「母さん!」
「エド?エドワード!」
錬成陣の中央に帰って来た母さんは、思い出の通りで。優しく俺を抱締めた。
「母さん‥」
「どうしたの?エド。何を泣いているの?貴方に泣かれたら母さんも悲しいわ。」
「いろいろ‥いろいろだよ、でも、もういいんだ。母さんが帰ってきてさえくれれば!」
「帰るって‥どう言う事?母さんが貴方を置いて、どこかに行くわけないじゃないの。」
「うん。これからはずっと一緒だよ。そうだ、母さん、お腹空いてない?俺、料理できるようになったんだ。家に入ろう。」
母さんを促して父さんの研究室から出ようと扉に手をかけた。
「!」
そこで俺はやっと、アルも居た事に気付いた。母さんも俺の視線を追って、アルに気付く。
だが母さんは、アルを呼ばなかった。声すらかけない。
そしてアルも。
なんの感情も持たないガラスのような瞳で俺と母さんを見る、いや、眺めるって感じで、すぐ視線を外すと研究室の中を片し始めた。
「エド?」
アルを見つめる俺に眉を寄せ、母さんは俺の手を握る腕に力を込めた。
「あ、ううん。えっと。先、行ってて。すぐ行くから。」
不安そうな母さんに再度お願いをすると、しぶしぶと母さんは家の中へ入っていった。そして俺は
「おい、アル。」
俺の呼びかけにも手を止めず、アルは散らばった本やノートの興味があるところだけ拾い上げる。
「おいっアル!」
そして机の上でトントンと整えた後、アルは俺の方へ、いや扉へと近付いてきた。
俺の脇をすり抜け、家に入ろうとするその腕を、俺は掴んだ。
「なにシカトしてんだよっ」
アルは持っていた資料を脇に挟むと、掴まれてない方の手で静かに俺の手を外した。
「アルッ!」
「僕はひとりで生きて行けるから。」
「フザケんなっ。なに生意気言ってんだよっ。」
「さよなら、兄さん。」
冷たい瞳。無表情な瞳。俺を見ていない、映さない瞳。
ドクッ
心臓が嫌な音を立て始める。頭がガンガンして、額が脈打つ。冷たい汗が噴出して、息が上手くできない。
見慣れたズックが遠ざかって、世界は暗転した。
いつもの視線に君が居て呼吸が出来る
なのに
ちっぽけな僕は繰り返す 過ちばかりで
だけど あの日失った愛情をもう1度手にできるなら
消せない罪背負ってこの手にした愛を抱きしめて、迷わずに生きてゆくよ
処何にも成らなくたって それでも必ず君をこの手で守り続ける
手を結ぶ体温がずっと溶け合うように
<5>
ファルマン
純粋にエドアルを読みたい方はファルマンの書いた奇数頁(内容文色赤表記)のみお読み下さい。なお、ぶっらくぶらっく仕立てとなっております。お気をつけて。