙ハ第3号証中執行官の意見第一項に示された通り、上水道工事同意事件確定判決の対象地であり、現に水道本管が埋設されているか、もしくは将来埋設される可能性のあること
2) 本件土地には、右乙ハ第3号証中『受命物件の占有関係についての調査結果』及び「評価書」(乙ハ第5号証)に示された通り、U字溝ならびに排水桝等の水路が存在し、現に近隣に居住する住民によって、生活排水ならびに雨水排水のため利用され、またその維持管理がなされていること
3) 本件土地には、右乙ハ第3号証中『関係人の陳述』に示された通り、本件土地を道路敷地と看做している利害関係者(近隣に居住する住民を含む翠松園道路対策組合)の存すること
4) 本件土地は、都市計画法に定める第一種住居専用地域に位置し、建坪率ならびに容積率はそれぞれ四〇%と六〇%であり、また家屋の建築に際しては隣地境界よりの壁面後退は一mを要することを知悉の上で、すなわち、本件土地には何らかの意味で、問題或いは瑕疵があり、家屋の建築等、通常の形態での土地利用は不可能であることを承知の上、土地基本法第四条「投機投機的取引の抑制」の精神に反し、投機を目的として取得したと断ぜざるを得ない。
 自らの投機失敗の責は、被告自らが負うべきである。
(3) また、本件土地は、甲第九号証の(7) に示す通り、公衆用道路として、地方税法の規定により固定資産税・都市計画税が非課税となっている。
 しかるに、被告は本件土地を取得後この事実を知りながら、本件土地を公衆用道路として扱う決定に不服申立てをしてはいない。また、この決定を不服とし固定資産税・都市計画税を納付或いは供託した事実も無い。
 したがって、被告有限会社◯◯◯◯は、その主張にも拘わらず、本件土地が事実上道路敷地であることを自ら認めているに等しい。


      添  付  書  面

 1  「工事のお知らせ
                      (名古屋市 守山土木事務所長)

 2  「翠松園道路整備に関する説明会開催の御案内
                      (平成元年一〇月五日附)

 3  「翠松園道路等整備事業についてのお知らせ
                      (平成元年一一月二五日附)

 4  「翠松園道路等整備状況」(1)(2)
                      (平成八年・平成六年三月三一日現在)

 5  「翠松園道路等整備状況説明図」(1)ないし(4)
                      (平成八年三月三一日現在)

 6  「翠松園土地分譲御案内
                      (翠松園第二回分譲時パンフレット)

 7  「翠松園道路等整備状況説明図」(1)ないし(4)
                      (平成七年三月三一日現在)

 8  「人並みの生活見えた!
                      (平成二年二月一一日附『中日新聞』)

 9  「仮舗装工事についてのお知らせ
                      (平成元年六月三〇日附)

10  「写真(写)」(1)ないし(4) 
                      (平成二年一〇月・一一月撮影)

11  「翠松園道路等整備計画説明図」(1)ないし(4)
                      (平成八年七月三一日現在)

註:当事者からの申し入れにより、当事者名の一部については匿名としました。


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