いつもの視線に君が居て呼吸が出来る
なのに
ちっぽけな僕は繰り返す 過ちばかりで
だけど あの日失った愛情をもう1度手にできるなら
消せない罪背負ってこの手にした愛を抱きしめて、迷わずに生きてゆくよ
処何にも成らなくたって それでも必ず君をこの手で守り続ける
手を結ぶ体温がずっと溶け合うように
<1>
ファルマン
【兄ちゃん】
そう呼ばれるたび、俺は柔かく笑い返した。そうすれば母さんが褒めてくれるからだ。
母さんは世界一優しくて、綺麗で。
母さんさえ居てくれれば、他の家族なんて要らなかった。
【いいの?アルを放っておいて。泣きそうだよ!?】
ひとりっこのウィンリィには分からないんだ。
アルが生まれるまでは、母さんは俺だけのものだった。遊んでくれることは少なかったけど、父さんだってちゃんと家に居た。
なのに。アルが生まれ、母さんはアルに付きっ切りになった。
【そんなこと無いじゃないか。アルのおしめを変えながらも、トリシャはいつだってお前も見つめていたよ。】
そんなのっ‥今までは母さんは俺のことを優先してくれたんだから。それに、アルが生まれて間もなく父さんは出て行ってしまった。
【それはアルのせいじゃないだろう!?】
父さんが出て行ってから、母さんは悲しそうな顔をする。アルが生まれなければ父さんは出て行かなかったかもしれない。母さんは悲しまなかったかもしれないじゃないか!
【ホーエンハイムはいずれ出て行っただろうよ。根っからの錬金術師だからね。確かにトリシャは悲しかっただろうけど、お前達が居たから寂しくは無かったさ。特にエドは父親似だから。】
あいつに似てるなんてっ!ああ、でも。俺が父さんに似ていて母さんが寂しくないなら、やっぱりアルは要らないじゃないか。
【小さいお前にはまだわからないかもしれないねぇ。】
ばっちゃんの話はすぐに忘れた。俺には父さんが出て行った分、母さんを助けたり、錬金術を勉強して喜ばせたり、やることがたくさんあるから。
【エド、いい加減にしないとアルはおばさんに言いつけるかもしれないわよ。】
責めるような眼で俺を見るウィンリィに、俺は余裕を見せた。
【アルッ。】
名前を呼べば嬉しそうにトコトコ近寄ってくる、螺子の緩い厄介者。
【母さんに泣きついたら、仲間外れだからな!】
【仲間‥外れ?】
【ちょっと、エドっ】
ウィンリィが口を挟もうとするとの遮り、俺は仁王立ちで見下ろした。
【口も利かないし、一緒に遊ばないって事!】
【嫌いになるってこと?】
男の癖にもう目を潤ませてる、チビ。
【お前なんか、とっくに嫌いだぜ。】
子供は嫌いという言葉に敏感だ。アルが俯くとポタポタと涙が足元に落ちた。
【エドッ】
ウィンリィの非難が煩わしくて、声をあげる事も口答えする事も無く、ただ涙を流し続けるアルが鬱陶しくて
【行こうぜ、ウィンリィ。】
【でも!】
【いいから!】
ウィンリィはアルを気にしていたが、俺に付いて来た。その後散々ウィンリィに文句を言われたが、ついて来たって事は、ウィンリィだってアルを邪魔だと思っていたに違いない。
アルフォンスの日記より
今日から僕はこのノートにを通して自分と向き合おうと思います。それは、兄ちゃん大好きな人に嫌いと言われたからです。僕の家にはお父さんが居ません。僕は良く覚えてなくてもお父さんが好きだけど、お父さんは僕が嫌いで家を出てしまいました。そう兄ちゃんが言ってました。
僕の好きな人が全て僕を好きなわけじゃない。悲しいけど。僕を嫌いな理由が僕には分らないから、このノートに書きとめて何が悪いのか、知りたいと思います。それで、ひとりでも僕を好きになってくれたらいいなぁ。
アルフォンスの日記より
今日、ウィンリィが僕を可哀想だと言って兄ちゃんとケンカしました。ウィンリィは泣いて帰って、僕は‥。えっと、僕は止める事ができませんでした。兄ちゃんは僕のせいでケンカになったって恐い顔でどこかへ走っていっちゃって‥うんと、どんなに怒っても僕を殴らない兄ちゃんを手本にしなくちゃ。えと、それでウィンリィに謝りに行ったけど、会ってくれませんでした。ごめんなさい、兄ちゃん。ごめんなさい、ウィンリィ。
アルフォンスの日記より
僕にできる事はなんだろう。大きくなったら僕は何になるんだろう。
アルフォンスの日記より
お父さんの本はスゴイ。メモやノートもスゴイ。いろんな事が書いてある。読めない字を聞きに行ったら、お母さんが心配そうな顔をした。今度からは自分で調べなくちゃ。でないと、兄ちゃんにもっと嫌われちゃう。
純粋にエドアルを読みたい方はファルマンの書いた奇数頁(内容文色赤表記)のみお読み下さい。なお、ぶっらくぶらっく仕立てとなっております。お気をつけて。